1 出撃命令
魔神が隣国のシャルテに出現した──。
ジィドさんからの報告に、俺は戦慄していた。
言うまでもなく、十七柱の魔神は帝国にとって最大最強の戦力である。
だが、これまでの戦いで帝国が魔神を出撃させることはほぼなかった。
それがとうとう、前面に出てきたのか。
あるいは今回がレアケースなのか。
しかもミランシアではなく隣国のシャルテを攻めてきたとは──。
「帝国とシャルテ王国は今まで戦闘状態にあったんですか?」
「いえ、隊長。ここ二十年ほど、ガイウスとシャルテは小競り合いレベルもなかったはずです」
と、ジィドさん。
突然の攻撃、ということか……。
「シャルテはすでに四つの都市を落とされたとか。こちらに援軍要請が来ているようです」
「援軍……」
「すぐに総隊長のところへ行ってください」
「分かりました。あとはお願いします」
俺はジィドさんにこの場を任せ、総隊長のところへ向かった。
ブラムス総隊長のところに行くと、そこには金髪の美女騎士と黒髪の美少年騎士がいた。
リーザとルークである。
「来たか、マリウス隊長」
リーザが俺を見つめた。
引き締まった表情は、すでに臨戦態勢といった雰囲気だ。
「今回は共同任務ですね。よろしくお願いします、マリウス隊長」
ルークが一礼する。
「共同任務?」
「それは俺から説明しよう」
と、総隊長。
「魔神の名はヅェルセイル。人型で、外見は二十代の青年のようだ」
魔神には人間と同じような姿をしたものもいれば、獣人やモンスター型もいるそうだが──。
今回は人型ということか。
「シャルテ王国ではすでに四つの都市が陥落したそうですね」
リーザが言った。
「シャルテといえば雷撃騎士団がいるところでしょう。彼らなら魔神相手でもそうそう引けは取らないのでは?」
たずねるルーク。
「その雷撃騎士団が、ほとんど壊滅状態らしい。ヅェルセイルたった一体を相手に、な」
総隊長が苦々しい顔で言った。
「……魔神とは、それほどまでの強さということですか」
ルークが険しい表情になった。
「ああ、魔神の能力は計り知れない。大軍を持って当たったところで、確実に勝てる見込みはない。ゆえに今回は少数精鋭──一騎当千の力を持つ君たちに頼みたい」
総隊長が俺たちを見て言った。
「聖竜騎士団随一の攻撃能力を持つマリウス隊長、聖剣の所有者に選ばれたリーザ隊長。君たちならば、魔神を相手にも立ち向かえる可能性がある。そして攻防ともに高レベルのスキルを備えたルーク隊長には二人のサポートを願いたい」
「お二人とともに戦えるのは光栄です」
ルークの態度は生真面目だ。
「君とて黄金世代の首席だろう。私こそ光栄だよ」
リーザが微笑んだ。
「もちろん、マリウス隊長との二度目の共同任務も、な。頼りにしている」
「俺も、な」
と、リーザに返す俺。
「ああ、私の全身全霊を持って魔神に立ち向かおう。我が聖剣に懸けて」
「出撃は私たち三人で?」
俺は総隊長にたずねた。
隊長クラス三人だけで任務にあたる、ということだろうか。
「いや、道中に何があるか分からないし、魔神が新たに援軍を──たとえば配下の魔獣を呼ぶかもしれない。君たちの隊からそれぞれ手練の者を数人選出し、合計十人程度の隊を組んで任務にあたってほしい」
俺はさっそく隊舎に戻ると、ジィドさんと相談のうえでメンバーを決めた。
「光栄です、隊長! あたし、精一杯がんばります!」
「わーい、一緒の任務だね、サーシャちゃん!」
ウェンディがサーシャに抱き着いていた。
そう、今回俺と同行するのは彼女たち二人だった。
「あたしたち八十七期生の力を見せよう」
「だね」
この二人には、同期ならではの連携の良さを期待したいところだ──。