3 迷いこんだ先
「ルーク、この場所が分かるのか?」
「ここは──」
言いかけて、ルークはうつむいた。
何かを逡巡するような表情だ。
ふうっと息をつくと、ルークはふたたび顔を上げた。
「ここはおそらく──先史文明の研究施設です」
「先史文明……?」
古代に栄えていたその文明は『ラ・ヴィム』と呼ばれている。
以前に総隊長から聞いた話では、現代よりも神や魔といった存在に関する研究が進んでいたのだという。
「ラ・ヴィムの研究施設は『迷彩結界』と呼ばれる防護フィールドに覆われているんです。これも先史文明の遺産なんですが、外部からは研究所を認識できなくなります。その名の通り、強力な迷彩効果を発揮させる結界ですね」
ルークが説明する。
「研究成果を狙って侵入する者が後を絶たなかったための自衛措置なんですが……なぜか、ここの研究所の結界は解除されたようですね……そのせいで俺たちにも視認できるんでしょう」
結界が解除された……?
もしかして、さっきの聖剣の光が原因だろうか?
「それはそうと……詳しいんだな、ルーク」
「俺は……」
何気ない俺の言葉に、ルークはうつむいた。
「いえ、以前にそんな話を資料で見たことがあるだけです」
と、暗い顔で首を左右に振った。
何かを隠している──。
明らかにそんな様子だ。
「まあ、今は任務中だ。目的地に向かおう」
俺は話を切り上げた。
「きゃあああああああああああああああああっ……!」
甲高い悲鳴が聞こえてきたのは、そのときだった。
「なんだ……!?」
悲鳴は、研究所の奥から聞こえてくる。
それも断続的に、何度も何度も。
誰かが襲われている──?
「助けに行こう」
俺は研究所の入り口に向かった。
「今は任務中です。先を急ぐべきでは?」
二番隊の中年騎士たちが言った。
「けど、誰かが襲われている様子だったんだ。見に行ったほうがいいだろう」
「任務はもちろん重要だ。だが、私たちは騎士。人を守るのが本分だからな。様子を見に行こう」
リーザが彼らをなだめる。
「……隊長がそう仰るなら」
うなずく中年騎士たち。
「俺は、ここで待機していてもいいですか?」
ルークが言った。
なぜか青ざめた顔だ。
「ルーク……?」
「その……全員が中に入るより、外で備える人間もいたほうがいいかと……」
説明する声には力がない。
普段の勝ち気な性格が嘘のようだ。
まさか怖気づいているわけでもあるまい。
何か事情があるんだろうか、少し様子が変だ。
とはいえ、詮索している状況でもない。
「じゃあ、頼めるか。他にも何人か残ってくれ」
俺はルークに言った。
俺はリーザや二番隊の中年騎士三人、九番隊のリズ……というメンバーで研究所内を進んでいた。
内部には人けがまったくない。
不気味なほど静まり返っている。
そんな中、奥の方から時折悲鳴が聞こえてきた。
「……どう思う、マリウス?」
リーザが俺に近づき、耳打ちした。
「どう、とは?」
「さっきのルークの態度だ」
リーザが眉をひそめている。
「ここに入るのを避けているように見えた」
「だが、外で備える人間がいた方がいい、というのは事実だろう」
「確かにそうだが……彼らしくない態度の気がしてな」
「こういうとき、真っ先に志願しそうな感じに見えるな」
俺はわずかに肩をすくめた。
といっても、ルークとの付き合いは長くない。
あくまでも外面からのイメージである。
「彼は、もしかしたら」
言って、リーザが口をつぐむ。
「リーザ……?」
「マリウス、君は聖竜騎士団に入って日が浅い。だから、この噂を知らないと思うが……」
リーザが俺にささやく。
「噂?」
「騎士団の一部のものの間では有名な噂さ。彼は──人間ではない、と」




