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6 聖剣アストライア1

 虹の聖剣『アストライア』。


 オルトの大森林の中心部──一本の大樹の根元に、それは突き刺さっていた。


 細く優美な刀身も、装飾の多い柄も、すべてが虹色にきらめいている。

 戦闘用の武具というよりも、芸術品のような趣きだ。

 と、


「なんだ……!?」


 一瞬、刀身に黒いモヤのようなものが見えた。


 目をこらすが、そのモヤはすぐに消えてしまう。

 変わって、聖剣全体からまばゆい光が放たれた。


「うっ、まぶしい……」


 思わず目を細める俺。


 気が付くと、平原に立っていた。


 さっきまでいたオルトの大森林じゃない。

 しかも、見覚えのある景色だった。


「まさか──」


 俺は息を飲んだ。


 似ている。

 以前に一度訪れたことのある、あの世界に。


「『神聖界』……!?」

「どこだ、ここは?」


 すぐ隣で声がした。


 振り返ると、リーザが不思議そうに周囲を見回している。


 ここにいるのは、俺と彼女の二人だけのようだった。


 他の騎士たちは別の場所にでも転移したのか。

 それとも、俺たちだけがここに来たのか。


「ふむ、『資格』を満たしていたのは、お主ら二人だけか」


 新たな声がした。

 眼前で光が弾け、小柄な女性のシルエットが現れる。


「お前は……?」


 白い髪に白い肌、赤い瞳をした少女。

 年齢は十歳くらいだろうか。


「おっさんは好みではないのう」


 俺を見て、ため息をつく少女。


「だが、そっちの金髪美人はなかなか良い。わらわは、美しいものが好きだ」


 と、リーザに視線を移して微笑む。


「私はミランシア王国聖竜騎士団二番隊隊長リーザ・フォレスト。こっちは同十二番隊隊長マリウス・ファーマ。ともに聖剣を求めて来た。君は、何者だ」


 リーザが名乗り、たずねる。


「ふむ。おおよそ感づいておるのだろう? わらわはこの聖剣に宿りし者。大いなる【最高神】のしもべ──」


 少女が俺たち二人を見据え、告げた。


「【光】の端末──女神アストライア。わらわに人間が接触してくるのは千年ぶりじゃぞ、ほほほ」


 手の甲を口元に当て、愉快げに笑う少女アストライア。


【光】の端末──つまり、こいつもツクヨミと同じような存在なのか。


「端末……?」


 一方のリーザは首をかしげている。


「聖剣に宿る神や精霊の類、ということか?」

「ふむ。おおむねそんな理解でもよかろう」


 アストライアが腕組みをしてうなずいた。


「ん? そちらの人間は生身で【光】を宿しているようじゃな。勇者とは違う──想定外要因で神から力を授かったイレギュラーか」


 と、俺を指さした。


「で、お主らの望みはなんじゃ?」

「私たちは聖剣を得るために来た」


 リーザが進み出た。


「ん? 魔神王を封じてからまだ千年しか経っておるまい。解放されるまでに、あと千年はかかるはずじゃが」

「魔神王じゃない。俺たちが戦おうとしている相手は魔神だ」


 首をかしげたアストライアに答える俺。


「魔神王の配下どもか。だが、奴らは太古の戦争で魔神王ともども異空間に追放されたはずじゃが……」


 アストライアがうなった。


「呼び戻した者がいるのか? 聖剣に宿る女神としては、放置するわけにはいかんの」


 ぶつぶつとつぶやく。


 正直、彼女が何を言っているのか今一つ分からなかった。


「よかろう。お主たちの資格を審査してやろう。合格すれば、わらわはお主たちのものじゃ」

「資格審査?」

「お主は駄目じゃ。むさいおっさんに振るわれたくはない」


 アストライアが俺に舌を出した。


「審査をするのは、こっちの女じゃ」


 と、リーザに向き直るアストライア。


「ふむ、まっすぐな目をしておる。かつての勇者に勝るとも劣らぬ、まっすぐで強い意思──」


 赤い瞳がリーザを見つめる。


「ますます好みじゃ。どれ、お主の魂を見せてもらおう。聖剣を持つにふさわしい者か、否か」

「魂……?」

「聖剣スキル──【ソウルスキャン】」


 告げるアストライア。

 同時に──。



 暗い路地裏に、血まみれのナイフを持った少女がいた。


「なんだ……!?」


 俺は眉根を寄せた。


 彼女は、十五歳くらいだろうか。

 ショートヘアにした金色の髪に青い瞳。

 どことなくリーザの面影があるような──。


『よくやったわ、リーザ』


 彼女の背後から、妙齢の美女が現れた。


『私は誰にも必要とされない人間……だけど、あなたの役に立てたなら嬉しい』

『お前は自慢の弟子よ。私の暗殺技法のすべてを受け継ぐのは、お前しかいない』

『母様のために、私は働く。人を、殺し続ける』


 微笑みあう少女と美女。


「リーザが、暗殺者……!?」


 俺は戸惑いを隠せない。


 これは、リーザの過去──なのか!?


 目の前では、場面がめまぐるしく切り替わっていく。


 そのどれもが、血塗られた人殺しのシーンだった。

 リーザはおびただしい数の人間を殺していた。

 暗殺、していた。


 なんだ。

 なんなんだ、これは。


 リーザの過去には、こんなことが──。




「ふむ、大体わかった」


 唐突にそれらの光景が消え、俺は元の場所に戻っていた。


「私の過去を……見たのか」


 リーザが怒ったような顔でアストライアをにらんでいる。


 俺の方を気にしていないようだ。

 ……ということは、俺にもさっきのを見られたことは気づいてないのか。


 あまり知られたくない過去のようだから、余計なことは言わないでおくか。


「聖剣を得ると言ったのはお主たちじゃ。ゆえに、まずお主の過去を見せてもらった。過去の経験がその人物を形作り、その魂を規定する」


 アストライアはニヤリと笑った。


「かつては暗黒に堕ち、今は正義の騎士として戦う──いわば【光】と【闇】を内包した者が聖剣を使うか。それもまた一興じゃの」

「……私を認めてくれるのか」

「言ったであろう。お主の魂を見せてもらう、と」


 アストライアが笑う。


「まっすぐな魂だ。かつても、今も。お主の心にあるのは──不屈の意思。いかなる困難があろうとも、己が力で切り開いていこうとする、強き心」


 彼女の姿が、陽炎のように揺らぐ。


「ゆえに、わらわを扱うにふさわしいと認める。かつての勇者に勝るとも劣らぬ、心の持ち主よ」


 次の瞬間、彼女は虹色に輝く剣へと姿を変え、平原に突き立った。


「さあ、わらわを手に取れ。わらわを使え──(マスター)よ」

「アストライア……ありがとう」


 リーザが剣に歩み寄る。


 輝く柄に手をかけ、一気に引き抜いた。

 あふれる、虹色の輝き。


「では、『アストライア』。私とともに戦おう。私とともに行こう。王国を守るために。王国を脅かす敵を退け、打ち倒すために!」


 リーザが聖剣を掲げる。


 それはまさに──おとぎ話に出てくる勇者そのものだった。

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