7 疑似生命
部屋のあちこちに設置されていた石像が鳴動する。
禍々しい獣の顔に翼を備えた四足獣。
どことなく悪魔を思わせる雰囲気の石像。
それらが、まるで生きているかのように動き出した。
るおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ。
魔獣と化したそれらがいっせいに吠える。
「ガーゴイルか」
リーザが聖剣を抜いた。
「ガーゴイル?」
「例によって人造の魔獣だろう。石像に擬態し、侵入者を見ると魔獣と化して襲いかかる──」
その説明が終わる前に、人造ガーゴイルたちが向かってきた。
俺も剣を抜く。
「私とマリウスが前衛を務める。君たちは後ろへ!」
リーザが叫んだ。
「ふん、ガーゴイルは石の魔獣だ。硬くて剣では斬れないよ」
鼻を鳴らす女研究者。
「たとえスキルを使ってもね。このベロニカ様が開発した特別製さ、そいつらは」
「【ソニックムーブ】!」
俺は音速の動きでガーゴイルに接近した。
剣を振るい、【パワーブレード】で強引に斬り伏せる。
「剣で斬れるみたいだぞ?」
俺はニヤリと笑った。
「くっ……」
女研究者──ベロニカがたじろぐ。
「何者だ……普通の人間のスキルレベルでは、ガーゴイルは斬れないはず……」
「ちょっとばかり、普通の人間より経験を積んでるんでね」
俺はさらに返す刀で二体のガーゴイルを斬り倒す。
とはいえ、さすがに石の体は硬い。
しかもベロニカの話では特別製らしいからな。
気を付けないと、剣がすぐに駄目になりそうだ。
「私の武器の方がガーゴイル退治には向いてそうだな」
リーザが前に出た。
聖剣アストライアでガーゴイルの石の体を紙切れのように斬り裂いていく。
「ん、もしかしてそれは聖剣……? ラ・ヴィムの遺跡から持ち出したのかい」
ベロニカが興味深げにリーザを見た。
「あんたを殺して聖剣もいただこうかねぇ」
「あいにく、これは王国が魔神と戦うために欠かせない武器だ。君には渡せない」
凛々しく告げたリーザがさらにガーゴイルを三体まとめて両断する。
「ガーゴイルでは駄目か……ならば!」
ベロニカが懐から何かを取り出した。
小さな四角い箱──。
その中心部に赤いボタンがついている。
「お目覚めだよ、レグルシリーズ! そいつらを一人残らず殺せ!」
ベロニカがボタンを押した。
同時に、すべてのカプセルが開いていく。
そう、ルークそっくりの人物が入っていた培養槽である。
内部の液体が床にこぼれ落ちた。
水を滴らせながら、ルークそっくりの連中が床に降り立つ。
全部で、七人。
そのうち男が五人、女が二人だ。
いずれも体にぴっちりと張り付いた黒い戦闘スーツをまとっていた。
「そいつらはあたしが開発した疑似生命さ。常人をはるかに超える戦闘能力を持つ化け物だよ、ひひひ」
ベロニカが笑う。
俺はルークそっくりの戦士たちを見据えた。
……なるほど。
雰囲気で、分かる。
強烈なプレッシャーが全身を震わせる。
今までの人造魔獣なんかより、よっぽど厄介な相手らしい。
と──、
るおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!
ガーゴイルの一体が、俺とリーザの間をすり抜け、リズたちの元へ突進した。
疑似生命とやらに気を取られた一瞬のスキを突かれたのだ。
「あたしだって!」
リズが剣を構える。
ばぐん、と義手の装甲版が開いた。
「異能増幅器作動──【インパルスブレード】!」
振り下ろした剣から衝撃波がほとばしった。
その衝撃波が赤い光に覆われたかと思うと──。
ごがあっ!
ガーゴイルを一撃で粉砕する。
なかなかの威力である。
攻撃系のスキルもかなりの高威力に増幅できるらしい。
これならガーゴイルの方は任せてもいいかもしれない。
「リズたちはガーゴイルを迎撃してくれ。ただし無理は禁物。あくまでも自分たちが生き残ることを優先に」
俺は指示を出した。
「そして、このルークそっくりの連中は──」
「ああ、私たちがやるしかない」
リーザとうなずきあう。
俺と彼女は並んで剣を構えた。