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1 王都への帰途

 ミランシア王都が襲われている──。


 その報告を受けたのは、聖剣回収任務からの帰路だった。


 どうやって王都までの防衛線を突破したのかは分からない。

 襲撃してきたのは、一部隊。

 魔剣を使う上級騎士が二人と、魔獣が数十体という話だ。


 現在は聖竜騎士団を中心に応戦しているが、苦戦中とのことだった。


 俺たちも早く戻らなければ……!

 馬車に揺られながら、俺は気ばかりが急いていた。


「ふう……」


 ため息をつく。


 先ほどから脱力感がひどくなっていた。

 意識がボーッと薄れ、両手足が軽く痺れて力が入らない感じだ。


 もしかすると、【破軍竜滅斬(はぐんりゅうめつざん)】を撃った影響だろうか。


 前回、竜神を相手に使ったときには、こんな脱力感は覚えなかった。

 だとすれば、理由は【破軍竜滅斬】を使う際に現れる『増幅紋章(ブースタークレスト)』の数が増えたせいかもしれない。

 破壊力が上がる反面、消耗も倍になる……ということなのか。


「お疲れのようですね、隊長」


 隣に座るサーシャが言った。


「馬車の中で少しお休みになられた方がよいかと」

「……じゃあ、ちょっと眠らせてもらう」


 俺は眼を閉じ、座ったまま眠ることにした。

 思った以上に疲労していたのか、たちまち眠気が押し寄せてくる。


 ……そのまま何十分か眠っていたらしい。

 少しずつ意識が覚醒する。


「噂には聞いていたが、あれほどとは……」


 声が聞こえた。


 クルスとジュードの会話だ。


「ふん、いずれ俺だって──」

「お? あのレベルまで到達する自信があるのか?」


 冗談っぽく笑うジュード。

 対照的にクルスは真剣な口調で、


「……いずれ、な」

「虚勢じゃなさそうだな。さすがはクルス」

「お前だって、内心じゃ燃えてるんだろう。確かに隊長は強い。そこは認める。だが完全に降参したわけじゃない」

「だな。いずれは俺たちが王国最強の騎士として成り上がってみせる──」

「当然だ……あいつの、ためにも」




 咆哮が、聞こえた。




 俺はハッと意識を完全に覚醒させた。


「魔獣だ!」


 二番隊の誰かが叫んでいる。


 馬車から身を乗り出すと、十数体の巨大なモンスターが見えた。


 身長7、8メートルほどの、赤銅色の体をした巨人である。

 筋骨隆々とした体つきに申し訳程度の腰布を巻いていた。

 手にしているのは、炎を発する剣だ。


「魔獣『スルト』ですね」


 サーシャが説明した。


 王都を襲っている魔獣軍団の一部が、この辺りに現れたんだろうか。


 先を行く二番隊はすでに交戦状態だった。

 俺たちの方にも、別の一群が襲ってくる。

 二つの隊が分断された格好だ。


「隊長は引き続き休息を。ここはあたしたちが」


 サーシャが席を立った。


「いや、だが──」

「隊長には、王都にいるっていう魔剣士との戦いに備えてもらわなければいけませんので」

「ここは私たちにお任せを」


 クルスとジュードも続いた。


 確かに、この先にはまだ強敵が控えている。


 魔剣使いを相手にそうそう苦戦はしないと思うが──。

 実戦では何が起きるか分からない。


 温存できる部分はしておくべきだろう。


「……頼む」


 俺は短く、それだけを告げた。


 彼らが危なくなったら、すぐにフォローに入るつもりだ。


 とはいえ、また三人のプライドを傷つけるような真似は避けたい。

 士気の低下にもつながりかねないからな……。


 もちろん彼らが戦死するようなことがあってはならない。

 実戦経験を積ませつつ、いざとなれば俺がフォローできるように、いつでも飛び出せる態勢だけは整えておこう。




 俺はニーナとともに馬車の中で待機。

 サーシャ、クルス、ジュードの三人が馬車から降りて、スルトを迎え撃つ布陣を取った。


「前回のワイバーンと違って、機動力に乏しい相手です。ただし耐久力とパワーは比較になりません」


 サーシャが二人に説明する。


「スピードで翻弄しつつ、クルスさんの高火力スキルで一掃しましょう」

「だから、お前が仕切るなと言っている。年下のくせに」


 クルスがムッとした顔で彼女をにらむ。

 前回の戦い同様に衝突していた。


「年功序列を持ち出す意味がありません。この中では、あたしが最上位の席次です」

「……ちっ」

「適材適所で対処しましょう」

「生意気な女だ」

「まあまあ、二人とも」


 なだめるジュード。


「作戦はサーシャが言ったとおりでいいだろ」

「別に駄目とは言っていない」


 クルスはフンと鼻を鳴らした。


「使用スキルは例によって【バーストボルテックス】だ。チャージが終われば、俺が薙ぎ払ってやる。それまで死ぬなよ、お前ら」

「了解です」

「当然」


 そして、三人の戦いが始まった。


 サーシャが氷の竜の形をした斬撃波を、ジュードが連射型の小技をそれぞれ放つ。

 クルスがスキルを放つためのチャージ時間は、約五分。

 その間にスルトが近づかないよう、サーシャとジュードで迎撃する構えだ。

 だが──、


「止められない、か」


 サーシャがつぶやく。


 前回のワイバーン戦では通用した戦術も、頑強なスルト相手には効果がないようだ。

 サーシャとジュードの攻撃スキルをものともせず、前進を続ける。


「彼我の距離は20メートル……クルスのスキル発動よりも相手の接近の方が速い。まいったね、これは」


 と、ジュード。

 敵の接近を目にしても飄々とした笑顔のままなのは、なかなかの胆力だった。


「では、次の迎撃手段を取ります」


 サーシャが前に出る。


 まさか接近戦を挑むつもりか?

 俺の心配を悟ったように、サーシャがこちらを振り向いた。


「言ったでしょう? スピードで翻弄する、と」

「サーシャ……?」

「見ていてくださいね、隊長」


 微笑み、サーシャが疾走する。


「【アクセルムーブ】!」

「あのスキルは、確か──」


 四番隊隊長アルトゥーレが使っていたのと、同じものだ。


 次の瞬間、サーシャの両足からまぶしいスパークがあふれた。

 その体がブレて、消える。

 超高速移動に入ったのだ。


 さながら白い閃光と化したサーシャは、一瞬でスルトに肉薄し、その間をすり抜けていく。

 振るった剣閃とスキルによる氷刃が舞い、踊る。


 スルトたちは巨体を切り裂かれて苦鳴を上げた。

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