5 勲章授与
「俺に勲章が?」
「ええ、マリウス隊長に王国最高位の『エリュシオン勲章』が与えられる、と。噂話を小耳に挟んだだけですが、最近の隊長のご活躍なら十分にありうるかと」
と、ジィドさん。
俺たちは今、執務室から隊舎の出口に向かっている。
この後、俺は総隊長の元へ、ジィドさんは隊員の演習の指揮をする予定だった。
そこでジィドさんから聞いたのが、今の話だ。
以前にも同じ勲章をもらったことがあるから、二度目のエリュシオン勲章授与ということになる。
「二つ目の勲章ですね、おめでとうございます!」
「さすがです、隊長……」
ウェンディとサーシャが前方からやって来た。
今の話を耳ざとく聞いていたらしい。
ウェンディはにっこり笑顔、サーシャはうっとりした顔だった。
「ありがとう、二人とも」
俺は苦笑しつつ、
「ただ、噂話みたいだからな。確定じゃないぞ」
「いえ、勲章にはとどまらないと思いますよ、隊長を次期総隊長に、なんて声も出始めてるみたいですから」
ジィドさんが微笑む。
「俺が……総隊長?」
さすがに驚く。
ちょっと前までは一介の農民にすぎなかった、この俺が──よりによって、王国最強騎士団のトップとは。
それこそ噂話レベルだろう。
「あたしは、別におかしくないと思います」
と、サーシャが進み出た。
「マリウス隊長はそれだけの実績と実力をお持ちです」
まっすぐに俺を見つめる。
キラキラした瞳だ。
「俺はみんなをまとめる、って柄じゃないな」
正直言うと、十二番隊隊長という責務も柄じゃない気がしている。
俺はやっぱり戦場の最前線で剣を振るうのが性に合っているみたいだし、それだけをやっていたい。
叶うなら、俺一人の力ですべての敵を斬り払い、王国を勝利に導きたい。
仲間たちを誰も死なせることなく、平和を勝ち取りたい──。
俺はジィドさんたちと別れ、総隊長の元へ向かった。
「マリウス、君も呼ばれたのか」
今度はリーザに出会う。
「リーザも総隊長のところか?」
「ああ。おそらく勲章授与の通達だろう」
と、リーザ。
「今回は私も勲章をもらうようだ。君とおそろいだな」
「おそろい? ってことは、俺の勲章授与も噂話じゃなく確かな情報なのか?」
「ああ、私にとっては初めての勲章だ。素直に嬉しいよ」
リーザの表情がほころぶ。
「まあ、リーザは活躍しているからな。勲章も当然だ」
俺が笑った。
「君ほどじゃない。ただ、君に負けじとがんばっているから、そのおかげかな」
くすりと笑みを返すリーザ。
花のように可愛らしい笑みに、思わず惹きつけられてしまう。
凛々しさと、美しさ。
やはり魅力的な女性だと思う。
「そうだ、後で少し付き合ってくれないか?」
リーザが言った。
「付き合う?」
「ああ、剣術の訓練にな。聖剣を得てから、全力で訓練できる相手がほとんどいなくなってしまったんだ……」
リーザは困ったような顔だった。
確かに、強くなった半面、彼女が本気の剣を受け止められる騎士は数えるほどしかいないだろう。
ある程度実力が近くなければ、いい訓練は難しい。
「俺でよければ、いくらでも付き合うよ」
「助かる。私も君の相手ができればいいんだが……君は、ちょっと強すぎるな」
リーザは申し訳なさそうな顔をしつつ、苦笑した。
「俺は実戦で鍛えるから大丈夫だ」
「そうか……そうだな」
彼女の顔が暗くなる。
「ん? どうした」
「君は最近、一人で一軍を相手にするような戦いばかりしているな。十二番隊の騎士たちはほとんど出番がないんじゃないか?」
と、リーザ。
「いや、君のやり方を批判しているわけじゃない。ただ、以前はもっと部下とともに戦っていたような気がして、な」
「俺が一人で戦えば、それだけ部下が負傷する確率は減る。死ぬ確率も。それだけだ」
拳をグッと握る俺。
「それに──ヅェルセイルとの戦いで大幅にパワーアップできたからな。一人で十分勝てる局面なら、俺だけで戦った方が手っ取り早い」
言って、俺はわずかに苦笑した。
「こういう考え方は傲慢かな?」
「……いや。要は『誰も死なせたくない』ということだろう? 君らしいじゃないか」
リーザが言った。
俺をじっと見つめる。
「それは君の優しさなんだろう。ただ、その優しさが……いつか君自身を窮地に追いこむかもしれない、と思うと、私は心配だ」
「リーザ?」
「死んでほしくない、君に」
言って、わずかに頬を赤らめるリーザ。
「……すまない、少ししゃべりすぎたな」
なぜか照れたような態度だった。