8 魔血操兵2
「あれは──」
リーザは息を呑んだ。
地上に降り立ったそれらは、全部で百体。
身長は1メートル程度だろうか。
いずれもヅェルセイルによく似た黒い甲冑をまとった魔物だ。
右手に赤い刀身の曲刀を持っていた。
「そいつらは魔血操兵。俺の可愛い手下どもさ」
魔神が笑う。
「小さいが、俺の分身の一種だからな……強いぜ?」
うおおおおおおおおおおおおんっ。
百体の魔血操兵たちがいっせいに雄たけびを上げた。
「お前たちがなぶり殺しにされる様をじっくりと見せてもらうとするか」
魔神の笑みが深まる。
次の瞬間、魔血操兵たちがいっせいに突進してきた。
前後左右、あらゆる方向から百体が迫る。
リーザには五体が同時に襲ってきた。
赤い曲刀が五本、別々の方向から打ちこまれる。
「ちいっ……!」
聖剣で底上げされた身体能力と反射神経を駆使し、それらを弾き返すリーザ。
反撃の剣を繰り出すが、魔血操兵たちは素早く跳び下がって避ける。
かなりのスピードだ。
ふたたび襲いかかる魔血操兵たちに、リーザは一歩も退かずに斬り結んだ。
(手ごわい……!)
さすがに、魔神ヅェルセイルに比べれば数段劣る。
一対一なら、リーザが問題なく勝つだろう。
だが、五体同時に、しかも連携されるとかなり厄介だ。
現状、ほとんど互角である。
(他のみんなは──)
周囲に視線を向けると、ルークも同様にてこずっているようだった。
さらに他の騎士たちは──。
「つ、強い……よぉっ……」
「大丈夫、あたしたちで連携すれば!」
ウェンディとサーシャは魔血操兵から一定の距離を取り、中距離戦を展開している。
が、相手も連携してくるため、徐々に押しこまれているようだ。
「そ、そうだね、サーシャちゃん……きゃあっ!」
「なんて、速さなの……くうっ!」
さらに二番隊の中年騎士たちやリズたちもそれぞれ劣勢のようだった。
一体一体が手ごわいうえに、連携攻撃も心得た魔血操兵は、生半可な相手ではない。
しかもその数は百体。
(まずい……私もルークも他のフォローに手が回らない)
いや、リーザやルークとて、いずれは疲労して押し切られるだろう。
現状を打開するには、やはり──。
「【インパルスブレード】!」
凛とした声とともに、斬撃衝撃波が地表を駆け抜けた。
それに巻きこまれて、数体の魔血操兵が吹っ飛ばされる。
「悪い。待たせたな、みんな」
マリウスがそこに立っていた。