表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/144

6 魔獣掃討戦

「──さすがですね、マリウス隊長」


 ルークが俺の下に歩み寄った。


「奴の防御ごと射撃系スキルで打ち砕くとは」

「お前もよく持ちこたえてくれた。うちの隊員を守ってくれたみたいだな。礼を言う」


 俺はルークに一礼した。

 それからウェンディの方に向き直る。


「無事か、ウェンディ?」

「ボクはなんとか……ですが、カリナさんが」


 ウェンディがうつむく。

 その視線の先には、無数の石の欠片があった。


「敵の石化スキルを受けて……」

「……そうか」


 俺は小さく息をついた。

 間に合わなかった、か。


 くおおおおおおおおおおおおおおんっ。


 遠くから、咆哮が聞こえてきた。

 王都を襲っている魔獣の群れか。


 俺は双子剣士のところへ向かうことを最優先し、魔獣軍団に関してはリーザやサーシャたちに任せていた。

 が、まだすべてを掃討したわけじゃないんだろう。


「俺は残りの魔獣を討ってくる」

「では、俺も。魔獣は王都の各地を襲っているようですから、手分けして倒しましょう」


 と、ルーク。


「わかった。ウェンディは消耗しているようだから、王都の民の避難や負傷者の手当てなどのバックアップを頼む」


 言って、俺は駆け出した。




 レベル170台の俺の身体能力は、全開にすれば常人をはるかにしのぐ。

 まさしく矢のような勢いで大通りを駆け抜けていった。


「あれは──」


 数百メートルほど前方に、巨大な虎に似た魔獣の一群が見えた。

 全部で二十頭ほどだ。


 氷系の攻撃スキルを持っているらしく、全身から氷の矢を放ってくる。

 矢を受けた建物や街路が凍りつき、破壊されていく。


 騎士団の一隊が応戦していた。


「ひるむな! 王都を守るために、我ら銀獅子騎士団の力を見せるときよ!」


 隊長らしき女騎士が叫ぶ。

 銀獅子騎士団──近距離攻撃系のスキルに長けた者が多く、白兵戦で無類の強さを誇る騎士団である。


「人間ごときが吠えるな」


 虎の魔獣の一頭が氷のブレスを吐き出した。

 避けきれずに、彼女の両足が凍りつく。


 動けなくなった女騎士に魔獣がゆっくりと近づいた。


「ひ、ひいいいいっ、来ないで……来ないでぇぇぇぇぇっ……ぐぎゃぁっ!」


 なすすべなく魔獣の爪に引き裂かれる女騎士。


「い、嫌だぁぁぁぁっ……!」


 別の場所では氷漬けにされたまま、魔獣に貪り食われる騎士の姿があった。


 やはり、一般的なレベルの騎士にとっては魔獣は恐るべき敵だ。

 まともに太刀打ちできるのは、ある程度以上の強さを持った限られた騎士のみ……か。


「そこまでだ!」


 俺はさらに加速した。

 虎の魔獣たちはいっせいに氷の矢を放つ。


 俺は剣を抜いた。

 まともに切り払えば、刀身が凍りついて砕けるだろう。


「【豪刃凍花(ごうじんとうか)】!」


 青く輝く斬撃波でまとめて吹き散らした。

 虎の魔獣たちが驚いたように俺を見る。


「あなたは──」

「聖竜騎士団の……マリウス隊長!?」


 生き残った騎士たちが俺を見る。


「お前たちは下がっていろ。負傷者の手当てと、王都の住民が残っていたら避難誘導を」


 命じて、前に出る俺。


「ま、まさかお一人で戦うつもりですか!?」


 騎士の一人が叫んだ。


「無茶です!」

「これ以上、犠牲を出したくない」


 言いながら、俺はウェンディの報告を思い出す。


 双子剣士との戦いで、石化スキルを受けて殺されたカリナのことを。

 俺自身は戦いのたびにレベルを上げ、今では魔獣といえども敵じゃないほどの強さになっている。

 だからといって、一人の死者も出さずに戦いを終えられるほど、甘くはない。


 いや──いずれは。

 誰一人として犠牲にせずに、俺一人で帝国を蹴散らせるくらいに。


「もっと強くならないとな。お前たちは、そのための糧に──いや、経験値にさせてもらう」


 俺は魔獣たちを相手に剣を構えた。


「人間ごときが……」

「たった一人で俺たちを相手にする気か」


 虎の魔獣たちがうなる。


「凍れ。そして砕けて死ね!」


 ふたたび放たれた氷の矢が、四方から俺を襲った。


「【ソニックムーブ】!」


 俺は高速移動スキルでそれをすべて避けてみせた。


「なっ……!?」

「は、速すぎ──」


 驚愕の声を上げる魔獣たちに、俺は一気に肉薄した。


「【ラピッドブロー】! 【パワーブレード】!」


 すれ違いざまに拳撃と斬撃を繰り出す。


 絶叫と血しぶきがあがった。


 硬い魔獣の体を、力任せに切り裂く。

 肉を裂き、骨を断つ。


 ちょうど最後の一頭を斬り伏せたところで、ばきん、と剣が折れた。


 奴らの体は冷気に覆われていて、剣がかなりのダメージを負ったんだろう。


 ただ、こうなることも想定済みだ。

 今までにも、敵の体が強固だったり、俺のスキルの威力が強すぎたりで、戦闘中に剣が壊れることはたびたびあった。

 そのため、常に予備の剣やナイフなどを多めに携帯している。


 俺はそのうちの一本を抜いた。

 周囲を見回すと、魔獣は他にいないようだ。


「次の場所に行くか──」




 その後も、いくつかの区画で魔獣を退治した。

 すでに大半の魔獣はリーザたちや他の騎士団が倒した後だった。


 ジィドさんも十二番隊のメンバーを率いて、かなりの数の魔獣を掃討していた。

 ほどなくして、王都を襲った魔獣の群れは全滅。


 ──こうして、聖剣入手任務と帝国からの王都急襲戦はいったん終結した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ