フィラ編 1年半
僕らがこの屋敷に来て、あの秘密を聞いてからもうすぐ1年と半年がたとうとしています。
「フィラ~そっち終わったか?」
「食器準備しときました」
「了解! お茶入れるから、そっちのお菓子ツバキにもっていってくれ」
「かしこまりました」
コツコツコツと音がなるこの靴にもだいぶ慣れ、今ではツバキの執事と護衛としての地位にいると、自負しています。本当は2人共その役割なのですが、最近では僕が執事、マリが護衛みたいな役割になっています。
しかし、僕はお菓子もお茶も入れる才能がなかったらしく、そちらはマリの担当です。僕は水が出せるので、準備は手伝うのですが、入れるのは上手ではないので、才能とは不思議なものですね。
そして、僕らの妹ツバキは本当のお嬢様ではありません。しかし、お屋敷に住んでいます。なぜかと言われますと、リディアという女の子の振りをしている影武者だからです。僕等は皆ヴァイス様に雇われてここにいます。
初めてここに来たときはそれはもう嬉しく思いました。妹がお姫様になって喜ばない兄はいないでしょう。しかも、その妹を守る騎士の様な仕事。それだけで、厳しい修行も耐えて来られたものです。これ以上の幸せがあるかと、ここは天国とさえ思いました。
あの日…シュヴァ様からリディア様と同一人物だと聞かされるまでは。あの時は感情で動いてしまい、お恥ずかしながら、主人に向かって許さないと言ってしまいました。普通ならそこでクビになってもおかしくありません。
しかし、我が主は「それでいいと」仰ってくださいました。あの時の感動と憧れは今でも覚えております。主人になりたくないともおっしゃっていましたが、あの後から私はふさわしい従者であれるよう言葉遣いを勉強したものです。
僕はその日、マリは初めてのお茶会を覗いたらしく、その日からヴァイス様にふさわしい従者を目指しております。もちろん妹のツバキが1番なのは今でも変わりません。しかし、主人はあの人だけがいいと思います。
マリに至っては、友達や、兄でもいられるようにわざと敬語を使わずにいるようですが、僕らの兄によく怒られております。
「あれあれ~? フィラじゃん」
後ろから不快な声が聞こえ、思わず立ち止まってします。
「シオルド様いががいたしましたか?」
「べっつに~見かけたから声をかけただけ。あ、そのクッキー1つもらうね」
シオルド様はそのままヒョイッとクッキーを食べました。
「ふ~ん マリも腕を上げたな」
「あたりまえです」
マリの努力は誰よりも僕が知っています。
「ま、なんでもいいけど、レオが台所向かったよ~」
シオルド様はそれだけおっしゃって、手を降って何処かへ行ってしまった。
「相変わらず食えないやつ」
心で言ったつもりだったが、声に出してしまったようです。あの日以来僕達と双子の中は悪いのだが、僕は特にシオルドが気に食わないのです。理由はわかっております。
言葉遣いや、態度はレオルバ様の方が僕と似ているのだが、本質はシオルド様の方が似ているので同族嫌悪みたいなものでしょう。
それより、台所に向かわねばなりません。シオルド様と僕は態度に出さずにアイコンタクトでバチバチやるのですが、僕の相方とレオルバ様はガッツリ喧嘩するのです。
「はぁ…」
今回はどんな喧嘩でしょう。止める方にもなっていただきたい。相手が気に入らないからって毎度毎度…。
前は確かお互いの目でしたっけ? その前はどっちの方が料理が上手いとか…。
レオルバ様はそんな事しなくてもいいのに、シスコンであらせられますので、ヴァイス様専属の僕らの兄と張り合っています。そのため、料理やお茶を極めにかかっているのです。なので、余計にブラコンかつシスコンのマリとは合わないようで…。
始まりは、僕達の妹を犠牲にしてもいいとか言われた事でしたが、今となればそんなの言い訳で、喧嘩すら楽しそうに見えてきます。
はぁ…。僕達は、冒険者カードを発行した時に、シルヴィア家の文証を入れてもらったため、カードにシルヴィア家の使用人と入っているのに…。主人の家族と喧嘩してどうするのでしょうか?
それに、あと半年で双子も貴族カードが発行されますので、レベルアップしたいとか言い出したら、年が近い僕達はパーティを組むことになるのでしょうが、大丈夫でしょうか?
ここに来て、様々な楽しみを知りましたが、大変な事も増えた気がします。考えすぎてだんだん頭が痛くなってまいりましたが、とりあえず早く台所に向かわなくては…。




