1 隊長就任
ミランシア王国、王都──。
聖竜騎士団では、一週間に一度のペースで隊長会議が行われる。
騎士団には十一の隊があり、その隊長だけが出席を許される会合だ。
リーザも二番隊の隊長として出席していた。
その日の議題は、今度新設される十二番目の隊の隊長についてだった。
「歴戦の猛者であるジィド・ラング氏はどうだろう」
隊長の一人が候補を上げる。
「一番隊の副隊長で騎士養成機関の上級講師も兼任、か」
「確かにキャリア、実績とも申し分がないな」
「だが、新たな隊にはもっと若い隊長を据えて、新鮮さを出した方がいいのではないか」
賛同する声に混じり、反論する隊長がいた。
「いやいや、イメージよりまずは能力重視でしょう。私もジィド氏はいいと思います」
「イメージも大事だと思う。士気にも影響するしな。俺はむしろ若手の伸び盛りである七番隊のサーシャ・レヴェリンを推す」
「それなら五番隊のウェンディ・ノアもいいかもしれない」
「どちらも若い女性騎士だし、華やかなイメージになるな」
各々の意見を出す隊長の話を聞きながら、リーザが手を挙げた。
「私から、ぜひ推薦したい者が一名います」
言って、周囲を見回す。
「ほう? 誰だね、リーザ隊長」
総隊長がこちらを見た。
「一か月ほど前、我が隊に入り、目覚ましい活躍を見せている者です。もともとは一介の農夫だったのですが、魔獣マンティコアや猛将グリムワルドを立て続けに討ちました。その後も数度の戦いで、いずれも隊の勝利に大きく貢献しています」
熱弁するリーザ。
「いえ、貢献という表現では足りないかもしれませんね。実質的に彼一人で勝利した戦闘もあったほどですから。純粋な戦闘能力なら、私を凌ぐかと」
「リーザ隊長を凌ぐ……!?」
「噂に聞いてはいたが、そこまでとは……」
ざわめく一同。
「確かに彼の実力はすさまじいね。以前に僕もこの目で見たから、うなずける」
賛同したのは四番隊隊長のアルトゥーレだ。
「王国最強──いや、大陸最強かもしれないね。実にエレガントな戦士だ」
「なんだ、一介の農夫だと蔑むのはやめたのか?」
「い、以前の発言は撤回するよ。非礼はいずれ彼に詫びよう」
リーザがからかうと、彼はばつが悪そうな顔をした。
「リーザ隊長とアルトゥーレ隊長がそこまで言うとはな」
ニヤリと笑ったのは、二十代半ばの野性的な青年だった。
七番隊隊長ガエルである。
「面白そうな人材じゃないか」
「あたしも興味が湧いてきたね。一度会ってみたいわ」
褐色の肌の美女が艶然と笑う。
こちらは三番隊隊長のドロテアだ。
外見は二十代後半のように見えるが、実年齢は誰も知らない。
会議の話題は、にわかにマリウス中心へとシフトしていった。
もちろん懸念点もある。
なんといっても、マリウスは一か月前までただの農夫だったのだ。
騎士としては新人もいいところ。
当然、部隊を統率した経験もゼロだった。
だが、それを補ってあまりある魅力が彼の戦闘能力だった。
絶対的な力を持つマリウスが、新たな隊の象徴となってくれたら──。
劣勢気味のガイアス帝国との戦いに、光明を見いだせるかもしれない。
そんな希望があった。
最終的に新隊長候補はマリウスと老騎士ジィドの二人に絞られた。
そして──。
「では、マリウス・ファーマを十二番隊隊長候補として、ジィド・ラングを同隊副隊長候補ということでよいかな」
総隊長が場を見回した。
全員がうなずく。
満足げな者もいれば、不服そうな者もいるが、それは会議の常である。
「ジィド氏には副隊長として彼を補佐してもらおう。仮にマリウスが隊長として不適格だった場合は、彼を更迭してジィド氏を隊長に昇格という保険にもなる。以上の結果を、私から王に報告し、二名を推挙する」
総隊長が締めくくった。
この会議で決定されたことに王が異を唱えたことは一度もない。
事実上、マリウスの十二番隊隊長就任は決定事項といってよかった。
「しかし、一介の農夫が新隊長とは……」
中には不満げな隊長もいる。
「それだけの力を持っています、彼は」
リーザは彼に微笑んだ。
「僕も同感だね。戦場での圧倒的な存在感は、必ずや部下の士気を鼓舞するだろう」
アルトゥーレが同調する。
「まあ、お手並み拝見といこうかねぇ」
ドロテアが艶然と笑った。
※
王都に来て一か月。
なんと俺は、新設される十二番隊の隊長になることが決まってしまった。
大抜擢である。
正直、驚くより戸惑っていた。
別に出世したかったわけじゃない。
ただ帝国の連中と戦いたい一心だった。
隊長なんて柄じゃないし、辞退しようとも考えたんだが──。
これも『戦争を終わらせる』道になるかもしれない。
そう考え直し、俺は引き受けることにした。
そして、就任初日──。
俺は十二番隊の隊舎にやって来た。
新設部隊だからか、隊舎も新しい。
たぶん建造されたばかりなんだろう。
「よし……いくか」
ふう、と深呼吸をして踏み出す。
身に着けているのは、これまた新調された騎士服だ。
白地に赤のラインで、男性用はズボン、女性用はスカートというデザインである。
胸元には十二番隊のシンボルであるグリフォンのマークがあった。
と、前方から一人の騎士が歩いてきた。
総髪にした銀の髪。
柔和な笑みを浮かべた老騎士だ。
「初めまして。私はジィド・ラング。一番隊の副隊長をしていたのですが、今回こちらの隊に異動となりました」
丁寧に礼をするジィドさん。
「君がマリウスくんですか。魔獣マンティコアや猛将グリムワルドを討ったという。隊長に就任されると聞いています。よろしくお願いしますね」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
俺はジィドさんに一礼した。
ちなみに、この人は十二番隊の副隊長を務める。
十二番隊の騎士たちは若者が多く、大半が十代や二十代だと聞いていた。
四十歳を超えている俺は、正直ちょっと居心地が悪い。
それだけに、俺より年長──確か六十歳前後だという話だ──のジィドさんの存在にはホッとさせられた。
もちろんキャリアに応じた豊富な経験があるはずで、俺としても大いに頼らせてもらいたいところだ。
「あまりかしこまらないでください。気楽に話してくださって結構ですよ」
と、ジィドさん。
物腰柔らかな老紳士、といったたたずまいだ。
だが戦場に立てば一騎当千。
一人で百騎を打ち破ったこともあるという歴戦の猛者だそうだ。
「いきなりの隊長抜擢で色々と言われるかもしれませんが、どうか気楽に。何、実力で黙らせればいいのです」
ジィドさんが微笑む。
「私たちも全力でサポートしますよ。ともにこの隊でがんばりましょう」
「ありがとうございます」
確かに──俺の隊長就任は大抜擢だ。
それをやっかむ者も少なくないだろう。
だけど、少なくともジィドさんは違うようだ。
協力的で好意的な態度にホッとする。
「あ、新しい隊長さんだ~」
一人の少女が駆け寄ってきた。
ポニーテールにした緑色の髪に、同色の瞳。
年齢は十七歳くらいだろうか。
姪のメルより、さらに若そうだ。
すらりとした体に女性用の騎士服を身に着けていた。
その騎士服はスカート部分を改造しているのか、やけに丈が短い。
超ミニスカート状態である。
健康的な白い太ももがなんとも目にまぶしい。
「ボクはウェンディ・ノアといいます。よろしくお願いしますね」
彼女がぺこりと礼をした。
「見た目は可愛らしいですが、ウェンディさんは元五番隊の第三席を務めていた実力者ですよ。この隊でも席次は上位です」
「えへへ、けっこう強いんですよ、ボク」
ジィドさんの言葉に、ウェンディは自慢げに胸を張った。
意外に豊かな胸が、ぷるん、と揺れる。
さらに、
「隊長、よろしくお願いします」
数名の男女が俺の元に歩み寄り、一礼する。
いずれも十代後半から二十代前半の若い騎士たちだ。
全員が十二番隊の騎士のようだ。
「よろしく頼む」
俺は礼を返した。
どうやら、おおむね好意的に受け止められているようだ──。
とうとう日間総合表紙から落ちてしまいました……無念……(´Д⊂ヽ
とはいえ、5位とは僅差なので明日の朝のランキングで逆転の可能性はワンチャンあるかも……ないかも……(´・ω・`)
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