7 戦いを終えて
【書籍化のご報告】
本作『転生特典【経験値1000倍】を得た村人、無双するたびにレベルアップ! ますます無双してしまう』の書籍化が決定いたしました。これも読んでくださった方々の応援のおかげです。ありがとうございます!
レーベルや発売時期等の詳細はおってご報告いたします~!
俺は聖剣探索行のメンバー……サーシャ、クルス、ジュード、ニーナやウェンディとともに十二番隊の隊舎まで戻ってきた。
「ご無事で帰還され、何よりです。マリウス隊長」
ジィドさんが出迎えてくれた。
「留守中ありがとうございました、ジィドさん」
俺は一礼した。
「魔獣迎撃で十二番隊の指揮を執ってくださったようで……感謝します」
「いえ、王都の各地に魔獣が現れたために、私一人では手が回りませんでした。ウェンディさんに別動隊を任せましたし……」
言って、うつむくジィドさん。
その別動隊でカリナが犠牲になったことをすでに知っているんだろう。
「お前たちもご苦労だった。一緒に来てもらえて助かったよ」
俺は聖剣探索行のメンバーに向き直り、礼を言った。
「いえ、俺は……それほどの役には立っていませんので」
クルスが首を左右に振る。
「ははっ、隊長の強さを目の当たりにして、自信を失ったみたいだな」
「な、何を言うか! 俺は、別に……っ」
ジュードの軽口に、クルスがムッとしたように叫ぶ。
「いや、お前たちは優秀だよ。魔獣との戦いでも見事な連携を見せてくれた。もちろんサーシャも。それにニーナの探索スキルも役立った。聖剣を無事に手に入れられたのは、全員の力だ」
俺は彼らを見回し、笑う。
「あらためて感謝の言葉を述べさせてもらう。ありがとう」
「えへへ」
ニーナが照れたような顔をする。
「あたしは、隊長にそう言っていただけるだけで光栄です」
サーシャがクールな表情にかすかな笑みを浮かべた。
「……次は、俺の実力を隊長に認めさせてみせる」
クルスがポツリとつぶやいた。
「プライドが高いねぇ」
「うるさい。隊長の力は認めている。だが、いつまでも彼の下に甘んじているつもりはない。いずれは俺こそが最強の──」
小声で言い合ってるつもりだろうけど、あいにく全部聞こえてるぞ、クルス、ジュード。
まあ、そういう血気盛んなところも若者らしいというべきか。
その気持ちが向上心につながっているなら、文句なんてない。
彼が俺を超える強さを身に着けてくれるなら、それは騎士団にとっても喜ばしいことだろう。
と、
「サーシャちゃん、お帰り~」
ウェンディがサーシャの下に駆け寄る。
この二人は同期のはずだ。
「あなたも大変だったみたいね、ウェンディ」
普段クールなサーシャも、心なしか表情が柔らかい。
プライベートでも仲がいいのかもしれないな。
「しっかり休養を取ってくれ。俺は総隊長のところへ報告に行く」
言って、俺は隊舎を後にした。
「──マリウス」
出口のところでリーザと出くわす。
「総隊長に報告か? 私も行くところだったんだ」
「じゃあ、一緒に行くか」
俺たちは並んで歩きだす。
「今回は世話になったな、いろいろと」
リーザが俺に微笑んだ。
花のような笑顔にドキッとする。
「あいかわらず君の強さはけた違いだ。惚れ惚れするほどに」
「リーザもな。聖剣に認められてよかったよ」
「これで私も、君のように強くなれればいいんだが。帝国の攻勢はますます激しくなるだろうからな」
言って、リーザはふいに笑みを消した。
「──一つ、聞きたいことがある」
「ん、なんだ?」
「君は今日の戦いで……」
言いかけて、リーザが口をつぐむ。
「いや、やはり後にしよう。そうだな……報告の後、一杯つきあってくれないか? そこで話そう」
人の目を気にするような話、ということか。
「分かった。俺は報告後にもう一度隊舎に戻るから、その後でいいか? 二時間後くらいなら大丈夫だ」
「手数をかけてすまない。じゃあ、その時間で。店は──」
リーザが俺に顔を近づけ、耳打ちした。
ふわり、と柔らかな金髪が頬に触れた。
リーザの息遣いをすぐ身近に感じる。
年甲斐もなくドキッとしてしまった。
報告を終え、隊舎でその日の仕事を済ませた後、待ち合わせの場所でリーザと会った。
場所は王城にほど近い高級酒場。
完全個室制で、防音などの魔法がすべての部屋にかけてあるという。
要は──今回のように、人目に付きたくない話をするために最適な場所だ。
実際、宮廷の要人なんかの御用達らしい。
「まずは──堅苦しい話の前に乾杯といこうか」
「仕事終わりの一杯は格別だな」
俺たちは冗談めかして微笑み合う。
しばらくは雑談に終始した。
こうして落ち着いた場所で、二人きりで話すのは初めてかもしれないな。
「ふう」
二杯目を飲み終えたリーザが息をつく。
酒でほんのり赤く色づいた肌に、妙な艶気を感じてしまう。
俺だって別に女を知らないわけじゃない。
たまにだが、娼館に行くことだってある。
だが──リーザの艶気はそれとはまるで別種だ。
「そろそろ、本題に入ろうか」
見とれていると、リーザがこちらを向いた。
ドキッとして、思わず視線をそらしてしまう。
「? どうした、マリウス?」
「い、いや、なんでも……」
俺は口ごもりつつ、動揺をごまかすように杯をあおった。
「君は帝国の上級騎士──双子の魔剣使いを撃破したと聞いている。彼らは何か言っていたか?」
リーザがたずねる。
「どういう意味だ」
「変だと思わないか、マリウス?」
重ねてたずねるリーザ。
「帝国軍はいきなり王都を急襲した。何重もの防衛網をかいくぐって。いとも簡単に潜入してきたんだ」
彼女の表情が険しい。
そして、苦々しかった。
俺も彼女の言わんとすることを察し、眉を寄せる。
「それは、まさか」
「ああ、誰かが帝国の部隊を王都まで招き入れたんじゃないかと思ってな」
「つまりは──王国内に、帝国との内通者がいるということか」
「それも、かなり高い地位に……な」
リーザがうつむく。
もしかしたら、何がしかの証拠でもつかんでいるんだろうか。
「敵は──帝国だけじゃない」
リーザの言葉に、俺は暗澹たる気持ちになった。