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4 ウェンディ

今回はウェンディ視点のお話です。

次回はマリウス視点に戻ります。

「聖剣かー……おとぎ話かと思ったら実在するんだねー」


 ウェンディは十二番隊の隊舎で雑用をこなしていた。


「聖剣?」


 たずねたのは同じ十二番隊で、養成機関の同期生でもある少女騎士エミリーだ。

 美人とはいえないが、愛嬌のある顔立ちをしていた。

 雰囲気も優しげで、いわゆる癒し系キャラである。


「そ。隊長とサーシャたち何人かが一緒になってオルトの大森林まで行ったの。朝のうちに見送りしてきたんだ」

「そういえば、サーシャの姿が見当たらないわね。クルスさんやジュードさんも……」

「全員、隊長と一緒に出張だよ。ボクはメンバーに選ばれなかったんだよねー」


 ウェンディはため息をついた。


「残念そうな顔してるわね」

「だって一緒に行きたかったし」

「よしよし」


 エミリーが頭を撫でてくれた。


「えへへ」


 気持ちがよくて、うっとりと目を細めるウェンディ。


「もしかして隊長のことが気になってるの? 二十以上も年上だよ?」

「うーん……年齢はあまり気にならないかなー」


 最初は単なる好奇心だった。


 騎士になって日が浅い、それも四十を超えた農夫がいきなり騎士隊長に抜擢されたのだ。

 一体、どんな男なのだろうと思った。


 外見は、とても豪傑には思えない。

 平凡な四十絡みの男、といった印象しかなかった。


 だが、戦場での彼を見て、その印象は一変した。


 激変、した。


 戦神のごとき戦闘能力。

 鬼神のごとき闘志。


 ウェンディは圧倒された。

 気がつけば、彼の存在が頭から離れなくなっていた。

 と──、


「へえ、隊長に色目使って取り立ててもらおうって腹積もり?」

「もう隊長には抱かれたのかしら?」


 二人の女騎士が嫌味ったらしく話しかけてきた。

 ともに美人だが、険のある表情はいかにも性格が悪そうだ。


 カリナとジネット。


 以前、エドモンとともにマリウスに因縁をつけてきた現場を、ウェンディも目にしていた。

 それ以来、彼女たちには悪印象しか抱いていない。


「ボクはただ尊敬してるだけだよ。隊長のこと」


 ウェンディは二人をまっすぐに見据えた。


「だいたい、ボクみたいな小娘、隊長は相手にしてくれないし」


 前に、彼女にしてはかなり積極的に迫ってみたのだが、あっさりとかわされてしまった。


「そうよね。ウェンディはまだ子どもだし」

「あたしたちみたいな大人の女じゃないとね~」


 ジネットとカリナが体をくねらせた。


「ん? もしかして二人とも隊長狙いなの?」

「悪い?」

「あんなオヤジの一人や二人、あたしたちなら簡単に蕩かせるわ」

「そうすれば、もっと取り立ててもらえるでしょ?」

「エドモンに乗って因縁つけちゃったからね。その失点を取り戻さないと」


 顔を見合わせ、にっこりと微笑みあう二人。


「せっかく王国騎士っていうエリートになったんだから、のし上がらないとね」

「そうそう、隊長や副隊長クラスになれば報酬もグッと上がるし、貴族や王族にもお近づきになりやすくなるし」

「上手くいけば、そういう人たちに見初められることも……ふふ」


 徹頭徹尾、打算のようだった。

 確か、前の隊では隊長や副隊長の愛人のようなことをしていたという噂もあった。

 と、


「みなさん、ここにいましたか」


 一人の老騎士が駆け寄ってくる。

 十二番隊の副隊長を務めるジィドだ。


「緊急事態です。戦闘可能なものはすぐに出撃を」

「出撃……?」


 首をかしげるウェンディ。


「王都を、魔剣士と魔獣の一団が急襲したのです……!」


 ジィドは険しい表情で告げた。




 ウェンディたちが現場に到着したとき、すでに多くの犠牲が出ていた。


「ぐあっ」

「ううっ」


 無数の悲鳴と苦鳴がこだまする。

 前方から飛来する光刃に、王国の騎士や兵士が次々に倒れていく。


「そこまでよ!」


 ウェンディが叫んで走りだした。


 これ以上、誰も傷つけさせない。

 そんな気迫を込めて。


「へえ、他の雑魚とは違うみたいだね」

「オーラを感じるよ。猛者のオーラを」


 前方にたたずんでいるのは、二人の少年剣士だった。


 秀麗な顔立ちは瓜二つだ。

 おそらく双子なのだろう。


 それぞれが、刀身が大きく湾曲した片刃剣を手にしている。


(あれが、魔剣──)


 ウェンディはごくりと喉を鳴らした。

 刀身から禍々しいオーラが立ち上り、見ているだけで悪寒が走る。


「ボクは聖竜騎士団十二番隊、第六席ウェンディ・ノア!」


 大見得を切る。

 半ば自分を鼓舞するためだった。


 魔剣使いが、自分の手におえる相手かどうかは分からない。


 だけど、退かない。


 ジネットやカリナが成り上がるために騎士をやっているのなら、自分は人を守るために騎士になったのだ。


(だから──戦う! たとえ、相手がどれだけ強くても!)


「いい気迫だね。僕はガイアス帝国上級騎士、アロン・ゼルガート」

「同じく、カロン・ゼルガート」


 二人が名乗り返す。

 と、


「ここはあたしが!」

「あんたは引っ込んでなさい!」


 ウェンディを押しのけるようにして、二人の女騎士が前に出る。

 ジネットとカリナだ。


「魔剣士はあたしたちが倒す」

「失点を取り戻すチャンスね」


 彼女たちは剣を手に、じりじりと間合いを詰めていく。

 ウェンディと違い、ここでも打算のようだった。


「君たちからも猛者のオーラを感じる」

「だけど──僕らの魔剣の前には、雑兵に等しい」


 アロンとカロンが剣を振るった。


「えっ……!?」


 呆然とした声を上げたのは、カリナだった。

 次の瞬間、彼女の全身が灰色に染まる。


 ──否。

 その体が石と化したのだ。


 剣を手にしたままの姿勢で、カリナは石像になっていた。


「砕けろ」


 帝国の魔剣士たちが、ぱちん、と指を鳴らす。


 石化した全身に亀裂が入ったかと思うと、カリナは粉々になって崩れ落ちた。

次回は8月4日更新予定です。

別作品の書籍化作業の締切りが近づいてきたので、当面は2~3日に1話更新ペースになります(´・ω・`)

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