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9 【闇】の残滓

「ひ、ひいいっ、化け物だ!」


 生き残った三十人ほどの帝国兵は悲鳴を上げて逃げていった。


 数百名単位の帝国兵のほとんどを掃討するのに、わずか五分ほど。

 リーザの戦闘力は聖剣によって、すさまじいまでに底上げされたようだ。


 二番隊にいたころ、何度も彼女の戦いぶりを見てきたが、今のはけた違いである。

 レベルでいえば、少なくとも100前後くらいにはなっているだろう。

 もしかしたら、それ以上かもしれない。


「これほど強大な力……帝国の兵など、いくらでも殺せそうだな……」


 聖剣を手につぶやくリーザ。


 切れ長の目に、ゾッとするほど酷薄な光が浮かんでいた。

 騎士甲冑をまとった体からは、かすかに黒いモヤのようなものが漂う。


 あれは──!?


 驚いて目をこらすが、モヤのようなものはすでに見えなくなっていた。


 俺の見間違いだったのか?

 それとも……。


「魔神や魔獣だけでなく、通常の戦闘でも大きな力になってくれそうだな」


 リーザは聖剣を手に言った。

 その表情はいつもとなんら変わりがない。


 と、そのとたん、


「っ……!?」


 彼女の体がよろめく。


「大丈夫か、リーザ!」


 俺は慌てて彼女を支えた。


「あ、ああ……すまない」


 俺に寄りかかったまま、リーザが謝る。


「聖剣の力は絶大だが……どうやら、かなり力を消耗するようだ……」

「ふむ。初めてだから加減が分からなかったようじゃの。わらわも千年ぶりでつい調子に乗って力を振るいすぎた」


 聖剣『アストライア』から声が響く。


闘気(プラナ)がかなり減っておるのう。しばらくは休養に専念するがよい」


 スキルを使う際には、精神の力を消耗する。


 戦闘系のスキルであれば、『戦う意思』を具現化した『闘気(プラナ)』。

 補助系や治癒系などのスキルであれば、『他者への思い』を具現化した『想気(オド)』と言った具合だ。


「この後、敵の追撃があった場合は、俺が中心に戦う。お前は休め。いいな」

「……すまない」

「謝ることはないだろう。敵を追い払ったのは、お前の功績だ。何よりも──聖剣の主になったこともな」


 俺はニヤリと笑った。


「気遣いに感謝するよ」


 微笑むリーザ。


「ともあれ、これで任務は完了だ。王都に戻ろう」


 言った後で、ハッと気づく俺。


「と、その前に他の聖剣の場所を探知しておいたほうがいいか?」


 俺は聖剣に視線を向けた。

 当然のように返答がなかった。


「アストライア、マリウスは私の仲間だ。彼の質問には今後も答えるようにしてくれないか」


 リーザがとりなす。


「そういうことなら……おっさんは好みではないが、言われた通り探知してみよう」


 聖剣が淡い虹色の輝きを発した。


「……ふむ。かなり離れた場所だが、別の聖剣の反応がある」

「何?」

「どこだ」


 俺とリーザがたずねる。


「シャルテ王国といったか。千年後の今も同じ名で存在するのかの?」

「ああ、今も同じ名前の国がある」


 答える俺。


 ここからシャルテまでは、確かにかなり遠いが──。

 二本目の聖剣の場所が、ある程度は判明したわけだ。




 ふいに、森の木々がざわめいた。




「ひいっ……!?」


 ニーナが小さな悲鳴を上げた。


「どうした、ニーナ」

「な、何かが、来ます……!」


 彼女の探知スキルがふたたび異変を感じ取ったようだ。


 だが、先ほど帝国兵を察知したときとは反応がまるで違う。

 青ざめた顔でガタガタと震えている。


 次の瞬間、無数の鞭のようなものが四方から押し寄せた。


「……!?」


 否、周囲の木々から枝が鞭のように伸びてきたのだ。

 まるで独自の意思を持つかのように──。


「【ソードラッシュ】!」


 俺は連続斬撃スキルで、迫りくる枝を斬り払った。


 他の騎士たちも剣技で、あるいはスキルで、それぞれ枝の攻撃を防ぐ。


 さすがに精鋭メンバーだけあって、不意打ちにも的確な対処をしていた。

 手傷を負った者は若干いるが、いずれも軽傷だ。


 人死にが出なかったことに、まずは安堵する。


 だが、枝は次から次へと伸びてきて、俺たちを囲んでしまった。

 まだまだ気を抜けない状況である。


「トレント……!」


 リーザがつぶやいた。


「なんだ、それは?」

「樹木の形をした魔獣だ。オルドの大森林にトレントが潜んでいるとは、初めて聞いたが……」


 見れば、前方の木々がぶきみに揺らいでいた。

 よく見れば、赤い眼光のようなものまで見える。


「あれは、正確にはトレントではない」


 聖剣『アストライア』が説明した。


「【闇】が木々に憑りつき、魔獣と化したものじゃ」

「【闇】が……?」

「わらわは──聖剣『アストライア』は千年前に魔神王と戦った。その際、聖剣には大量の【闇】がこびりついていたのだろう。それが解き放たれ、新たな所持者であるお主に──リーザに敵意をむき出しにしておる」


 と、聖剣『アストライア』。


「要は、魔神王の恨みの念が私に向けられている、と?」

「大雑把に言えば、そういうことじゃの」

「魔神王を倒したのは千年前の勇者だろう。リーザは関係ないんじゃないか?」

「倒したのではなく封印しただけじゃが……まあ、それはともかく魔神王にとっては勇者が憎いことに変わりはないのじゃろう。聖剣を持つリーザを勇者と認識し、これを殺そうとしておる」

「とんだとばっちりだ」

「降りかかる火の粉は払うさ。それが、私だ」


 リーザは聖剣を手に微笑んだ。


「そんな私を、聖剣は認めてくれたのだから」

「お前は消耗している。少し休んでいてくれ」


 俺が前に出た。


「奴らとは俺が戦う」


 何せ、尋常ではない数だ。

 しかも、今度は人間じゃない。


 得体の知れない疑似魔獣──か。

次回は8月22日更新予定です(8月19日更新はお休み……)m(_ _)m

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