12 帰還、そして
「それにしても……一気にレベルが40以上も上がったのか」
経験値も、帝国兵4000人以上の数値をたった一度の戦闘で得たことになる。
もしかして、ここに留まってさっきくらいの神と戦えば、レベルをガンガンあげられるんじゃないか?
「いや、それはできぬ。そろそろ汝が『神聖界』に滞在できる時間も限界だ」
と、【最高神】。
どうやらタイムリミットのようなものがあるらしい。
今の竜神のような相手と立て続けに戦えれば、一番楽なんだが。
「相手がわざと負けても経験値は入らぬ。今の竜神にしても、あくまでも汝を殺すつもりでかかってきた。つまり──神との戦闘で経験値を得るのは、常に命懸けだ」
俺の内心を読み取ったように説明する【最高神】。
いや、あるいは本当に心が読めるのかもしれない。
なにせ神々の王だ。
「当然、一歩間違えば死んでしまうだろう」
「……なるほど」
ハイリスクハイリターンというわけだ。
俺は次の質問に移った。
「限界ってことは、いったんこの世界から出なきゃ行けないってことか?」
「そうだ。そして、次に訪れることができるまでに年単位の時間がかかる」
【最高神】が言った。
「年単位──か」
じゃあ、当分はこの世界を再訪できないわけだ。
さっきの竜神クラスの相手と戦って、大量の経験値を得るというやり方はどのみち無理のようだった。
「しかし、レベル113であれほどの威力を出すとは」
ツクヨミが俺を見て、わずかに微笑んだ。
「【光】をより輝かせるのは、人間の意志──君には、それだけの資質が眠っているようだ」
「資質……」
そう言われてもピンとこない。
俺はただ、俺自身の想いを乗せて【破軍竜滅斬】を撃っただけだ。
「その力で、魔神たちを討ってくれることを期待する」
と、ツクヨミ。
「世界のバランスは急速に崩れようとしている──と、この世界で君に再会したときに説明しただろう。魔神は──【闇】に属する者の目的は、世界を暗黒で覆うこと。怒り、悲しみ、憎しみ、絶望──負の心で世界を包むことだ。我らは逆に世界を光で照らすことを目的としている。だが──直接我らが【闇】と戦うことは難しい」
「どういう意味だ?」
俺は眉根を寄せた。
「我ら【光】の端末は、人間の世界では十全に力を振るうことはできない。一方の魔神たちはどうやったのかは分からんが、人間の世界でもある程度力を振るえるようになりつつある。我らが人の世界に赴いて魔神と戦うことはできぬ。君たち人間に託すしかない」
「それはつまり……俺に世界を救え、って言っているのか」
もともとはただの中年農夫だった、この俺に。
「イレギュラーな状況とはいえ、君は【光】を授かった。それは運命だ」
ツクヨミが語る。
手違いで殺してしまった、なんて言いながら『運命だ』──なんて、ちょっと身勝手じゃないか?
さすがにそう思った。
とはいえ、魔神を討伐すること自体は、言われなくてもやるしかないと思う。
帝国との決戦の際、魔神との戦いはおそらく避けて通れないだろうからな。
そのための力になるであろう【破軍竜滅斬】を【最高神】から授かったのも助かる。
「すまないと思っている。だが、それでも君に……託す……しか……」
ツクヨミの声が、急に遠くなった。
その姿が、急に薄れていく。
いや、ツクヨミだけじゃない。
【最高神】の姿も同様だ。
周囲に広がる純白の空間が、徐々に灰色に変わっていく。
これは──いよいよ『神聖界』にいられる時間がなくなってきた、ってことか。
「武運を祈る。人の子よ」
今度は【最高神】が言った。
「汝が望む力は与えた。少なくとも、そのきっかけと鍵になるものは。後は、汝自身が昇華し、さらなる力を磨くがよい」
「まずは聖剣を探し、戦力を強化するのがいいだろう──君に」
ツクヨミが続ける。
「幸あらんことを」
──そして。
俺は元の場所に戻ってきた。
ツクヨミの説明通り、どうやらこちらでの時間経過はほぼゼロのようだ。
「聖剣を探す、か」
俺はつぶやいた。
あらためて考えを整理する。
帝国の切り札ともいえる魔神との戦い。
そのために必要な力は、まず俺が【破軍竜滅斬】を自在に使いこなせるようになることだろう。
理想を言えば、今の俺でも倒せるような弱い魔神から順番に倒していき、レベルを上げる。
そうやって成長しながら、やがては最強の魔神をも凌駕するほどのレベルまで達し、すべての魔神を片付ける──。
とはいえ、俺がどの程度まで魔神と戦えるのかは未知数の部分が多すぎる。
そもそも、魔神は今のところ戦線にほとんど出てこないみたいだからな。
そして、もう一つが聖剣の存在だ。
七本あるという聖剣を手に入れ、その使い手を見つけ、俺以外にも魔神と戦える人間を用意する。
この二つを並立しながら、すべての魔神を確実に殲滅する──。
それが、俺がこれから目指すべきことなんだろう。
次回から第5章「聖剣探索」になります。明日更新予定です。
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