9 ルーク1
呼ぶ声がした。
妙に懐かしい、声。
「俺は……」
ルークは周囲を見回す。
「ルーク隊長?」
怪訝そうにこちらを見つめるウェンディ。
可愛らしいその顔が──。
まるで怪物のように、見えた。
攻撃せよ。
破壊せよ。
駆逐せよ。
殲滅せよ。
頭の中がそんな言葉に埋め尽くされる。
次の瞬間、目の前の景色が一変した。
「ここは……?」
覚えが、ある。
そう、遠い記憶の果てに。
「俺の……生まれ故郷だ……」
どくん、と心臓の鼓動が早まる。
「どうしたの、ルーク」
「疲れたのかしら? 少し休む?」
三十歳前くらいの男女が、小さな男の子に声をかけている。
ルークは中空に浮かび、それを見下ろしていた。
「父さん……母さん……」
ルークは呆然とつぶやいた。
眼下にいるのは幼少期の自分と、その両親。
「昨日の夜から『あしたはピクニックだー』ってはしゃいでたもんね、ルーク。きっと張り切りすぎて疲れたんでしょ」
その側で微笑む十代半ばくらいの美少女はルークの姉である。
なぜか、理由は分からないが……ルークは意識だけの存在になり、過去の自分に起きた出来事を俯瞰している、ということだろうか。
「待てよ、ピクニックってことは……」
ルークはハッと気づく。
「この光景は、まさか」
心臓の鼓動がさらに早まる。
どくん、どくん。
どくんどくんどくんどくん……!
「に、逃げて……っ!」
ルークが思わず叫んだ直後、
爆光が、弾けた。
中空に浮かぶルークはその影響を受けない。
だが、眼下にいる子ども時代のルークは大きく吹き飛ばされていた。
地面に叩きつけられ、倒れる。
「うう……」
苦痛に顔をゆがめながら、なんとか体を起こす小さなルーク。
「あ……」
ルークは言葉を失った。
視線を移すと、父と母が倒れているのが見えた。
かろうじて人の形を保っている。
だが、その全身が真っ黒に焼け焦げ、完全に炭化していた。
即死、している。
「とうさん……かあさん……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……!」
黒こげの死体を前に、ルークと子ども時代の彼の声が唱和した。
さらに、視線を移す。
そこには姉がいた。
胸にぽっかりと空いた、大きな穴。
あらぬ方向を向いた四肢。
先ほどの爆風と衝撃波に巻きこまれ、すでに姉も死んでいたのだ。
「あ……ああああああああああああああああああ……」
同じだ、あのときと。
かつてルークは六歳のときに両親と姉を失った。
原因は、その付近で行われたミランシアとガイアスとの戦闘の流れ弾──高火力スキルが近くに着弾し、その威力に巻きこまれたからだ。
ルークだけは偶然、両親や姉の体が盾になってくれたらしく、軽傷で済んだ。
何年たっても消えることも薄れることもない、悲嘆と絶望、そして喪失感。
それを追体験したことで、ルークは呆然自失の状態だった。
頭の中が痺れたように何も考えられない。