2 聖剣探索行
十二番隊第三席、サーシャ・レヴェリン。
同第四席、クルス・ジール。
同第七席、ジュード・ラック。
同第十一席、ニーナ・エーレンヴァルト。
以上の四人が俺とともに聖剣探索に向かうメンバーだ。
馬車で出発する際、ジィドさんとウェンディが見送りに来てくれた。
「ボクはお留守番かー」
「留守を守るのも大事な仕事ですよ、ウェンディさん」
ぷうっと頬を膨らませるウェンディを、ジィドさんがたしなめる。
「はーい」
「俺がいない間、よろしくお願いします。ジィドさん」
と、ジィドさんに一礼する。
まあ、心配はないだろう。
歴戦の老騎士だし、俺よりもずっと上手く隊をまとめてくれるはずだ。
俺は俺で、聖剣探索任務に集中しよう。
「そろそろ出発しようか、マリウス」
リーザが声をかけてきた。
向こうも隊長である彼女自らが出張るらしい。
さらにその後ろには四人の騎士がいる。
俺はうなずいて移動用の巨大な馬車へ進む。
二番隊と十二番隊の選抜メンバー……総勢十人が乗りこみ、俺たちはオルトの大森林へと向かった。
車内には冷房や振動軽減など各種魔法装置が備え付けられているらしく、馬車の旅はなかなか快適だった。
「サーシャ・レヴェリン。87期を首席で合格したそうだな」
リーザがサーシャを見て微笑む。
「光栄です、リーザ隊長」
「十二番隊でも隊長、副隊長に次ぐ第三席の地位を与えられている──他の隊ながら、君の活躍には注目しているよ」
「あたしも、リーザ隊長は以前からの憧れでした」
「はは、ありがとう」
同じクール系同士、気が合うんだろうか。
「黄金世代に匹敵する逸材だと聞いている。今回の任務でもよろしく頼む」
「はい、お任せを」
目を輝かせるサーシャ。
やっぱり外見はクールでも、中身は熱血なんだな。
と、
「……ふん、その黄金世代ならここにもいるってのに」
面白くなさそうにつぶやいたのは、気が強そうな青年騎士……クルスだ。
年齢は二十二歳。
銀髪に褐色の肌をした野性味のある美青年といった感じだった。
「サーシャにばかり注目が行くのは納得いかないな。十二番隊の席次で俺より上だっていうのも、そうだ」
「はは、カッカするなよ」
なだめたのは飄々とした雰囲気の青年騎士、ジュード。
クルスとは確か同い年で養成機関の同期生──つまりは、彼も『黄金世代』ということになる。
公私ともに仲がいいという話だった。
「見てろ。今回の任務で俺の実力を見せてやる」
「お前の実力は、俺が一番よく知ってるよ。けど、熱くなって冷静さを失うなよ」
「当然だ」
「やる気に満ちてますねー。みんなでがんばりましょっ」
微笑んだ少女騎士はニーナ。
こちらはクルスたちより年下で、ちょうど二十歳。
柔和で優しげな顔立ちをしている。
直接的な戦闘能力は低いが、探知系のスキルに秀でていた。
クルスとジュードはそれぞれ攻撃スキルや武器スキルに習熟しており、特に中距離から遠距離系の攻撃を得意としている。
近接系の攻撃スキルがメインである俺のサポートをしてもらうために選んだメンバーだ。
対して、ニーナは戦闘要員ではなく、聖剣探索のために選んだメンバーである。
そして、サーシャはあらゆる距離をオールラウンドに戦える万能型。
敵が多数で、俺が討ち漏らした兵と戦ってもらうことを想定して選抜した。
道程は順調だった。
──オルトの大森林手前までは。
「何かが、来る」
リーザが突然言った。
「何かが、とは……?」
「私の【心眼】スキルが感知した。前方からも後方からも近づくものがいる」
と、リーザ。
「馬車を止めろ。全員、備えるんだ」
そう言ったとたん、
おおおおおおおおおおおおんっ。
咆哮が響く。
彼女の言葉通り、前後から同時に。
「あれは──」
窓から身を乗り出すと、滑空しながら近づいてくる数体の竜──ワイバーンが見えた。
後方からは、全長五メートルほどの単眼鬼──サイクロプスが、これまた数体近づいてくる。
「挟み撃ちとはな」
俺はわずかに眉根を寄せた。
いずれも野生のモンスターで、しかもかなり強力な部類である。
先ほどのリーザの命令通り、馬車が止まる。
「さっさと片付けるか」
俺は剣を手に、馬車から出ようとした。
「いや、この程度の敵なら私たちで十分だ。君の力は温存しておいてくれ」
リーザが俺を止める。
「本番はここからだからな。このメンバーで間違いなく最強の君を軽々しく消耗させたくない」
「賛成です。ここはあたしたちが」
「隊長の手を借りずとも、俺たちだけで十分です」
「そういうことですね」
と、サーシャ、クルス、ジュードの三人が勢い込んで告げる。
温存、と言われてもな。
正直、俺が出ればモンスターすべてを苦もなく片付けられそうなものだが──。
「本番はここからだ、と言ったろう」
リーザが耳打ちした。
「その前に各隊員の連携テストをしておきたい。君が出ると、一瞬で勝負が決まる可能性があるから、テストにならないんだ」
「連携テスト……」
「二番隊がサイクロプスを片付ける。十二番隊にはワイバーンを頼みたい」
リーザは俺の返事を待たず、そう言った。
まあ、彼女がそう言うなら従っておくか。
何せ騎士隊長の先輩だ。
それに、今のうちに実戦経験を経て、連携のテストをしておくのはいいかもしれない。
本番では、もっと激しい戦いになるかもしれないからな。
「……分かった。じゃあ俺はサポートに回る。ニーナは俺の側を離れるな」
「は、はい」
ニーナも平均的な騎士クラスの戦闘能力は持っているものの、他のメンバーに比べれば数段劣る。
戦闘にはできるだけかかわらせないほうがいいだろう。
この先、彼女には聖剣の探知をやってもらわなければならないからな。
俺はサーシャたちに向き直り、
「頼むぞ、サーシャ、クルス、ジュード。少しでも危ないと思ったら、すぐに退け」
三人に念押しする。
「厄介な敵は全部俺に任せろ。いいな?」
「了解」
サーシャたちはうなずき、馬車の外に出た。
10万字がみえてきた……ひきつづきがんばります(´・ω・`)