13 呼びかけ
「うるさいっ! 敵はすべて排除する! もう二度と──大切なものを失わないために! 敵はすべて俺が倒す!」
「俺は、お前の敵じゃない! 仲間だ!」
ルークの剣を、俺は両手で挟みこんで止めた。
スキルではない。
奴の動きを見続けているうちに、目が慣れてきたのだ。
レベル170オーバーの身体能力と反射神経を活かした力業である。
白刃取りの体勢で俺とルークがせめぎ合う。
押し切られたら、終わりだ。
だが──単純なパワーなら俺の方が上。
「敵は……すべて、排除する……!」
ぎりっ、と奥歯を噛み締めて叫ぶルーク。
その表情は強烈な憤怒に染まっていた。
「お前の敵は俺たちじゃないだろう。お前が大切なものを奪われたっていうなら、俺だって同じだ! ガイアス帝国に村を焼き払われ、家族や近しい人たちを殺された! だから戦う!」
俺は体当たりでルークを吹き飛ばす。
「俺と……あんたが……同じ……」
「だけど、復讐のためだけじゃない。より多くの人を守るために──俺は聖竜騎士団で戦うと決めた。気づかせてくれた者がいるから、な」
メルのことを思い返す。
復讐に染まりかけていた俺を──俺の心を、呼び戻してくれた愛する姪。
正確にはメルそのものじゃないのは分かっているが……俺にとっては、彼女もメルだった。
「お前は……どうなんだ? 復讐のために戦うのか? 闇雲に敵を殺すためだけに?」
「俺は……」
「それもいいかもしれない。けど、少なくとも俺たちはお前の敵じゃない。目を覚ませ、ルーク」
「俺……は……」
「復讐心は暴走を生みやすい……たぶんな。俺自身も敵意と殺意のままに、敵を殺し続けたからよく分かる」
俺は小さく息をついた。
「けど、敵と味方を見誤るのは行き過ぎだ。お前は、あの女に操られているだけなんだ」
「ふう……ふう……」
ルークの様子が変わってきた。
俺との会話で多少落ち着きを取り戻したか?
彼と、それなりに似た境遇があるかもしれない俺との会話で──。
「俺は帝国に復讐する。敵兵を皆殺しにしてやる。だけど、それだけじゃない。王国の民を守りたいし、騎士団で仲間になった連中も守りたい」
俺はふたたびルークに呼びかける。
「その『仲間』の中にはお前も入ってるんだぞ、ルーク」
「なか……ま……」
ルークの動きが、一瞬鈍る。
ん、これは──。
ルークが、動揺している……!?
まさか、さっき俺が口にした言葉がきっかけか?
じゃあ、もしかしたら──。
突破口が、あるかもしれない。
戦いではなく、別のアプローチで。
「戻ってこい、ルーク!」
もっと強く呼びかける。
目を覚ましてくれ。
元に戻ってくれ──。
「うう……う……」
頭を抱えるルーク。
やっぱり、明らかに動揺していた。
「馬鹿な! ただ呼びかけただけで、指令の効力が薄れるなんて──」
女科学者がうめく。
「ええい、あたしの言うことを聞け! あんたは戦うための人形だ! 命令通りに敵を殺せばいいんだよ、レグルシリーズ!」
「違う! ルークは人間だ! お前たちの道具じゃないし、人形じゃない!」
俺は叫び返した。
「俺たちの──仲間だ!」
「うああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
そして。
ルークは絶叫とともに倒れた。