7 魔血操兵1
「魔神の身体能力は圧倒的だ。私とルーク隊長以外は接近戦を挑まず、一定の距離を取れ。中距離や遠距離攻撃スキルでの援護に徹してくれ」
リーザは他の騎士たちに指示を出した。
おびえていた彼女たちは、ハッとした顔でリーザを見る。
「大丈夫だ。私たちは選ばれたメンバーだぞ。それに、私には聖剣がある。みんなの力を束ね、魔神を打ち破ろう」
涼やかな声で全員を鼓舞する。それからルークの方を振り返り、
「いくぞ、ルーク隊長」
「了解です!」
リーザは聖剣を手にじりじりと魔神に近づく。
ルークもまた魔導武具『覇道桜花』を構え、魔神に向かっていく。
「【アローブレード】!」
「【ショットスロー】!」
「【スパイラルボム】!」
他の騎士たちがいっせいに遠距離攻撃スキルを放った。
先ほどのリーザの鼓舞が効いたのだろう。
全員、闘志を取り戻したらしい。
「──ふん」
ヅェルセイルは、避けない。
全弾直撃──。
魔神の体が爆炎に包まれた。
「この隙に──叩く!」
リーザが駆けだした。
「くおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
ルークは雄たけびを上げる。
赤い双眸が妖しい輝きを放った。
『失われし実験体』としての能力を解放しているのだろう。
次の瞬間、ルークはすさまじい速度で駆け出した。
リーザと並走し、同時に仕掛ける。
「くらえ、魔神!」
輝く聖剣を爆炎の向こうにいるであろうヅェルセイルに叩きこむ──。
「……むっ!?」
爆炎を切り裂いた先に、魔神の姿はなかった。
「はっ、遅いねぇ!」
声が背後から響いた。
慌てて振り向くと、ヅェルセイルが間近に迫っている。
あれだけの遠距離攻撃スキルを受けたというのに、その体には傷一つなかった。
振り下ろされた爪剣を、
「くっ……!」
リーザはかろうじて聖剣で受けた。
重い──。
両腕がちぎれそうなほどの、すさまじい剣圧。
たった一合で体力を消耗してしまう。
「ははははは、可愛らしいねぇ! 邪魔な男どもを片づけたら、俺のモノにしてやるからな……むっ!?」
「そう簡単に片づけられてたまるか!」
ルークが突進した。
ショートソードを掲げ、人間をはるかに超える速度で斬りかかる。
ヅェルセイルは振り向きざまにその一撃を受けた。
「なんだ、お前? ただの人間じゃないな。その体──ラ・ヴィムの技術で造ってやがるのか」
ルークを興味深げに見つめる魔神。
「だが、弱いねぇ! 弱すぎる! 『覚醒』すらしてない状況で魔神に立ち向かえると思ってるのかよ!」
「がはっ……」
前蹴り一発で数十メートルも吹き飛ばされるルーク。
「ぐっ!」
さらに尾の一撃でリーザも吹っ飛ばされた。
なんとか空中で体勢を整え、着地する。
「強い……!」
覚悟はしていたが、実際に剣を交えると想像をはるかに超えていた。
これが、魔神の戦闘能力──!
「リーザ隊長!」
近くにいたウェンディとサーシャが走り寄ってきた。
「二人とも私の側から離れるな」
警告する。
「奴はあまりにも強すぎる。離れれば、各個撃破されるだけだ」
「……はい」
青ざめた顔でうなずく少女騎士たち。
と、
「ふん。これ以上、俺が戦う必要もないな。あとはこいつらに任せるとしよう」
ヅェルセイルは嘲笑とともに、右手を掲げた。
「スキル──【創生・魔血操兵】」
振り下ろした爪剣でみずからの左手首を切り裂く。
鮮血が噴き出した。
飛び散った無数の血の雫が、人型の魔物へと変化する。