表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/144

9 ルーク1

 呼ぶ声がした。

 妙に懐かしい、声。


「俺は……」


 ルークは周囲を見回す。


「ルーク隊長?」


 怪訝そうにこちらを見つめるウェンディ。


 可愛らしいその顔が──。

 まるで怪物のように、見えた。


 攻撃せよ。

 破壊せよ。

 駆逐せよ。

 殲滅せよ。


 頭の中がそんな言葉に埋め尽くされる。




 次の瞬間、目の前の景色が一変した。


「ここは……?」


 覚えが、ある。

 そう、遠い記憶の果てに。


「俺の……生まれ故郷だ……」


 どくん、と心臓の鼓動が早まる。


「どうしたの、ルーク」

「疲れたのかしら? 少し休む?」


 三十歳前くらいの男女が、小さな男の子に声をかけている。

 ルークは中空に浮かび、それを見下ろしていた。


「父さん……母さん……」


 ルークは呆然とつぶやいた。

 眼下にいるのは幼少期の自分と、その両親。


「昨日の夜から『あしたはピクニックだー』ってはしゃいでたもんね、ルーク。きっと張り切りすぎて疲れたんでしょ」


 その側で微笑む十代半ばくらいの美少女はルークの姉である。

 なぜか、理由は分からないが……ルークは意識だけの存在になり、過去の自分に起きた出来事を俯瞰している、ということだろうか。


「待てよ、ピクニックってことは……」


 ルークはハッと気づく。


「この光景は、まさか」


 心臓の鼓動がさらに早まる。


 どくん、どくん。


 どくんどくんどくんどくん……!


「に、逃げて……っ!」


 ルークが思わず叫んだ直後、




 爆光が、弾けた。




 中空に浮かぶルークはその影響を受けない。


 だが、眼下にいる子ども時代のルークは大きく吹き飛ばされていた。

 地面に叩きつけられ、倒れる。


「うう……」


 苦痛に顔をゆがめながら、なんとか体を起こす小さなルーク。


「あ……」


 ルークは言葉を失った。

 視線を移すと、父と母が倒れているのが見えた。


 かろうじて人の形を保っている。

 だが、その全身が真っ黒に焼け焦げ、完全に炭化していた。


 即死、している。


「とうさん……かあさん……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……!」


 黒こげの死体を前に、ルークと子ども時代の彼の声が唱和した。


 さらに、視線を移す。

 そこには姉がいた。


 胸にぽっかりと空いた、大きな穴。

 あらぬ方向を向いた四肢。


 先ほどの爆風と衝撃波に巻きこまれ、すでに姉も死んでいたのだ。


「あ……ああああああああああああああああああ……」


 同じだ、あのときと。


 かつてルークは六歳のときに両親と姉を失った。

 原因は、その付近で行われたミランシアとガイアスとの戦闘の流れ弾──高火力スキルが近くに着弾し、その威力に巻きこまれたからだ。


 ルークだけは偶然、両親や姉の体が盾になってくれたらしく、軽傷で済んだ。

 何年たっても消えることも薄れることもない、悲嘆と絶望、そして喪失感。


 それを追体験したことで、ルークは呆然自失の状態だった。

 頭の中が痺れたように何も考えられない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ