12 ルーク4
「【レイウイング】!」
ルークの背に薄桃色に輝く翼が生まれ、その推進力で一気に距離を詰めてきた。
高速移動系のスキルだ。
さらに、
「俺の間合いだ──【メルトクロー】!」
その左手が闘気の炎に包まれ、真っ赤に燃え上がる。
俺の剣をつかみ、そのまま砕き折ってしまった。
「剣が──」
「終わりだ」
ルークが右手で剣を振り上げる。
対する俺は、素手だ。
ルークを見つめる。
敵意と殺意に満ちた表情だった。
──いや。
違うぞ、これは──。
あることに気づき、俺は前に出た。
「ぐっ……」
肩口を浅く薙がれながらも、体当たりでルークを吹っ飛ばす。
「どいてくれ、マリウス! 私が代わる!」
リーザが走ってきた。
「いや、俺がやる。さがっていてくれ」
それを制し、俺は一歩前に踏み出した。
「だが、君は剣を失って──」
「やっぱり、放っておけない」
俺は言い放った。
さっき、ルークの目を見てしまった。
正面からまともに見て、気づいた。
血の涙を流すような、苦しげで悲しげな瞳を。
「苦しいんだな、ルーク」
俺が必ず救い出してやる。
聖竜騎士団の、仲間として──。
「武器を失ってもまだ戦う気か? 舐めるな!」
ルークはふたたび背に光の翼を生み、駆け出した。
【ソニックムーブ】をしのぐ、すさまじい速度である。
素手ではうかつに迎撃できない。
俺は防御主体の動きで、奴の斬撃から逃れ続ける。
──だが、
「くっ……」
二十撃ほど避けたところで目測を誤り、二の腕辺りを浅く斬られた。
いや、違う。
目測を誤ったんじゃない。
「ルークの動きが速くなっている──?」
そう、一撃ごとにルークの繰り出す斬撃は鋭さを増していた。
身のこなしも、どんどん速度を増している。
俺の身体能力をもってしても、対応に手こずるほどに。
「そいつは特別製だよ。あたしたち研究チームの最高傑作──『失われし実験体』と呼ばれる、ね」
女科学者が得意げに告げた。
「さあ、あんたの力をもっと見せつけるんだ、ルーク!」
「うおおおおおおおおおおおっ!」
薄桃色に輝くショートソードを掲げ、ルークが突っこんでくる。
「【ディフェンダー】!」
「【パワーブレード】!」
俺の防御スキルを、ルークの剛力斬撃スキルが無理やり切り裂いた。
「くっ……」
とっさに前蹴りを繰り出し、ルークを吹き飛ばす。
その勢いでなんとか距離を取った。
「まだまだぁっ!」
ルークはなおも距離を詰めてくる。
さっきよりもさらに速い!
「戦闘の最中にも、そいつは成長していく。無限に」
語る女科学者。
「実験体の中で唯一、ラ・ヴィムの失われた技術を再現した『経験値倍増機構』を積んでいるからね」
経験値倍増、か。
まるで俺みたいだな……。
内心で苦笑する。
もっとも彼の場合は、戦闘時にもどんどんと成長していくようだ。
戦闘の一区切りでしか成長しない俺とは、そこが違う。
現に、ルークの斬撃はどんどんと速く、激しくなっていく。
「強いな」
だからこそ、お前が必要だ。
これからの帝国や魔神との戦いに。
王国の人々を守るための戦いに。
「だからこそ──俺がここでお前を助ける!」