3 黄金世代の首席
「聖竜騎士団九番隊隊長、ルーク・レグルだ」
ルークは腰の剣を抜いて構えた。
おおぶりなナイフといった感じのショートソード。
その刀身は淡い輝きをまとっていた。
とあるダンジョンで手に入れたという第一級魔導武具『覇道桜花』だ。
『黄金世代』と呼ばれる第85期生たちは、正規の騎士でさえ歯が立たないダンジョンを、訓練時代にいくつも踏破しているという。
その中でも最難関とされる『運命の迷宮』の最下層まで到達し、ルークはこの魔導武具を手に入れたという話だった。
まさしく、伝説の剣──。
「聞いたことがあるぞ、その名前」
「確か黄金世代とか言われている奴らの中で、最強を誇るのが君だとか」
双子騎士──アロンとカロンがほくそ笑む。
「だが魔剣の前には、雑兵だろうと黄金世代だろうと等しく砕け散る」
「砕けるものならやってみろ」
ルークは凛として言い放った。
「ルーク隊長、そいつらは【石化】スキルを持っています。気を付けて──」
「さっきのやり取りで見せてもらった。問題ない」
ウェンディの警告に、ルークは振り返らずにうなずいた。
「君のように前途ある若者を殺すのは忍びないが──」
「我らが将軍のため、消えてもらう」
双子騎士が同時に魔剣をかざす。
「強い闘気だ」
ルークがつぶやいた。
「闘気とは戦う意思──つまりは、心の強さの具現化。あんたたちにも相応に背負うものがあるってことか」
「当たり前だ!」
叫ぶ双子騎士。
「将軍は孤児だった僕たちを拾い、育ててくださった」
「そして僕らにふさわしい戦場を与えてくださった」
「あの方のために──僕らは命を懸けて、この魔剣を操る」
「そして勝つ!」
「意気込みは買うが、残念だったな」
ルークが歩みを進めた。
敵が致命的なスキルを持っているというのに、どこ吹く風とばかりに。
無警戒に。
大胆に。
「勝つのは俺だ」
「舐めるな──【石化】!」
魔剣が鈍い輝きを発し、二条の閃光がルークに迫った。
避けられるタイミングではない。
「【リアクトベール】!」
ウェンディはとっさにスキルを発動した。
スキルによって生み出された防御フィールドが、ルークの前面を覆う。
「えっ……!?」
ぱきぃぃん、とガラスが割れるような音とともに、【石化】の輝きが【リアクトベール】を粉々に砕いた。
そのままの勢いで、二条の閃光がルークを直撃する。
「ルーク隊長!」
ウェンディは悲鳴を上げた。
ルークは声一つ出せず、たちまち全身が灰色に変色した。
「あっけない。黄金世代なんて大層な呼ばれ方をしているが、大したことないんだね」
「王国最強の聖竜騎士団もこの程度か。僕らだけで王都を落とせそうだよ、くくく」
双子の魔剣士がほくそ笑んだ。
「そんな……!」
ウェンディは呆然とうめく。
逸材ぞろいと言われる黄金世代の首席、ルーク・レグルでさえ──。
【石化】を操る魔剣士には、なすすべもなく敗れ去ってしまった。
「こんな奴、誰が勝てるっていうの……!?」
「──黄金世代を、舐めるなよ」
凛とした声が響いた。
石化したルークの全身が淡く発光している。
「な、何っ……!?」
魔剣士たちが狼狽の声を上げる。
同時に、
ぱきぃぃぃんっ。
甲高い音を立てて、石の体が砕け散った。
その中から、傷一つないルークが現れる。
「な、なぜ……!?」
「俺の『覇道桜花』には状態異常無効化スキルが付与されている」
ルークはショートソードを振りかぶった。
「あんたたちの【石化】は俺の薄皮一枚を石に変えた程度──」
その刀身から薄桃色の輝きがほとばしる。
「自慢のスキルが通用しなくて残念だったな。勝つのは、俺だ」
長剣サイズの光の刃をまとった『覇道桜花』を手に、ルークが前進した。
「そ、そんなはずはない──今度こそ!」
双子の魔剣士はふたたび【石化】を放つ。
だが、結果は同じだ。
ルークの小剣が薄桃色の閃光を放つたび、【石化】の光はすべて撃ち落とされる。
少年騎士はなおも歩みを進め、距離を詰め、
「俺の間合いだ。祈れ──」
魔剣士たちの前で、剣を掲げる。
「【スラッシャーギガ】!」
繰り出された斬撃が双子の魔剣士を切り裂いた。