1 新たな任務
俺が『神聖界』から戻った、翌朝のこと。
十二番隊の隊舎にリーザが訪ねてきた。
「今回は私の二番隊と君の十二番隊の共同任務だそうだ」
開口一番、リーザが言った。
「共同……任務?」
「聖剣探索の、な」
たずねる俺に、リーザが応えた。
聖剣探索……!?
俺の方は何も聞いていないので戸惑ってしまう。
「本来なら、私と君が同時に総隊長から説明を受けるはずだったんだが、予定がズレて、私だけが先に説明されたんだ。それで、君に伝えに来た」
リーザは任務の内容を説明し始めた。
──以前、オルト砦攻略戦で俺は帝国の魔剣使いたちと戦った。
その際、王国とリアン公国の国境付近で謎の発光現象が起きた。
あらためて調査したところ、そこには聖剣が眠っている可能性が高いという。
場所は国境付近にあるオルトの大森林。
そのどこかに、聖剣が眠っている──。
「で、二番隊と十二番隊からそれぞれ精鋭を募り、探索任務に向かうことになったわけだ」
リーザが説明を終える。
「精鋭……か」
「間諜の報告によれば、帝国側も聖剣を手に入れるために精鋭を派遣している可能性がある、ということだ。それに対抗できるだけの人材が必要だ」
「それで精鋭、か」
リーザの説明にうなる俺。
「出立は明日の予定だ。急な話で済まないが、メンバーを選抜しておいてほしい」
「分かった」
俺自身も行った方がよさそうだな。
あとは腕が立つ者を数名、といったところか。
「誰を選ぶべきか……ジィドさんはどう思いますか」
「聖剣探索のメンバーですか」
リーザと別れた後、俺は執務室でジィドさんに意見を聞いていた。
ちなみに、俺も聖剣探索に行くため、留守中の十二番隊はジィドさんに任せるつもりだった。
「帝国側も精鋭を派遣している可能性がある、ということですよね?」
「はい。ちょうど王国と同じタイミングで──」
あるいは、こちらの探索部隊を迎撃するためなのかもしれない。
「ならば、戦闘になる可能性は十分あります。探索能力に長けた者だけでなく、戦闘能力に優れた者も必要になるでしょう」
と、ジィドさん。
「後者はマリウスさんがその筆頭ですが……」
と、
「隊長、よろしいでしょうか」
執務室のドアが突然ノックされた。
「入ってくれ」
「失礼します」
促すと、部屋に入って来たのは十八、九歳くらいの女騎士だった。
氷を連想させるアイスブルーの髪を腰の辺りまで伸ばしている。
怜悧な顔立ちもまた、氷を思わせる美少女だ。
サーシャ・レヴェリン。
十二番隊の一員で、ウェンディやエドモンたちと同じく若手のホープと呼ばれる騎士である。
「なんだ、サーシャ?」
「先日のエドモン、ジネット、カリナの三名について進言しに来ました」
サーシャが告げる。
冷ややかな表情だった。
『みなさん、随分と和やかですね。悔しくないんですか? ポッと出のおっさんが隊長なんて』
『一か月前までただの農夫だった人が、いきなり隊長に指名されるなんて……よっぽど実力があるんでしょうね』
『何か汚い裏工作でもしていないなら、の話ですが』
エドモンたちは、俺に対して因縁じみた絡み方をしてきた。
騎士になって日が浅く、しかも若くもない俺の存在は、若く才能あふれる彼らにとって面白くないものだったんだろう。
話の流れからスキル勝負になり、そこで俺はエドモンに文字通りレベルの違いを見せつけた。
彼は矛を収めたものの、内心どう思っているのかは分からない。
魔剣追跡やその後の『神聖界』突入でバタバタしたせいか、エドモンから絡まれたこと自体、半ば忘れかけていたが……。
「多くの隊員の前であからさまに反抗的な態度は、隊の和を著しく乱すものと考えます。隊長は寛大にも許されたようですが、あたしは許すべきではないと思います」
サーシャに詰め寄られた。
「まあまあ、サーシャさん……」
「あたしは隊長と話しています。失礼ながら、ジィド副隊長はお控え願います」
クールな容貌とは裏腹に、かなり気が強い性格のようだ。
「なんらかの処分を下せ、と?」
俺は彼女にたずねた。
「戦場において連携は命です。みんながみんな、隊長のような超人的な戦闘能力を持っているわけではありませんので」
アイスブルーの髪をかき上げ、サーシャが言い放つ。
「彼らのような人員がいれば、隊の勝率──ひいては全員の生存率にも影響が出ます。あたし個人の感情としては、今すぐクビにしてほしいくらいです」
無表情のまま、瞳に強い光をたたえて告げる。
どうやら、エドモンたちに対し、相当腹に据えかねているらしい。
処分、か。
人の上に立つ役職だと、そういうことも考えなければいけないんだよな。
「ただ彼の実力は素晴らしい。攻撃スキルだけなら隊でも五指に入るそうじゃないか」
「能力が高くても人格に問題がある、と申し上げています」
「チャンスを与えてもいいんじゃないか。連携には影響のない局面で、彼らにはがんばってもらおう。その戦いぶりいかんで、今後の扱いを決めるというのは?」
あまり処分を厳しくして全体を委縮させるのは嫌だった。
第一、俺は以前の対応で、『今回の件に関して特に咎めるつもりはない』と宣言している。
それを撤回すれば、俺自身の信用にもかかわってしまうだろう。
「……隊長がそう仰るなら」
サーシャはあまり納得していない様子だったが、退いてくれた。
「では失礼いたします。差し出がましいことを申しました」
言って、サーシャはジィドさんにも深々と頭を下げる。
「熱くなり、無礼な態度を取ってしまいました。平にご容赦を」
「いえいえ、それだけ熱意をもって騎士としての任務をまっとうしている証ですよ」
柔和な笑みのまま答えるジィドさん。
「気になったことはどんどん言ってくれ。進言に感謝する、サーシャ」
俺も隣で微笑んだ。
「寛大なお言葉、恐れ入ります。では」
言って、サーシャがきびすを返す。
「最後に、個人的な気持ちを一つ」
クルリと振り返った。
ずっと無表情だった顔に、かすかな笑みを浮かべ、
「早くも英雄と呼ばれ始めているあなたと同じ隊に入り、とても光栄に思っています。今度の任務でもがんばります」
「彼女は、どうでしょう? ジィドさん」
……サーシャが去った後、俺は彼にたずねた。
「ウェンディさんと並び、第87期生の双璧であり、黄金世代クラスの逸材です。選抜メンバーにはうってつけかもしれませんね」
他に数名、ジィドさんから推薦してもらい、俺は最終的なメンバーを選んだ。
そして翌日、二番隊の選抜メンバーと合流した。
向こうも、リーザが自ら出張るようだ。
他に何人か、俺が二番隊時代に顔なじみだった騎士がいる。
懐かしい気分だった。
久しぶりに彼らと一緒に任務をこなせるわけだ。
「じゃあ、出発しようか」
俺たちはオルトの大森林へと、馬車を向かわせた──。
予約投稿ミスってました……ごめんちゃい(´・ω・`)