13 再戦
「さあ、再戦といこうか」
俺はヅェルセイルと対峙した。
分かるぞ。
今までよりも圧倒的に強くなっていることが。
俺が倒したのは、まがりなりにも魔神の分身体である。
しかも全部で百体ほど──その経験値を取得すれば、一気にレベルアップできることは分かっていた。
唯一心配だったのが、それをヅェルセイルに阻止されること。
俺のスキルの正体を知られれば、奴とてむざむざと経験値を与えるようなことはしないだろう。
そうなる前に、俺は魔血操兵を可能な限り倒し、経験値をできるだけ得る必要があった。
結果的に、リーザたちが踏ん張って時間稼ぎしてくれたこともあり、俺は百体ほどの魔血操兵すべてを一人で討ち、大量の経験値を得ることができた。
最高のおぜん立てをしてもらった。
「後は俺に任せてくれ。リーザ、ルーク、感謝する」
「すまない……結局は君に頼ってしまうようだ」
リーザが頭を下げる。
「……頼みます、マリウス隊長」
ルークがうなだれる。
「お前たちのおかげだ。二人とも胸を張ってくれ」
俺は彼女たちに微笑んだ。
「もちろんウェンディたちもそうだ。全員がそれぞれの役割を果たしたからこそ、今この局面を迎えている。迎えられた──だから」
仕上げは、俺がやる。
この力で、魔神ヅェルセイルを討つ──。
「少しは強くなったようだが、それでもしょせんは人間……まずは小手調べといくか」
ヅェルセイルが地を蹴り、突進する。
レベルアップ前は、視認すら困難だった高速移動。
だが、今の俺にはその動きがはっきりと見えた。
むしろ──遅い。
繰り出された魔神の爪剣も、俺の目にはほとんど止まって見えた。
やすやすと避け、カウンター気味に拳撃を繰り出す。
「がはっ!?」
俺の拳をみぞおちに受け、数メートル吹っ飛ぶヅェルセイル。
「まぐれ……じゃなさそうだな」
ヅェルセイルが俺をにらんだ。
「【光】のEXスキルには、経験値アップ系のものがあると聞いたことがある。だが、まさかここまでとは──いったい、どれほどのパワーアップを……」
「俺の今のレベルは333だ」
「なっ……!?」
俺の言葉に魔神の顔色が変わった。
「ば、馬鹿な、人間ごときが……そんなレベルに……この俺を超えているだと……!?」
それがハッタリではないことは、ヅェルセイルにも理解できているだろう。
先ほどの攻防だけで──互いの力関係が完全に逆転したことも。
「これ以上、誰も傷つけさせない」
俺は奴に近づいた。
「誰かが理不尽に傷つけられるのも、殺されるのも、もう見たくない」
「正義感ぶってんじゃねーよ!」
吠えて地を蹴るヅェルセイル。
身体能力では俺が上だと分かったうえで、なお接近戦を挑むのか?
いや、これは──。
「【ソードラッシュ】!」
魔神が連続斬撃スキルを発動した。
両手の爪剣を目にも留まらぬスピードで繰り出す。
スキル自体は平凡だが、レベル280の魔神が使えば、それは必殺の威力を持った攻撃と化すのだ。
「【ソードラッシュ】!」
俺は同じスキルで対抗した。
音速を超えるほどのスピードで、俺とヅェルセイルは激しく斬り結ぶ。
一合ごとに大気が軋み、衝撃波が吹き荒れる。
やがて五十合ほど剣を合わせたところで、
ばきんっ。
俺の剣が、ヅェルセイルの爪剣に砕かれた。
「ははははは! いくら強くなっても、武器がその強さについてこれていないらしいな!」
さらに爪剣を振るう魔神。
「【ソニックフィスト】」
俺はすかさずスキルを発動した。
移動も、拳撃も、すべてを音速で実行できるスキルである。
その速度を全開にしてヅェルセイルの斬撃を避ける俺。
カウンター気味に繰り出した拳が、奴の腹に食いこんだ。
「う……ごぉっ……」
苦鳴とともに崩れ落ちるヅェルセイル。