6 リーザの決意
『お主の戦闘能力は、わらわの力で底上げされている。常人をはるかに超えるほどに──その力で、聖剣騎士として魔神を討て』
「私は……」
声が、震える。
自分でも情けないと思った。
だが、恐怖を抑えられない。
『それとも……まさか怖いのか?』
リーザは即答できない。
『なんのために、お主はわらわを手にした? 騎士としての栄誉か? 任務だからか?』
「私……は……」
かすれた声で、うめく。
恐怖は、やはり収まらない。
だが、その中から別の感情が湧き上がってくるのを感じる。
『それは、お主の真実の心。真の、戦う理由』
聖剣が告げる。
厳粛な声で。
『その心がある限り、お主は戦えるはずじゃ。たとえ相手がどれほど強大であろうと──わらわはそう見込んだからこそ、お主を聖剣の騎士として認めた』
「アストライア……」
『まあ、お主に萌えたことも一因じゃが』
「……せっかくいい話だったのに、最後で台無しだ」
リーザは憮然とした。
その口元に、ふっ、と笑みが浮かぶ。
最後の軽口で、心も少し軽くなった気がした。
『どうする、我が主?』
「騎士の使命を果たすさ」
リーザは聖剣を握り直した。
「私は──この世界で生きていく。闇社会の暗殺者じゃない。日の光が当たる場所で、誇りを持って生きていきたい。そのために剣を振る」
と、
「ふん。人間にしては驚異的な強さだったが、それでもしょせんは人間だな」
ヅェルセイルが鼻を鳴らした。
「【破軍】スキルは一日に一回しか使えんからな。今ので打ち止めだ。だが、もはや使う必要もないか」
言って、周囲を見回す。
「残るは雑魚ばかり……一人一人なぶり殺しにしてやろう」
「ひっ……」
背後でリズがおびえたような声を出した。
他の騎士たちもいちように青ざめた顔だ。
マリウスが力負けして吹き飛ばされた光景は、それだけ衝撃的だったのだろう。
ルークを除けば、全員がひるんでいる──。
「まだだ。マリウスは、まだ負けていない」
リーザが凛として叫んだ。
その視線の先には、よろよろと立ち上がろうとするマリウスの姿があった。
きっと、まだ闘志を失っていないのだ。
とはいえ、ダメージを受けた状態で戦っても、魔神に返り討ちに遭うだろう。
「治癒スキルが使える者はマリウスの下へ! その間は、私たちで魔神と戦う!」
「私は、恐れないぞ。アストライア」
聖剣に語りかけた。
同時に、自分自身に言い聞かせた。
「今こそ全身全霊を持って、魔神に立ち向かうときだ。たとえ相手がどれだけ強大であっても」
ひるまず、臆さず。
そう、彼のように──。
(マリウス、私に勇気を。君が戻ってくるまで、私も君のように勇猛に戦うぞ)
『ふむ、よき闘志じゃ』
聖剣からふたたび声が聞こえた。
『ならば、わらわも聖剣としての全機能をもって、お主の力となろう。ともに戦おうぞ、聖剣の騎士リーザ』