4 研究所1
「ルークが……人間じゃない……?」
俺は驚いてリーザを見つめた。
「どういうことだ?」
声をひそめてたずねる。
「あくまでも噂だ。他言は無用で頼む」
リーザはそう断った。
「まず先史文明の研究事情から説明した方がよさそうだな」
そう前置きして話し出すリーザ。
ラ・ヴィムの魔導技術は現在よりもはるかに進んでいた。
その技術のほとんどは失われており、わずかに先史文明遺跡にその痕跡を残す程度だ。
なんとか現代にその技術の一端だけでもよみがえらせようと、各国で研究が盛んである。
もちろんミランシアでもそういった研究は行われている。
ただし、それらの技術の中には国際的に禁忌とされるものもある。
その一つが『人工生命』や『改造生命』の制作だった。
倫理面での問題のみならず、これが実用化されれば強力な人造兵士を生み出すことも可能な技術だった。
それだけに国際的にこの研究は禁じられている。
「どうやらミランシア国内には、その研究をひそかに進めている場所があったらしい。噂レベルだが、な」
と、リーザ、
「非道な人体実験が行われているとか、よからぬ噂がいくつもあるんだ」
随分ときな臭い話である。
「……じゃあ、ルークが人間じゃないっていう噂は」
「そうだ。彼は研究所で生み出された実験──」
リーザが言いかけた、そのとき。
突然、側面の壁が爆発するように吹き飛んだ。
そこから巨大なシルエットが現れる。
「ひ、ひいっ……!?」
中年騎士の一人が、体当たりを受けて吹っ飛ばされた。
壁にたたきつけられ、うずくまる。
「がはっ……あぐ……ぅ」
骨が折れたのか動けないようだ。
「大丈夫か!」
「な、なんとか……」
声をかけるリーザにうなずく中年騎士。
が、その顔は苦悶に歪んでいる。
明らかに戦闘不能だ。
「こいつ──」
俺はあらためて敵を見据える。
人面の、獅子。
以前に戦ったマンティコアによく似た姿だった。
「魔獣……か?」
だが、何かが違う。
まとっている気配が、明らかに異質だ。
生物のような気配を感じない。
「まさか」
リーザが愕然とした表情でうめく。
「人造の魔獣……!?」
「人造?」
「こんなものまで研究しているのか……」
リーザの表情は険しかった。
「があっ!」
咆哮とともに襲いかかる人造マンティコア。
繰り出される爪を、牙を、俺は剣で弾き返した。
なかなかの強さだが、本家のマンティコアには及ばないようだ。
後は──本家と同じスキルを持っているのかどうか。
「【裂空】」
警戒した通り、人造マンティコアがスキルを放ってきた。
空間を超えて物体を切断する強力なスキルである。
俺はその場から大きくサイドステップし、これをかわした。
一瞬前まで立っていた床がずたずたに避ける。
「ぐるるる……」
悔しげにうなる人造マンティコア。
俺は引き裂かれた床を一瞥し、敵に視線を戻した。
さすがに恐るべきスキルだ。
あのときはマンティコアのスキル発動の癖を見抜き、対応した。
だが、今はもうそんな対策は必要ない。
「【裂空】──」
奴がふたたびスキルを使う直前、俺は一気に加速した。
あのころとは比べ物にならないほどレベルが上がった俺は、身体能力も当時の比ではない。
今の俺は、パワーやスピード、反応速度といった基本ステータスのみでマンティコアを圧倒できる──。
「【パワーブレード】!」
渾身の一撃で、俺は人造魔獣を真っ二つにした。