4 森の戦い
防御スキルの詳細は別枠を確認してください、とある。
「そっちも表示できるか?」
試しにたずねてみた。
中空に、また別のメッセージが表示される。
【ガードⅠ】……ランク1スキル。術者の前方に防御壁を作り出す。ランク2までの攻撃スキルを防ぐことができる。持続時間:60秒。
【ガードⅡ】……ランク2スキル。術者の前方に防御壁を作り出す。ランク3までの攻撃スキルを防ぐことができる。持続時間:100秒。
【ディフェンダー】……ランク3スキル。術者の周囲に防御壁を作り出す。ランク5までの攻撃スキルを防ぐことができる。持続時間:184秒。
なるほど。
最初に覚えた格闘系のスキル三つに加えて、これで防御系も三種類覚えたわけだ。
いくらレベルが上がって強くなった、といっても、剣で斬られたり、魔法の直撃を受ければ、普通に死ぬだろう。
防御能力が上がるのはありがたかった。
と、
「恐るべき体術だな。本当に戦闘訓練を受けたことがないのか?」
リーザが訝しむように俺を見た。
「タックの【四連突き】を避けた動きといい、その後の一撃といい──」
「まあ、普段から農作業で体を鍛えてるからな」
俺は適当に口を濁した。
転生特典のことを話していいのかどうか、分からない。
中空に現れるメッセージは、どうやら俺にしか見えないようだし。
とりあえず、【経験値1000倍ボーナス】については黙秘させてもらう。
「で、どうなんだ? 俺は騎士団に入れてもらえるのか」
俺は話題を変えた。
というか、こっちが本題だ。
「ああ、心強い戦力になってくれそうだし、こちらからお願いしたいくらいだ」
と、リーザがうなずく。
「君ほどの腕があれば、正規の騎士に混じっても問題あるまい。補給部隊で雑用をしてもらおうと思っていたのだが、戦闘部隊のほうに入ってもらえるだろうか」
それは俺としても願ったりかなったりである。
「もちろんだ。最前線で戦いたい」
「では──ようこそ、聖竜騎士団第二番隊へ」
リーザが微笑んだ。
「歓迎します、マリウスさん」
タックも嬉しそうな顔だ。
「ああ、こちらこそ──よろしく頼む」
これで帝国の連中と思う存分、戦えるだろう。
そう思っただけで、ドス黒い衝動が胸の奥から沸き立つ。
確かにメルやアルマ、トレミー、そして村の人たちの仇は討った。
だが、まだ足りない。
帝国によって、俺と同じような目に遭っている人は少なからずいるだろうし、奴らの侵攻が続けば、その数はもっと増える。
それを、俺が止める。
手に入れた転生特典の力で。
それは、純粋な正義感とは違うかもしれない。
復讐心の延長でしかないかもしれない。
だけど、今の俺は──ただ自分の中の、自分でも抑えきれないこの衝動のままに。
帝国の奴らと戦い。
帝国の奴らを殺す。
殺し続ける──。
一時間後、俺たちは森の中を進んでいた。
ここを抜けた先にある丘陵地帯で、三、四番隊と帝国軍の一隊が交戦中だという。
二番隊の役目はその援護である。
俺は装備として古ぼけた剣を与えられたが、鎧はない。
いざとなれば防御スキルもあるし、戦闘は拳だけでも十分かもしれない。
使い慣れない剣より、格闘スキルの方が戦いやすそうだ。
と──。
森の半ばまで進んだところで、先頭のリーザが足を止めた。
「待て。何かいる」
見たところ、前方には木々が連なっているだけだが……?
「【プラズマエッジ】」
リーザが剣を抜き、一閃した。
刀身から光の刃がほとばしり、前方の茂みを薙ぎ払う。
「くっ……!?」
そこから十数人の帝国騎士が現れた。
「【待ち伏せ】スキルだ。気配を隠蔽し、我らを急襲するつもりだったんだろう」
リーザが剣を構え直す。
「よく気づけるな、そんなの」
「私には【心眼】のスキルがあるからな。ランクの低い隠蔽スキルは通じない」
感心する俺に答えるリーザ。
「では、ここは僕が露払いを」
タックが飛び出した。
「【四連突き】!」
俺との模擬戦でも見せた武器スキルだ。
超高速連続刺突が、帝国騎士を一人、また一人と貫き、倒す。
やはり、強い。
だが、相手も数が多い。
しかも、茂みの向こうからさらに十数人が増援としてやって来た。
たちまちタックは囲まれてしまう。
「しまった──」
秀麗な顔をこわばらせる少年騎士。
「一人で前に出すぎだ。今、私が行く」
「いや、俺が行こう」
加勢に出ようとしたリーザを制し、俺はダッシュした。
体が、軽い。
タックとの模擬戦を通じ、レベルがさらに上がった俺のスピードは、また一段階上がっていた。
十メートルの間合いを一瞬にして詰める。
「【ソニックフィスト】!」
緑色の輝きとともに、俺の動きが音速と化した。
帝国騎士の背後に回りこみ、連続でパンチを叩きこむ。
「がっ!?」
「ぐあっ」
鎧を砕き、骨を砕く。
肉を貫き、内臓を潰す。
そうして、残りの敵全員を殴り殺す。
全部で二十三人分の経験値を入手し、レベルが49まで上がった。
「大丈夫か、タック」
「た、助かりました、マリウスさん」
タックは、ふう、と息をつく。
「一人で前に出すぎだ、タック。君の悪い癖だぞ」
「すみません……でも、帝国騎士が相手だと黙っていられなくて」
と、タック。
「姉さんの、仇ですから……」
整った顔立ちに、一瞬強い憎悪の表情が浮かんだ。
そうか、こいつにも敵と戦う理由や憎む理由があるんだな。
「だが、自分が殺されてはなんにもならん。次はもう少し自重するんだ。いいな」
リーザが言った。
「生死は戦いの常とはいえ──私は、部下を一人たりとも欠けさせたくない」
「……ありがとうございます。次は気を付けます」
「まあ、いいんじゃないか。結果的に無事だったし、待ち伏せしていた敵は全部片付けたし、な」
俺がとりなした。
「──いや、待ち伏せしている敵はまだいる」
リーザの表情は険しいままだった。
「何?」
「隠れてないで出てきたらどうだ?」
と、前方に向けて告げるリーザ。
「ほう、我が気配に感づいたか」
数十メートル前方──何もない空間から、おどろおどろしい声が響いた。
黒い霧のようなものがにじみ出す。
それは収束し、獣の形を作り出した。
「あれは──」
巨大な獅子。
ただしその顔はライオンではなく、老人のそれだった。
つまり、人面獅子だ。
「マンティコア……!」
リーザがうめいた。
「マンティコア?」
「魔神の配下──『魔獣』さ」
たずねる俺にリーザが説明する。
「人間をはるかに超える魔力と戦闘能力を持つ強敵だ」