4 無双の日々
数日後、俺は十二番隊を率いて帝国軍との戦いに出向いていた。
前回と同じく、国境付近にある砦の制圧任務だ。
「来たぞ、一騎駆けだと!?」
「舐めるな、射殺せ!」
前方の砦から無数の矢が雨あられと降り注ぐ。
「【ソードラッシュ】!」
俺は高速剣技のスキルでそれらを切り払った。
今の俺のレベルなら、どれだけ矢を射かけられても問題はない。
すべての矢の軌道を見切るだけの動体視力があるからだ。
そして、それを迎撃するための反応速度と剣速、体力も。
射かけられる矢を切り払いながら、俺は馬を進めた。
砦から数百人単位の兵士が出てきた。
俺に矢が通じないので業を煮やしたんだろう。
異空間から【破軍竜滅斬】用の剣を呼び出す俺。
「まとめて薙ぎ払う。この位置なら、敵軍の大部分を巻きこめるな」
「もうちょっと角度をずらしたほうがいいと思うよ。あと五度くらい」
と、背中に抱き着いているメルが言った。
「そうか?」
「おじさん、ちょっと大雑把なところがあるからね。細かい計算はあたしの方が得意だね」
「まあ、そうかもな……」
『おじさんって、ちょっと大雑把だよね』と、昔メルに言われたことを思い出す。
戦場には場違いな郷愁がこみ上げてきた。
「──っと、浸っている場合じゃないな」
相変わらず間断なく跳んでくる矢群を、俺は剣で防いだ。
敵兵が楔型に展開していく。
あまり横に広がられると【破軍竜滅斬】の効果射程から外れる兵が多く出てしまう。
展開が終わる前にさっさと撃つか。
「さあ、さっき言った通りに。あたしは『導く者』だから。そういうの、色々と見えるんだから」
「了解だ」
ここはメルに従うか。
狙う角度を微妙にずらし、俺は剣を振りかぶった。
「【破軍竜滅斬】!」
そしてランク7スキルをぶっ放す。
輝く斬撃エネルギーが、数百の敵兵を飲みこんで消し飛ばす。
生き残ったのは、どうやら数十人のようだ。
「逃げるなら見逃す。立ち向かうなら一兵たりとも容赦はしない」
俺は【破軍竜滅斬】用の剣を異空間に戻し、通常の剣を抜いた。
「ひ、ひいいいいいっ、化け物だ!」
敵兵たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
……正直、一人残らず斬り殺してやりたい衝動もある。
村を滅ぼされた悲しみや憎しみが癒えたわけじゃない。
ただ、今は砦の奪還が第一目的だ。
復讐心はある程度抑え、俺は馬をさらに進めた。
伏兵が忍んでいないか、抵抗しようとする残存兵がいないか、入念にチェックする。
「……誰もいないようだな」
さっきので、全員逃げてしまったらしい。
確認すると、最初の敵兵撃破でレベルが2つほど上がっていた。
さすがに必要経験値が上がっているので、これだけの人数を倒しても急激なレベルアップはしない。
ただ、そこまで大幅なレベルアップは、少なくとも人間相手なら必要ないかもしれない。
何せ、今回も単騎掛けで敵陣を制圧してしまったのだ。
主要戦力を【破軍竜滅斬】で薙ぎ払い、残存兵を直接戦闘で撃破。
戦意喪失した者たちを逃走させる。
……大味極まりない戦術だが、今のところは上手くいっている。
この調子で勝利を重ねていきたいものだ。
誰一人、自軍の犠牲者を出すことなく。
もちろん、戦争がそんなに甘いものではないだろうことも分かっている。
分かっているが──。
願わくば、この戦術が一度でも多く通用し続けることを。
願わくば、その先も仲間たちが誰一人傷つかないことを……。