表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/144

11 魔神と猛将

今回は帝国側の視点です。次回からまた主人公マリウス視点に戻ります。

 ガイアス帝国。

 帝都にある巨大な城で、二人の男女が話していた。


「ガルム平原にラシッド高地……このところ、俺らの敗戦が続くな」


 ひょろりと痩せた男──ラガッハが舌打ちした。

 身に付けているのは、鮮やかな緑色の鎧である。


「グリムワルドも一月ほど前に殺されちまったし、な」


『黒の猛将』グリムワルド──帝国でも最強レベルの戦士だった彼は、王国との戦いで討ち取られていた。


 ラガッハはそのグリムワルドと同期である。

 思い返すに寂しさや喪失感がこみ上げる。


「今は王国が勢いに乗っているもの。確か、例の騎士隊長──マリウスだっけ? 彼の連戦連勝で王国の士気が上がっているとか」


 対照的にスラリとした美女──アリアが肩をすくめた。

 こちらはグラマラスな体のラインが浮き出るようなデザインの赤い鎧を身に付けている。


 二人は、いずれも帝国軍で最上級の地位にある『猛将』だ。


 先日までミランシア王国を相手に戦場を転々としていたのだが、久しぶりに帝都まで戻ってきたのだ。


「他にも女傑と名高い騎士隊長リーザやドロテア、そして黄金世代の最年少騎士隊長のルーク……ちっ、どいつもこいつも厄介な敵だよな」

「あら、弱気になってるのかしら、ラガッハ将軍?」

「まさか。今は態勢を立て直す時期ってだけだろ」


 挑発するようなアリアに、鼻を鳴らすラガッハ。


 そう、散っていったグリムワルドや兵たちのためにも。

 このまま負けっぱなしでは終われない。


 いずれ必ず巻き返してやる──。

 ラガッハは闘志を燃やしていた。


「いざとなれば、『奴ら』が王国を駆逐してくれるんでしょうけど……」

「俺は『奴ら』には頼りたくねーな」

「魔神……人知を超えた怪物、か」


 二人は顔を見合わせた。


 異世界に住む魔の眷属──『魔神』。

 伝説の【魔神王】の配下である最強の魔物たち。


 帝国がそれを召喚することに成功したのは、今から五年ほど前だ。

 皇帝のもとに突然現れた一人の少年が、十七柱の魔神を次々に異界から呼び出したのだという。


 以降、皇帝は彼に宮廷魔導師の地位を与え、重用している。

 ただし、魔神を戦線に投入するためには、まだいくつもの儀式が必要らしく、王国との戦争においてはさしたる戦果を挙げていない、というのが現実だった。


「そんな化け物に頼らなくても、俺たち猛将がいれば十分だ」


 ラガッハがうそぶいた。

 王国と激戦を繰り広げ、多くの戦果を挙げてきた自負が、彼にはある。


「そうね、戦力としてなら確かに大きい。だけど化け物の力を借りて戦争に勝ったとして、その後のこともあるわ」


 ため息をつくアリア。


「その後?」

「奴らを制御し続けられると思う? 今は王国という敵がいるから、彼らはあたしたちに力を貸してくれている」

「王国が奴らの敵、か」

「正確には、王国やその近隣に封じられた聖剣が、ね」


 と、アリア。


「初耳だ」

「あたしも噂交じりで集めた情報よ。魔神はその聖剣を破壊するなり、封印し直すなりするために、帝国に協力してくれているとか」

「ほう」

「帝国が王国を制圧し、魔神どもがその聖剣に関して目的を果たしたら──次に彼らの刃が向けられるのは──」




「面白そうな話をしてるじゃねーか」

「だけど、化け物とは心外ね」




 突然の声に、ラガッハとアリアはギョッとして口をつぐんだ。


 気配も、何も感じなかった。

 気がつけば、数メートル前方に二つのシルエットがたたずんでいた。


 大柄な男と、小柄な女。

 頭部には角が、背からは皮膜状の翼が生えている。


「魔神……」


 ラガッハとアリアが顔をこわばらせる。


 体が自然と震えた。

 一騎当千の彼らといえど、人知を超えた存在である魔神には、やはり畏怖を感じてしまう。


 男はヴァイツ、女はルシオラ。

 確か、そんな名前だったはずだ。


 十七柱の魔神たちは、普段は皇帝や宮廷魔導師の側に控え、猛将たちでさえその姿を目にすることはない。


「おいおい、そんなに怖がるなって。味方に剣を向けたりしねぇよ」


 大柄な男──ヴァイツが肩をすくめた。

 右手を突き出すと、黒い光が弾け、巨大な斧が現れた。


「だいたい、俺様が本気を出したら、人間の体なんて跡形も残らねぇからな」


 ぶんっ、と軽く素振りをしただけで、硬い床に亀裂が走る。


 すさまじい膂力だった。


 武器スキルを使えば、これと同じことも可能だろう。

 だが、魔神は単なる腕力だけで、しかも斧の風圧だけで床を割いたのだ。


 人間をはるかに超える身体能力を備えているのは確かだった。


「ヴァイツ、よしなさい」


 たしなめたのは、小柄な少女──ルシオラだ。


「けどよ、ルシオラ。こいつら、俺たちのことを化け物だのなんだの──」

「ヴァイツ」


 ルシオラが静かな声で告げる。


「へいへい、分かったよ」


 ヴァイツの手の中で黒い光が弾け、斧が消え去った。


「それより、彼らに用があるのでしょう」

「ああ、そうだったそうだった」


 ルシオラの言葉に、ヴァイツはぼりぼりと頭をかく。


「我らに……用?」

「お前らの部下を借りたい」


 と、ヴァイツ。


「何?」

「俺様の魔剣を使わせてやる。そいつで王国の連中を殺しまくれ」

「私たちの直接戦闘は、まだ許可が下りていないの。だけど魔剣の付与は認められているわ」


 と、ルシオラ。


「あいにく、私の魔剣は以前に他の騎士に与え、戦場に投入したのだけれど──残念ながら王国に敗れて、魔剣も奪われてしまった」

「次は俺様の魔剣をお前らに与えて、戦場に送り出すってわけだ。人間の戦闘力なんてゴミみたいなもんだが、魔剣があれば別さ。魔神級とまではいかなくても、上手くいけば魔獣級か、それ以上の戦闘能力を発揮できる」


 ヴァイツが笑った。


 明らかに人間を見下した物言いだが、反論はできなかった。

 すれば、どんな目に遭うか分からない。


 特に、ヴァイツは粗暴そうな外見だ。

 刺激しない方がいいだろう。


「人型の魔獣に魔剣を持たせることもできるけれど、人間が魔剣を使った方が、魔剣の潜在能力を発揮させやすいの」


 ルシオラが説明する。


「というわけで、だ。お前らの部下を貸せ。別にお前らが使ってもいいが、魔剣を使うと最終的には精神崩壊して廃人になるからな。使い捨てできる人材に持たせたほうがいいぜ」


 ヴァイツがまた笑う。


(化け物どもめ、調子に乗りやがって)


 ラガッハは苦々しい思いで魔神を見据えた。


「俺の部下に使い捨てにしていい奴などいない。魔剣を持たせることなどできん」

「ほう? こいつは皇帝からの勅命なんだがな?」


 ヴァイツがニヤリと笑った。


「っ……!」

「俺にはどうでもいいが、お前らには勅命ってやつは絶対じゃないのか? ええ?」


 詰め寄るヴァイツ。


 ラガッハは言い返せない。


 握りしめた拳が震え、皮が裂けて血が流れ落ちた。




「──頼むぞ、お前たち」


 翌日、ラガッハは二人の上級騎士に魔剣を与えた。


 秀麗な顔立ちをした二人の少年。

 そっくりな顔をした彼らは双子である。


 そして、ラガッハが手塩にかけて育てた部下の中で、もっとも有望な二人だった。


(使い捨て……か)


 できれば彼らを選びたくなかった。

 だが、魔神ヴァイツから預かった魔剣にもっとも適性を示したのが、彼らだったのだ。


「そんな顔をしないでください、将軍。こいつで暴れてきますよ」

「僕らは帝国の礎になって死ねるんです。光栄です」

「……すまん」


 二人の健気な態度に、ラガッハは重苦しい気持ちでうつむいた。

次回はマリウス視点に戻ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
風呂敷を広げ過ぎたかも
[良い点] うーん 最初あたりまで楽しかったです。 [気になる点] 急に話が大きくなりすぎて一気につまらなくなりました。 [一言] 別に魔神枠要らなかったんでは?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ