31 レッツ狩り
「そうじゃ、おぬしこれから試し引きにいくじゃろ?」
「もちろん!!」
専用武器もらってワクワクしない方が嘘だろ?
もちろん今から試しにいく予定だ。だって興奮が収まらないし。
「わし、りんごが食べたい」
「は?」
「おぬしの事じゃて、どうせモンスター狩るんだーレベルアップだーと言う事は目に見えておるのじゃ」
ドキッとした。確かに、俺はスライム狩りしようと思っていたからだ。
「しかし、防具もない、魔力もない。友達もいない。ないないばっかりのぬしにモンスターははやいのじゃ」
「友達はいるわ!!」
あと2つは本当に無いから否定できない。
「僕も早いと思うな」
ルイにまで言われた。せっかく作ってもらったのにモンスターNGでレベルアップできないとか…意味ないじゃん!
「じゃぁどうすればいいんだよ!」
「だから、わし今日はりんごが食べたい気分じゃ」
「はぁ??」
またりんごかよ。商店街で買ってこればいいじゃないか。それとも俺に買って来いっていってるのか?
「なるほど…ふふっ。ドワルフさんも策士ですね」
忘れてたけど、ドワじぃって本名ドワルフだったっけ。俺はすっかりドワーフのじぃさんで覚えてしまっていたよ。
「なんだよ! 二人して、りんごがなんなんだ?」
また俺だけ置いてけぼりくらっている。俺そんなに察し力低いのかな?
色々と自身なくなっていくよ。悲しい。
「ドワルフさんはそれで、りんごを取ってこいって言ってるんだよ」
ルイにそれと言われた物は俺の弓だった。
「りんごを? 弓で?」
「そうじゃ。りんごの果梗だけに矢を当てれば落ちるじゃろう? 綺麗な物をよろしく頼むでの。食べれるものでよろしくなのじゃ」
なるほど、茎みたいなところに矢を当てて、りんごを落とせってことか。にやりっと笑みが溢れる。
「ちなみに、落としたものが、地面につく前に拾わないと潰れちゃうからダッシュも必要になるよ」
え、そこは下で待機してくれないんだ。きびしいかよ。
「ほれ!さっさと行くのじゃ」
ドワじぃに追い出され、ルイとシュヴァを連れてりんごの木を探す。
「あったの~」
シュヴァが指す方向にそれらしいものは見えない。
「何もないけど?」
「あるの~!!」
「僕らにはわからない野生的な何かかもしれないし、行ってみようか」
しばらく歩くと、立派な木が見えた。俺の身長の5倍ぐらいの木で、ルイに肩車されても届かないだろうとわかる。りんごの木は赤くつややかなりんごが沢山なっていた。
「そ、想像よりでかい…」
「そう? こんなもんじゃないかな?」
「りんごー!」
とりあえず、弓を構え矢羽が両方黒い矢を1本抜き出し、りんごめがけて放つ。
──ヒュッ。
俺の放った矢はりんごに向かって…いかない。外での練習をしたことが無い俺の矢は風に煽られ想像と違う方に飛んでいく。
「おぉー凄い飛ぶねぇ」
俺の矢が全然違う方に飛んだのは、木にすら当たっていないのでわかるのだが、肉眼で見えないほど早く、どこに行ったかわからないほど遠くに飛んでいった。
ど、ドワじぃ。なんてものを作るんだ。明らかにこれは人に当たると危ないものとわかる。弓は練習用よりも軽かったので、殺傷力は低いのかと思っていたが、逆らしい。
慌てて説明書を開くと下の方に、『ぬしでも攻撃力が出るように弓を軽く、弦を引く力があまりいらないような魔石をつけてるでの。扱いには気をつけるのじゃ』と書いてある。
目の前でドワじぃのウィンクが見えたような気がする。そんな効果いらない! りんご狩る為に殺傷力いらないだろ。りんご破壊する気か。
気を取り直して、りんごめがけて矢を射る。あいかわらず矢が早すぎて見えはしないが、当たったのはわかった。なぜなら、狙っていたりんごの真ん中に大きな穴が空いているからだ。
「…い、威力」
「さすがドワルフさんだね」
「大きな穴なのー」
それから見えないほど早い矢から無事なりんごを1個収穫するまでに、放ったらとりあえず走るを繰り返した。もちろん、数えられないほどの穴だらけのりんごと、10本ほどの穴だらけになった木を作ってしまったのだが、それには目をつぶってほしい。
りんご農家とかじゃなくて、野生産でよかった…。これが育てたりんごの木とかだったら申し訳無さすぎる。
穴だらけの木が街で噂になるのと、シルヴィア家の食卓がしばらくりんごだらけになるのは、ドワじぃに綺麗なりんごを渡して、ボロボロになりながら家に帰った後の事である。




