10 訓練風景2
「十二番隊に転属が決まってから、ずっとこの日がくるのを待っていました」
サーシャは嬉しそうに語る。
瞳が爛々と輝いていた。
「ほんの少し前までは戦いの素人──一介の農民だった方が、今や時の英雄。あたしは憧れました。強烈に」
「……英雄になりたいのか、サーシャは」
「ええ、あたしはそのために騎士になりました」
サーシャが剣を構える。
「不遜を承知で申し上げるなら、あなたはあたしの憧れであり、目標であり、そしていずれ到達し、超えるべき相手です」
「なら、今超えてみせろ」
俺も剣を構えた。
「君は若く才能もある。もっともっと強くなれる」
「……っ! は、はいっ」
俺の鼓舞が効いたのか、サーシャは顔を赤くしてうなずく。
実際、彼女だけでなくすべての部下に強くなってほしいと思う。
戦況によっては、俺が単騎で切り開ける場面はあるだろう。
たとえば、オルト砦での戦いのように。
だが、部下たちが自力で敵と対峙し、勝たなければならない場面も当然ありうる。
いくら俺が【経験値1000倍ボーナス】で戦うたびに強くなるといっても、個人での戦闘範囲には限界がある。
むしろ、そんな戦況のほうが多いかもしれない。
だからこそ、彼女たちには強くなってほしい。
生き残るために。
これからも生きて、生き続けるために。
特に席次が上位の者たちは戦闘の要だ。
俺の手で、少しでも彼女たちの実力を引き上げておきたい──。
「【アクセルムーブ】!」
サーシャがいきなり高速移動スキルで突進してきた。
戦闘開始の合図を待たずに仕掛けてきたか!
「模擬戦はもう始まっていますよ、隊長! 遠慮なくいきますからねっ」
「ああ、それでいい」
容赦なく隙をつこうとしてくるサーシャを、俺は嬉しく思った。
憧れは憧れとして、勝負はまた別物。
彼女からそんな気概を感じたからだ。
「始めようか、サーシャ!」
「つ、強い……!」
サーシャはがくりと地面に膝をついていた。
「参りました、隊長」
と、俺に一礼する。
──勝負は一瞬でついた。
高速での突進攻撃から得意のヒット&アウェイを仕掛けようとしたサーシャを、俺はそれ以上のスピードでもって迎撃。
すれ違いざまに一撃を叩きこみ、彼女を打ちのめしたのだ。
「いい動きだった。が、少し直線的すぎるな。お前の動きは読みやすい」
「うう……それは隊長の動体視力や反射神経が常識外れだからでは?」
サーシャがジト目で俺を見た。
「そ、そうか?」
「でも、がんばります。戦場で、隊長のように常識外れの能力を持つ敵に出会わないとも限りませんし」
「あのクールなサーシャがニコニコ顔だ……」
「あれ、隊長に惚れてるよな……?」
「さすが隊長……」
周囲からそんなヒソヒソ声が聞こえた。
いや、サーシャが俺に惚れているというのは、さすがにないと思うが。
「はいはーい、次はボク! ボクの番ですねっ」
ウェンディがひょこっと手を上げ、元気よく飛び出してきた。
「じゃあ、今度はお前と模擬戦だ」
俺は剣を握り直し──、
「隊長、訓練は一時中止がよろしいかと」
突然、ジィドさんが駆けこんできた。
ずっと走ってきたのか、息が荒い。
ジィドさんには別の訓練場で十二番隊の席次中位、下位を担当してもらっていたはずだが──?
「……何かありましたか、ジィドさん」
「魔神です。訓練場で緊急報告を受け、慌てて隊長の元に」
ジィドさんが告げる。
険しい表情で。
「今までのように魔獣や魔剣士ではなく魔神が……シャルテ王国内に出現したようです」
次回から第7章「選抜部隊」になります。
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