5 破壊の渦
「【インパルスブレード】!」
俺が放った斬撃衝撃波は、双子の魔剣士を直撃した。
まばゆい閃光が、弾ける、
すさまじい轟音が、響く、
彼らは、無数の肉片と化して吹き飛んだ。
ごろり、と二人の生首が地面に転がる。
「無駄だよ」
だが、一瞬後には、元の姿に戻って俺の前に立っていた。
まるで時間でも巻き戻ったかのような、超速の再生能力。
体には傷一つなく、武装には亀裂や焦げすらない。
完全に元通りだ。
「粉々に吹き飛ばしても再生できるのか」
俺はわずかに眉を寄せた。
「頭さえ、無事ならね」
双子が笑う。
やはり、頭部を一撃で破壊するしかないか。
しかし【インパルスブレード】でさえ、頭部だけは傷一つつけられなかった。
「さすがに魔剣のスキルだけあって、なかなか硬いな」
俺は、ふうっ、と息を吐き出した。
さて、どう攻略するか──。
手持ちの最強スキル【破軍竜滅斬】ならさすがに破壊できるだろうが、あれはすでに聖剣探索の際に使ってしまった。
クールタイムがあるから、明日になるまで使用不可能だ。
それ以外の手持ちスキルで、どうにかするしかない。
「──あれ、いってみるか」
ふと思いだす。
聖剣探索の際、トレント群を倒した経験値で、俺のレベルはすでに177に達している。
新たに覚えたスキルに、ちょうど使えそうなものがあったのだ。
中距離射撃スキル【カラミティボルテックス】
クルスが得意とする【バーストボルテックス】の上位スキルである。
発動までに三分間、闘気の溜めが必要になるため、その時間を稼ぐ必要があるが──。
破壊力だけなら【インパルスブレード】の優に十倍。
レベル177の俺が放てば、その威力は絶大なものになるはずだ。
「厄介な相手だ。だからこそ──ここで確実に始末する」
俺は腰の後ろに下げた予備の武器、小型のクロスボウを取り出した。
「ふん、射撃系のスキルでも使う気かい?」
「剣だろうと射撃だろうと、僕らの防御は破れない」
双子剣士は余裕たっぷりだ。
「【石化】!」
今度は彼らから攻撃してきた。
だが、見え見えの攻撃である。
俺はあらかじめ、それを読んでいた。
「【ディフェンダー】!」
防御スキルであっさりと【石化】を弾く。
「そちらの防御も簡単には破れないか……」
つぶやく双子騎士。
と──、
「ん、ぐ……!?」
彼らの表情が、ふいにこわばる。
ん、なんだ……!?
訝しむ俺の前で、
「ごふっ……」
突然、双子が血を吐いた。
「これは……!? ぐっ、もう始まったの……か……」
「話に聞いてはいたけど……ぐうう……か、体への反動がここまで……」
次の瞬間、彼らの全身から血が噴き出した。
「魔剣は使用者を激しく蝕む、と聞いたことがあります」
後方で控えるルークが俺に言った。
「こいつらに、その反動が出てきたのでは?」
「なるほど……」
俺は彼らに視線を戻す。
「ぐう……うう……」
立ち上がる力も失せつつあるのか、二人はその場にうずくまった。
苦しそうだ。
同情を誘うほどに。
だが──だからといって見逃すという選択肢はあり得ない。
こいつらは帝国の騎士。
俺の、敵だ。
「敵は、殺す」
それだけだ。
「【カラミティボルテックス】──チャージスタート」
俺の全身から闘気のオーラが吹き上がる。
チャージに必要な時間は三分。
今の双子剣士にそれを妨害する力はあるまい。
あっという間に三分が経ち、俺はクロスボウを彼らに向けた。
「ぐっ……うう……」
うずくまったまま、こちらを見据える双子。
その目には恐怖の色が浮かんでいた。
「お前たちの負けだ」
俺は冷ややかに告げた。
「まだだ……!」
「僕らは、ラガッハ将軍のために……!」
恐怖に震えながら、彼らはなおも俺をにらみつける。
力が入らないはずの体で、必死に立ち上がろうとする。
こいつらにも、譲れない理由があるんだろう。
誰かのために、あるいは何かのために──。
戦う理由が、あるんだろう。
「だから──なんだっていうんだ」
俺は容赦なく攻撃スキルを発動した。
「【カラミティボルテックス】!」
放ったクロスボウの矢は黄緑色のオーラをまとっていた。
光り輝く矢は、螺旋状の軌跡を描きながら突き進んだ。
街路を削り、周囲の建物を吹き飛ばし、双子の魔剣士に向かっていく。
閃光が、弾けた。
「すみません、ラガッハ将軍……!」
「後は……お願いしま……す……!」
まばゆい光の中に、彼らが溶け消えていく。
重点的に守っている頭部も、ばちっ、ばちっ、とスパークをまき散らしつつ、圧倒的な破壊エネルギーには抗えなかったらしく、あえなく消滅する。
光が晴れると、双子の姿は跡形もなく消えていた。
「帝国軍の連中は殺す。俺が殺す」
俺は自分自身に言い聞かせるようにつぶやいた。
彼らがどんな事情を背負っていようと、関係ない。
敵は──一人残らず、殺す。