6 魔神たちの会合
SIDE ルシオラ
ガイアス帝国、帝城の深奥──。
薄暗い闇の中に二つのシルエットがたたずんでいる。
一人は小柄な女。
一人は大柄な男。
そのいずれもが、人ではない。
頭部には角が、背からは皮膜状の翼が生えた異形──。
『魔神』である。
「ヅェルセイルが死んだらしいな。皇帝から聞いたぜ」
大男──ヴァイツがうなった。
「私は、報告だけは受けているわ」
小柄な女──ルシオラが返答する。
「魔神ともあろう者が、たかが人間に殺されるとはな。情けねぇ奴」
「ヅェルセイルは決して弱くない。格下の相手に油断を見せがちではあるけれど……それが倒されたというなら、人間側もそれなりの力を持っている──ということよ」
ルシオラは淡々と告げた。
ヴァイツと違い、彼女はけっして人間を侮ってはいない。
もちろん、基本能力でいえば、魔神の方が圧倒的に人間を上回っている。
普通に戦えば、負ける要素などない。
だが──、
「たとえば、聖剣」
ルシオラが言った。
「【光】の力を色濃く宿したそれは、非力な人間が扱っても我ら魔神を討つ可能性を与える」
「むう……」
「あるいは、異能使い」
「イレギュラー?」
「そう、【光】に属する神が人間に『異能』を与えることがある。まれにだけれど……その異能の内容によっては、魔神に対抗することも不可能じゃないわ」
ルシオラが小さく息をもらす。
「それに──ミスティの気配が消えたときに、強大な力の波動を感じた。あれは、魔神を凌駕するほどの気配や可能性を漂わせていた」
「俺たちを凌駕だと?」
「今はまだ『可能性がある』というだけよ」
驚くヴァイツにルシオラが答える。
「だから、私は油断しない。慢心しない。そのときが来れば、すべての力を尽くし、確実に消去する」
「っ……!」
ヴァイツが後ずさった。
「は、はは……お前が全力を尽くせば、どんな人間だろうが塵も残らねぇな。頼もしい限りだぜ」
蒼白な顔でこちらを見つめている。
粗暴で、何かあればすぐに力で訴えかけてくる男だが──。
だからこそ、ルシオラには絶対に突っかかってこない。
常に、警戒されている。
常に──恐れられている。
「たかが人間相手に大げさすぎなぁい?」
新たな魔神が場に現れた。
露出の多い格好をした、紅の髪の美少女だ。
「ジゼルグ、いつからいたの?」
ルシオラが彼女を一瞥する。
ジゼルグと呼ばれた美女は鼻を鳴らし、
「最初からよ。あたしの【空間遮断】に誰も気づかないなんて。たるんでるんじゃない?」
「んだと、てめぇ」
「あたしより弱いくせに粋がらないでよ、ヴァイツ」
「ああ? 誰が弱いって! 確かめてみるかよ、この女──」
「やめなさい、ヴァイツ。ジゼルグもいちいち挑発しないで」
ルシオラがため息交じりに仲裁した。
「はーい」
「ちっ。あんたに言われちゃ、しょうがねぇ……」
「ふふふ、仲良きことは美しきかな、ですよ。みなさま」
恭しい声とともに、燕尾服を着た中年紳士が現れる。
「てめぇも来たのか、ガラード」
ヴァイツがじろりとにらむ。
「我らの『目的』のために──力を合わせてがんばろうではありませんか」
「目的、か」
ルシオラが小さく息をつく。
「万全を期す必要がある、と言いたいのね?」
「然り」
「人間を侮らず、確実に打ち倒す。帝国を勝利に導き、あの場所までたどり着く──」
ルシオラは半ば自分自身に言い聞かせるように言った。
「そのために、相手がイレギュラーであろうと聖剣であろうと、すべて蹴散らす」
告げて、ルシオラは歩き出した。
「ルシオラ? どこへ行くんだ?」
「私が直接出るわ」
ヴァイツの問いに、振り返らないまま答える。
「皇帝に、私の出撃を認めさせる。様子見などと温いことをしているうちに、奴らは──ミランシア王国とやらは、どんどん強くなる」
放っておいても支障はないと踏んでいたが、予想外の戦力アップだ。
やはり、自分が叩いておく必要があるだろう。