表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/66

23 本物と偽物

「俺はヴァイスとして生きていくので、リディアは別の子にやってもらっています」


 ラマールの部屋のソファは座り心地が良く、少し跳ねる。人がいなかったらぴょんぴょんしてみたい。


「ふむ、なるほど?養子でも引き取り、その子をリディアとして育てると…あいつよく許したな。それにしてもいいのか?リディアと言う盾は君が女の子に戻るための盾でもあったのだよ?貴族社会では一生独身もできない。男と偽ったのは一生ついてまわる。その時に、別のリディア像があれば君は戻ることもできなくなる。リディアとしての人生をすべて捨てて良かったのかい?」


 そこまで考えてなく、今を偽る事で必死だった。平民なら名前を偽った所で問題はない。ギルドカードには本名が刻まれるが、見せる必要はあまりない為、特に問題はない。


しかし俺は貴族だった。珍しい色の俺の名前は至るところで広まる。リディアもしかりだ。偽物でした影武者ですと言われ、ヴァイスはいませんとなったとして、俺はどうするのだろう。影武者は普通は似ている人にする。最低限髪色と性別は合わせる。しかし、俺とツバキは全然違う。偽っている理由も人に話せるものではない。


 ヴァイスがいないとわかった時、ツバキが完璧なリディアになっていたら…それはもうリディアは俺ではなくツバキなのではないのか?急にあ、そうですかとはならないだろう。言い方は悪いが、偽物が本物になる。


 結婚に関しては、女としては生きたくないからそれでもいいと思っていた。しかし、俺が女を好きになる男であろうが、体が女な事は変わらない。隠して結婚したとして、どうすればいい?はたまた隠れてどこかに行くか?

死ぬ事はないのかもしれないが、俺は結局破滅の道にいるのかもしれない。きっともう、戻れないところまで来ている。


「人は野心がある。君が一生を仕えたい主じゃないと乗っ取られるぞ。すべて。最悪死もある」


 俺の考えを読んだかのようにそう言われた。ツバキが乗っ取ろうとは思わないかもしれないが、俺がいなくなればツバキは本物になれる。…少しゾッとした。


 というか、この場合…忘れていたが、誰がリディア(悪役令嬢)にあたるのだろう?

ツバキが本物になりつつある今。リディア(悪役令嬢)として、破滅して死ぬのは俺?それともツバキ?

俺の影武者としての危険も少しは考えていた。しかし、ちゃんと考えていなかった。

妹の好きなゲームだとリディアは…"死ぬ"。色々ごまかした付けが回った気がした。同時に今で良かった。もし、ツバキが本物になりたいと思ったとして、ルート上の死がツバキに、まっていたら俺は自分を許せなかっただろう。


 たとえ、俺の道がどちらにせよ破滅だとしても、ツバキの道まで破滅にしてはいけない。


 あまりの情報量にクラっとしてきた。


「ひどい顔してるぞ。落ち着け。時間はないかもしれないが、どれが自分にとっていいか。よく考えろよ」


「もっと適当な人かと思ってましたけど、ちゃんとしてるんですね」


「おう!なんたって君の父の親友だからな。これでも」


ニッと大きな口で笑う。ごつ渋い人だぜ。父は時々抜けているところがあるが…いい友人をもっているんだな。支え合っているのがよくわかる。


 とりあえず…帰ろう。疲れた。俺はラマールにお礼と挨拶を、言って、ツバキを迎えに行く。


 ドキッとした。迎えに行ったときに見たツバキの横顔は恋する時の"()()"によく似ていた。


「ツ…姉様。そろそろ、帰りましょうか?」


「ヴァイス‼ え、えぇ帰りましょうか」


 ツバキは耳まで赤かった。


「それではまた会いましょうマローネ」


「あぁ、いつでも来てくれ。リディアなら大歓迎だ」


 いつの間にか呼び捨てで呼び合っている。いつか妹が言っていた、恋は人を狂わせるのよ。欲しいと思えば相手を殺してでも奪いたくなる。じゃなきゃ丑の刻参りなんてしないわと言うのを思い出した。まぁ、続きは同担拒否なの。チケットの為なら鬼女になる。だったのだが…。女は鬼女になる。妹の言葉が今言われたかのように耳元で聞こえた。


「それでは、失礼します」


俺も礼をすると、ツバキを連れて馬車に乗り込んだ。


「ツバキ、マローネ様と会ってみてどうだった?」


「とても、良い人でした」


ツバキの顔はにこやかに微笑んでいた。

恋をしたのかは恐ろしくて聞けなかった。

ツバキの事は恋愛としては見てなかったのだが、胸が少しズキズキと傷んだ気がした。それは嫉妬にもにていて、でも何に嫉妬しているのかもわからなかった。


「そっか、呼び捨てだったもんね。仲良くなったなら何よりだよ」


「ご、ごめんなさい。マローネに様よびしないでと言われてたので…でも私は偽物なのに勝手に…」


 先程まで明るかったツバキの顔がどんどん暗くなっていく。


「そんなつもりで言ってないから大丈夫だよ。今はツバキがリディアなんだから」


 そう言ってもツバキの顔は暗いままでそれ以上何も喋らないまま屋敷に戻った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ