5 破軍
俺が放った翡翠色の斬撃波は二つの紋章を通過し、さらに威力を増してヅェルセイルへと迫る。
「……ほう、【破軍】の技か。まさか人間がそれを扱えるとはな」
俺をにらむ魔神。
「見事だよ、お前」
迫りくる【破軍竜滅斬】の攻撃エネルギーを前に、魔神は悠然とたたずんでいる。
「褒美に見せてやろう。この魔神ヅェルセイルの奥義を」
両手を前に突き出した。
爪剣の先端に黄白色の輝きが宿る。
「これが俺のランク7スキル──【破軍雷焔弾】!」
輝きは、巨大な光弾となって放たれた。
「これは──!?」
周囲の景色が蜃気楼のように揺らめく。
さらに空中に無数の亀裂が走っていく。
『空間そのものを破壊する雷撃だよ! おじさん、逃げて!』
メルが叫んだ。
「空間そのものを──?」
魔神の光弾が翡翠色の斬撃波と衝突する。
斬撃波が、あっさりと吹き散らされた。
「馬鹿な!? 【破軍竜滅斬】が!」
俺が『神聖界』で命を賭して会得した最強のスキルが。
これほどまでに、簡単に……。
なおも突き進んだ光弾が俺に迫る。
「くっ……【ソニックムーブ】!」
とっさに音速移動のスキルを唱えた。
事前にメルから『逃げて』という警告がなければ、スキル発動が間に合わなかっただろう。
爆光が、弾ける。
すさまじい衝撃波が吹き荒れる。
「くぅぅぅぅぅっ……!」
俺はその衝撃波に巻きこまれ、数百メートル以上も吹き飛ばされた。
強烈な勢いで地面に叩きつけられる。
全身がバラバラになりそうな衝撃だった。
「がはっ……はぁ……っ……」
動けない──。
直撃を避け、攻撃の余波にわずかに巻きこまれただけで、これほどのダメージとは。
やはり恐るべき相手だ、魔神ヅェルセイル。
※
強い──。
リーザは戦慄とともに、魔神を見据えていた。
彼女とルーク、リズの連携で魔神ヅェルセイルに痛撃を与え、さらにマリウスが切り札ともいうべきスキル【破軍竜滅斬】を繰り出した。
だが魔神はそれを打ち破り、マリウスは数百メートルも吹き飛ばされてしまった。
初めて目にする光景だった。
マリウスが、ここまで完膚なきまでに力負けするのは。
どんな相手でも、彼は圧倒的な戦闘力でねじ伏せてきた。
あらゆる戦場で無敗、無敵。
そのマリウスですら、圧倒するとは──。
「これが……魔神か」
ごくりと喉を鳴らす。
『どうした、わらわを振るえ』
彼女が手にした聖剣『アストライア』から、そんな声が流れこんできた。