2 魔神1
「マリウス……」
リーザが俺の方を見た。
俺は静かにうなずき、
「大丈夫だ。俺たちの力で必ず魔神を討つ」
俺の力と、リーザの聖剣で。
必ず──。
決意も固く、俺たちはさらに進む。
周囲は、大量の瓦礫や死体の山がどこまでも続いている。
文字通りの地獄絵図だ。
そして。
「あいつが魔神か──」
廃墟と化した都市の中心部に、そいつはいた。
金色の髪を腰の辺りまで伸ばした、美しい青年である。
全身に浴びた返り血や、周囲にうずたかく積まれた死体の山が、凄惨な印象を伝えてくる。
「ふん、新手か」
青年が振り返った。
「ほう……なかなか美しい女がいるな」
と、舌なめずりをする。
ねばついた視線がリーザに向けられていた。
俺は半ば無意識に、彼女をかばって前に出た。
「なんだ? 彼女を守るナイトといった風情だな」
笑う青年。
「お前が、魔神か」
軽口に付き合わず、たずねる俺。
「名はヅェルセイルだ」
青年が言った。
「わざわざ殺されに来る騎士団は、これでいくつ目だ? 喜べ、お前らの苦痛と絶望を食らってやるぞ」
「苦痛と絶望を食らう……だと」
「魔神のエネルギー源の一つが、それだからな」
と、ヅェルセイル。
「聖剣『オーディン』を手に入れるついでさ。人間どもの負の感情はなかなか美味なんだ。せっかく滅多にない出撃許可が出たんでな。たっぷりと味わわせてもらう」
聖剣『オーディン』……?
俺は眉を寄せた。
やはり、こいつは新たな聖剣を探しているのか。
「お前がシャルテ王国の町を襲ったのは、それが理由だな」
「ああ、第一の目的はあくまでも聖剣さ。そっちがメインディッシュだな。人間どもを殺して回っているのは、いわばデザートだ。はははは」
嬉しそうに笑うヅェルセイル。
「デザート、だと」
周囲の死体をもう一度見回し、頭の芯がカッとなった。
ついさっきまでは平和に暮らしていた人々。
幸せに過ごしていた者たちも、大勢いただろう。
それをこいつは一瞬で破壊した。
すべてを踏みにじった。
そう、俺の村が帝国軍によって滅ぼされたように──。
「そんな理由で大勢の人間を苦しめ、殺したのか」
ぎりっと奥歯をかみしめる。
「正義感ぶるなよ、おっさん。今からお前も殺してやるさ。たっぷりと苦しめた後で、な!」
言うなり、ヅェルセイルは突進した。
両手の爪が一メートルほどに伸びる。
まるで刃のように。
「まずは腕の一本でももらっておこうか!」
振り下ろされた爪剣を、俺は抜き放った剣で受けた。
ルークとの戦いで前の剣を壊してしまったため、これは予備の大剣である。
がきん、と互いの武器がぶつかり、鍔迫り合いとなった。
パワー勝負だ。
となれば──うってつけの、あのスキルがある。
「【パワーブレード】!」
剛力剣技のスキルを発動する俺。
その勢いにヅェルセイルが押される。
並の【パワーブレード】ならいざ知らず、レベル220となった俺のそれは、魔神といえども簡単にいなせないはずだ。
「な、なんだと、このパワーは──」
魔神の表情がこわばる。
レベル178から220へと上昇したことで、俺の膂力は大幅にアップしているはずだ。
このまま押し切ってやる──。
「お前にこれ以上の殺戮も破壊もさせない!」