6 最奥で出会ったもの
まっすぐに続く廊下を俺たちはひたすら進んでいた。
途中、何度か人造魔獣が現れたが俺とリーザが苦もなく打ち倒す。
やはり、明らかに『侵入者』を迎撃するための魔獣のようだ。
この奥に一体何があるのか──。
やがて廊下の突き当たりに来ると、そこに扉があった。
「この向こうだな」
かすかな悲鳴が部屋の向こう側から断続的に聞こえる。
「全員、気をつけろ」
「マリウス隊長、ここはあたしが」
リズが進み出た。
右腕を扉に向ける。
以前、魔獣との戦いで彼女は右腕を失った。
現在は、魔導技術による義手を装着しているようだ。
黒鉄色をした武骨な腕。
ばぐんっ、と音を立て、各部の装甲板が開いた。
「異能増幅器作動──【開錠】」
淡い光がもれたかと思うと、かちり、と音を立てて扉の錠が開いた。
「今のは──」
「あたしの義手にはスキル効果を増幅する機能が仕込まれているんです。ミランシアでも最新鋭の魔導技術です」
と、リズ。
「右腕を失って、あたしは以前より強くなった──そう自負しています」
眼鏡の奥の瞳が、凛と光っていた。
「よくやったぞ、リズ。では侵入しよう」
リーザが言った。
ギギィ……。
かすかに軋む鉄扉を押し開け、俺たちは室内に足を踏み入れた。
室内は薄暗い。
不気味な魔獣の像が数十単位で陳列されている。
さらに奥にはm全高2メートルほどのカプセルがいくつか並んでいた。
内部は緑色の培養液らしきもので満たされている。
こぽ、こぽ……。
時折、カプセル内に水泡が立つ。
「あれは……!?」
俺は内部にあるものに気づき、眉を寄せた。
膝を抱えて体を丸めた人影──。
「ルーク……!?」
カプセル内にいるのは、ルークだった。
……いや、そんなはずはない。
彼は研究所の外で待機している。
だが、カプセルの中にいる人物はルークそっくりだ。
「こっちも同じだ……どうやらカプセルの中に一人ずついるらしい」
リーザがうめいた。
見回ると、全員がルークとそっくりの顔立ちだった。
中には女性型もいたが、そいつもルークを女にしたような顔をしている。
「隊長によく似ています。全員──」
リズが呆然とつぶやく。
中年騎士たちも戸惑いを隠せない様子だ。
カプセルの中の奴らはルークと何か関係があるのか?
そして──。
ルークは、この研究所と何か関係があるのか……!?
「研究成果を盗み見とはいただけないねぇ」
部屋の奥から誰かが歩いてきた。
「結界をかいくぐって侵入するとは、他国のスパイかい? それともミランシアの調査部隊? どちらにせよ、そいつを見た者は生かして帰すわけにはいかないねぇ」
白衣を着た二十代くらいの女だ。
眼鏡をかけた知的そうな美人だった。
俺たちを見据える瞳は、どこか濁った眼光をたたえている。
「私たちは聖竜騎士団だ。君と敵対する理由はない」
リーザが凛と言い放った。
「ここから悲鳴のようなものが聞こえた。事情を聞かせてもらおう」
俺が一歩前に出る。
この女はどうにも得体が知れない。
いざというときにみんなを守れるよう、俺が一番前にいたほうがよさそうだ。
「悲鳴? さあ、どれのことだか」
女は首をかしげた。
「ここでは人体実験なんて日常茶飯事だからねぇ。さっきも一人──やりすぎで死んじゃったし」
こいつ──。
「人体実験なんて許されると思っているのか。王都に連行して事情を詳しく聞かせてもらう」
「遠慮させてもらうよ。ここでやってることを知られたら死罪だし」
女はヘラヘラと笑っている。
「まだ死にたくないから──あんたらを口封じさせてもらおうかねぇ」
るおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ。
女の言葉とともに、部屋のあちこちから獰猛な雄たけびが響き渡った──。




