父編 3年
「懐かしいなぁ…」
僕はウィスキーを飲みながら、アルバムをめくる。
もっとも、アルバムといっても、魔法で自分の思い出を写しながらめくっているだけのものである。
「これは、リディアが噴水に頭をぶつけた日だな…」
いつもなら少しの怪我だけでも、大泣きするあの子が、その日は目をぱちくりさせながら気絶した。思えばあの時からおかしかったのかもしれない。
「あぁこれは勝手に外に行った後か」
そこには男の子のような格好と、真っ黒な狼を連れた娘が写っている。あの時は驚いたなぁ…。リディアが男として、ヴァイスとして生きたくなったのはこの時かなぁ…。あの時、監禁なんてしなければ、娘はまだ、娘のままだったのかもしれないと、あれから4年たった今でも思う。
その後のあの悲劇も無かったのかと。
「クソ親父」
あの時そう言われた時、鈍器で殴られ、剣で滅多刺しにされたかのような感覚におちいった。あまりの事に呆然として、事の深刻さに気づいたのはリディアが帰ってこないと気づいた後だった。
「懐かしいなぁ…あの時は街の宿屋に泊り込みで探したっけ」
ボロボロになった頃。髪の毛が短くなり、まるで男の子のようなリディアに会った。
「初めて見たときはびっくりしたよ…髪の毛はショックだったなぁ…」
それからは色々あった。すべてが懐かしく感じる。
「あぁこれはリディアがツバキを連れてきたとき、これは婚約者ができたとき…」
リディアがツバキ達を雇ってからこの家は騒がしくなった。
「ははっ。これは、マリ君とレオの料理対決の時か。両方美味しかったが、ルイ君が来て結局ルイ君が勝っちゃったんだよな~」
「あら? あなた何見ていらっしゃるの?」
妻がそばによってくる。
「これかい? 昔の思い出だよ」
「懐かしいですわね。これはあの子達が初めてモンスターと戦って負けてきた夜ですわね」
それは、息子達とマリ君、フィラ君がパーティを初めて組んで、レベル的には子供にしては強いのに、スライムにボロ負けにされて来た日のだった。
4人ともボロボロだったが、特にマリ君とレオがムスッとして、そっぽを向いている。次の瞬間に大喧嘩した。
「あの2人は本当に似た者同士だねぇ」
「そうですわね。でも、レオは昔より伸び伸びできているようですわ」
確かに、昔から時々凄い事をやらかすが、普段は大人っぽく振る舞っているレオがあそこまで子供っぽく大声で喧嘩するのはマリだけで、だんだんと、微笑ましいものに見えてくる。
「リディアも明日で12歳か…」
そう、明日はリディアの12歳の誕生日。ついにリディアも貴族の一員としての、身分証明を作る時が来たのだ。
「早いものですわね。レオもシオも今年から中等部に入学して寮ですし、来年から皆いなくなると思うと寂しいですわね」
本当に寂しく感じる。レオとシオは今年から中等部に入学したが、その際のお付きが、マリ君とフィラ君になった。形式上マリ君とフィラ君はツバキ専属だったのだが、どうせなら入学させようと言った時に、レオとシオの1個下に入学は嫌だと直談判に来たのだ。そこで、本当は1歳上なのだが、どうせなので同い年として入学する事になった。
1年間パーティを組んでいたので負けられない思いがあったのだろう。まぁ、入ってしまえば飛び級もできる学校だ。留年もあるので大丈夫だろう。しかし、騒がしい子達が4人もいなくなったので、少し寂しい。
「あら、これですわ。入学式の日4人とも不機嫌ですわね」
「ふふっどうせだからと思って4人部屋にしてあげたら凄い嫌がってたね。うまくやってるかなぁ…?」
「大丈夫ですわよ。皆もう、総合Dランクですと連絡がありましたわ」
「もう? はやいなぁ…」
マリ君とフィラ君は冒険者としては元々Dランクだったのだが、学園に入学したとき、使用人ランクは最低のFランクだったのに…。
学園は貴族の使用人も受け入れている代わりに、合同授業とは別に、貴族学と執事・メイド学があり、貴族学では貴族たる由来から振る舞いまで、執事・メイド学では1流の使用人になるた為の振る舞いからオールマイティにできるように学べる。
しかし、それだけ厳しく、中等部から高等部までて、最近ではどちらもBランクが支流となっている。
もちろん、校外活動として、冒険者の依頼もこなせるので、冒険者ランクも上げることができるので、総合Dと言うことは、どちらもDランクなのだろう。
「僕の子達は天才だねぇ」
もちろんマリ君とフィラ君も含めて、である。
「私達も天才と言われて、Aランクですけど、こされてしまいまいそうですわね」
Sランクなど誰もが憧れる夢である。
「SSランクになったらどうします??」
「それは、夢みすぎだろう」
SSランクとは本職がSランクで、副職も全部Sの事を合わせてSランクが2つ以上と意味を込めて呼ばれる称号で、副職は何個でも選べるのだが、1個でもSでなければSSと呼ばれることはない。ちなみに、3つ以上Sの事をSSSランクと呼ぶ事もあり、昔僕も憧れた。
まぁ、結果としては、ABランク止まりである。貴族としてはA、副職パラディンとしてはBだ。そんな僕だから、息子達がSSになったら嬉しいが、無理はさせたくない。
「そう? あの子達はいける様な気がしますわ。もちろんリディア達も。だって私達の息子ですもの。」
妻のあまりにも自身のある発言に息子と娘、そしてその使用人達が、皆SSランクまで行くところを想像する。不覚にも想像できてしまった。
「そうだね。君の子だもの。行けるさ」
皆の輝かしい未来と姿を思い浮かべながら、明日のリディアとツバキのカードの、鑑定防止対策に付いて考える。いくら考えても浮かばないが、なぜか上手く行く気がしている。
「さて、続きを見ようか?」
「えぇ、明日には誕生日ですものね」
そうして妻と写真を見ながら夜が老けていくのであった。
「やっぱりシュヴァちゃんは大きくなってるわね~」
「今やクマ並みだけど、どうやって学園に付いていくのかな?」
「あなた知らないの? シュヴァちゃん男の子になれるのよ?」
「ま、まさか…」
「そのうち娘をくださいとか来るかもね」
「…シュヴァ君よりはルイ君に言われた方がいい」
「あら? そんなこと言って、ルイ君も来るわよ。ほらこのお茶入れてる時とか、ルイ君の目、完全に狙ってるわよ。」
「…どちらにもあげないよ。リディアは男として生きたのだろう? きっと大丈夫さ」
「ふふっ。女の子扱いされてたらコロッと行っちゃうわよ」
二章ではヴァイスは12歳まで成長してます




