6 魔獣掃討戦
「──さすがですね、マリウス隊長」
ルークが俺の下に歩み寄った。
「奴の防御ごと射撃系スキルで打ち砕くとは」
「お前もよく持ちこたえてくれた。うちの隊員を守ってくれたみたいだな。礼を言う」
俺はルークに一礼した。
それからウェンディの方に向き直る。
「無事か、ウェンディ?」
「ボクはなんとか……ですが、カリナさんが」
ウェンディがうつむく。
その視線の先には、無数の石の欠片があった。
「敵の石化スキルを受けて……」
「……そうか」
俺は小さく息をついた。
間に合わなかった、か。
くおおおおおおおおおおおおおおんっ。
遠くから、咆哮が聞こえてきた。
王都を襲っている魔獣の群れか。
俺は双子剣士のところへ向かうことを最優先し、魔獣軍団に関してはリーザやサーシャたちに任せていた。
が、まだすべてを掃討したわけじゃないんだろう。
「俺は残りの魔獣を討ってくる」
「では、俺も。魔獣は王都の各地を襲っているようですから、手分けして倒しましょう」
と、ルーク。
「わかった。ウェンディは消耗しているようだから、王都の民の避難や負傷者の手当てなどのバックアップを頼む」
言って、俺は駆け出した。
レベル170台の俺の身体能力は、全開にすれば常人をはるかにしのぐ。
まさしく矢のような勢いで大通りを駆け抜けていった。
「あれは──」
数百メートルほど前方に、巨大な虎に似た魔獣の一群が見えた。
全部で二十頭ほどだ。
氷系の攻撃スキルを持っているらしく、全身から氷の矢を放ってくる。
矢を受けた建物や街路が凍りつき、破壊されていく。
騎士団の一隊が応戦していた。
「ひるむな! 王都を守るために、我ら銀獅子騎士団の力を見せるときよ!」
隊長らしき女騎士が叫ぶ。
銀獅子騎士団──近距離攻撃系のスキルに長けた者が多く、白兵戦で無類の強さを誇る騎士団である。
「人間ごときが吠えるな」
虎の魔獣の一頭が氷のブレスを吐き出した。
避けきれずに、彼女の両足が凍りつく。
動けなくなった女騎士に魔獣がゆっくりと近づいた。
「ひ、ひいいいいっ、来ないで……来ないでぇぇぇぇぇっ……ぐぎゃぁっ!」
なすすべなく魔獣の爪に引き裂かれる女騎士。
「い、嫌だぁぁぁぁっ……!」
別の場所では氷漬けにされたまま、魔獣に貪り食われる騎士の姿があった。
やはり、一般的なレベルの騎士にとっては魔獣は恐るべき敵だ。
まともに太刀打ちできるのは、ある程度以上の強さを持った限られた騎士のみ……か。
「そこまでだ!」
俺はさらに加速した。
虎の魔獣たちはいっせいに氷の矢を放つ。
俺は剣を抜いた。
まともに切り払えば、刀身が凍りついて砕けるだろう。
「【豪刃凍花】!」
青く輝く斬撃波でまとめて吹き散らした。
虎の魔獣たちが驚いたように俺を見る。
「あなたは──」
「聖竜騎士団の……マリウス隊長!?」
生き残った騎士たちが俺を見る。
「お前たちは下がっていろ。負傷者の手当てと、王都の住民が残っていたら避難誘導を」
命じて、前に出る俺。
「ま、まさかお一人で戦うつもりですか!?」
騎士の一人が叫んだ。
「無茶です!」
「これ以上、犠牲を出したくない」
言いながら、俺はウェンディの報告を思い出す。
双子剣士との戦いで、石化スキルを受けて殺されたカリナのことを。
俺自身は戦いのたびにレベルを上げ、今では魔獣といえども敵じゃないほどの強さになっている。
だからといって、一人の死者も出さずに戦いを終えられるほど、甘くはない。
いや──いずれは。
誰一人として犠牲にせずに、俺一人で帝国を蹴散らせるくらいに。
「もっと強くならないとな。お前たちは、そのための糧に──いや、経験値にさせてもらう」
俺は魔獣たちを相手に剣を構えた。
「人間ごときが……」
「たった一人で俺たちを相手にする気か」
虎の魔獣たちがうなる。
「凍れ。そして砕けて死ね!」
ふたたび放たれた氷の矢が、四方から俺を襲った。
「【ソニックムーブ】!」
俺は高速移動スキルでそれをすべて避けてみせた。
「なっ……!?」
「は、速すぎ──」
驚愕の声を上げる魔獣たちに、俺は一気に肉薄した。
「【ラピッドブロー】! 【パワーブレード】!」
すれ違いざまに拳撃と斬撃を繰り出す。
絶叫と血しぶきがあがった。
硬い魔獣の体を、力任せに切り裂く。
肉を裂き、骨を断つ。
ちょうど最後の一頭を斬り伏せたところで、ばきん、と剣が折れた。
奴らの体は冷気に覆われていて、剣がかなりのダメージを負ったんだろう。
ただ、こうなることも想定済みだ。
今までにも、敵の体が強固だったり、俺のスキルの威力が強すぎたりで、戦闘中に剣が壊れることはたびたびあった。
そのため、常に予備の剣やナイフなどを多めに携帯している。
俺はそのうちの一本を抜いた。
周囲を見回すと、魔獣は他にいないようだ。
「次の場所に行くか──」
その後も、いくつかの区画で魔獣を退治した。
すでに大半の魔獣はリーザたちや他の騎士団が倒した後だった。
ジィドさんも十二番隊のメンバーを率いて、かなりの数の魔獣を掃討していた。
ほどなくして、王都を襲った魔獣の群れは全滅。
──こうして、聖剣入手任務と帝国からの王都急襲戦はいったん終結した。