5 研究所2
俺の一撃が人造マンティコアを両断する。
が、その間にもう一体がリーザの方に向かっていた。
「リーザ、今行く!」
急いでフォローに向かおうとする俺。
「大丈夫だ、マリウス」
リーザがそれを手で制した。
「私は聖剣アストライアに選ばれた騎士。これくらいの相手は一人で倒せなければ──」
すらりと抜いた剣が、まばゆい光を放つ。
細く優美な刀身も、装飾の多い柄も、すべてが虹色。
剣というよりも芸術品のような美麗な外観である。
聖剣アストライア。
オルトの大森林で、リーザがその所有者として選ばれた剣だ。
「聖剣に笑われてしまう」
彼女がすれ違いざまに繰り出した斬撃は、マンティコアの首をあっさりと刎ね飛ばした。
「お見事」
思わずつぶやく俺。
「聖剣のスキルを使うまでもないな。先を急ごう」
リーザは聖剣を鞘に納めて言った。
俺たちはふたたび進みだす。
「さっきの魔獣はなんだったんだ?」
「分からない。ただ……もしかしたら、ここで研究している実験体なのかもしれないな」
「実験体? 魔獣が?」
「噂では、な。ラ・ヴィムの研究に関しては、六番隊の隊長が深くかかわっているようだが──私たち隊長クラスにもほとんど情報が回ってこない」
リーザが首を左右に振る。
「六番隊か」
「あそこの隊長は徹底した秘密主義だからな……」
と、そのとき、
ぐるるるるおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ。
ふたたび前方から雄たけびが聞こえてきた。
巨大なシルエットが七体ほど現れる。
今度も魔獣のようだ。
しかも気配からして、さっきと同じ人造魔獣だろうか。
「また実験体が暴走でもしたか? それとも野良の魔獣が迷いこんだか」
リーザはため息交じりに聖剣を抜いた。
「──いや、あるいは」
俺は嫌な予感を胸に、剣を構える。
「こいつらは『警備兵』じゃないのか?」
だとすれば、こいつらが守るものとはなんだ?
貴重な研究成果を守っているのか。
重要機密を守っているのか。
あるいは──他者に見られてはまずいようなものを守っているのか。
……なんて考えるのは飛躍しすぎだろうか。
「怪しいな。ここには何かがある」
リーザが険しい表情でつぶやく。
さっきから、ずっとこんな顔つきだ。
「リーザ……?」
「私は、ミランシアの暗部を暴きたい。敵は帝国だけではない。我が国の内部にも──」
「危ない!」
ふいに、背後から何かが迫るのを感じ、俺はリーザを押し倒した。
折り重なって倒れる俺たち。
直後、そのすぐ上を何かが高速で通り抜けていった。
ばぎぃっ……!
壁に巨大な槍が突き刺さる。
立ったままだったら、確実にアレに貫かれていただろう。
「大丈夫か、リーザ?」
押し倒し、体の下になっている彼女に声をかける。
すぐ間近にリーザの顔があった。
息が触れ、ぞくっとなる。
「助かったよ。ありがとう、マリウス」
いつも通りのクールな口調で答える女騎士。
対して、俺は少しドギマギとしてしまった。
落ち着け、俺。
これじゃ、どっちが年上だか分かりやしないな。
内心苦笑しながら、俺はリーザの上からどいた。
「人造魔獣に加えて、罠の類まであるとは」
立ち上がった彼女がつぶやく。
聖剣を抜き、油断なく構えた。
「侵入者の迎撃準備が厳重すぎる。よほど大事な研究成果か……あるいは見られたくないものが、この奥にあるのか」
先ほど俺が考えていたのと、同じようなことを告げるリーザ。
「さっき、この奥から悲鳴が聞こえた。その者を助けるのはもちろんだが──もう一つ。この研究所が禁忌の研究を行っているとしたら、それを暴く」
「リーザ……」
「手伝ってくれ、マリウス」
「──ああ」




