表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/144

9 決戦再開

「メル……?」


 周囲を見回すが、やはり、そこには純白の空間が広がるのみだった。


 元の場所──『神聖界』の最上階層に戻ってきたらしい。

 背後にはツクヨミが、そして前方には巨大な竜神が、さらにその向こうには巨大な立方体【最高神】がたたずんでいる。


 そして、俺のすぐ側には銀色の巨大な剣が。


『それは復讐じゃない。それは怒りや恨みじゃない』


 メルの言葉が脳裏によみがえる。


『その気持ちは──使命感だよ。おじさんは、自分にしかできないことを背負って、戦っているんだよ……』


 剣の刀身にはめこまれた赤い宝玉が、瞳のようにまたたいた。


 澄んだ、美しい輝き──。

 メルの瞳を思い出す。


『おじさんにしかできないこと。おじさんだからこそ、できること。それを忘れないで』


 俺の中にある帝国への怒りや恨み。

 それはまぎれもなく、俺が戦う原動力だ。


 だけど、それとは別の気持ちに──俺の中に宿るもう一つの想いに、向き合うときがきたんだろうか。


「剣よ」


 呼びかける。

 それは、自然な衝動だった。


「俺に力を貸してくれ」


 柄を、握る。


「軽い──」


 さっきまであんなに重かった大剣が、今は羽のように軽く感じる。


「この剣なら、戦える……!」


 本能的に確信した。


 俺の戦闘能力だけでは、竜神とのレベル差は覆せない。

 だが、この剣の助けがあれば。

 この剣を介して発動するスキルがあれば──。


 勝てるかもしれない。


「いや、勝つんだ」


 そして──1000倍の経験値を得て、強くなってみせる。


「ほう、たかが人間と思っていたが……剣を手にする資格があったとは」


 竜神がうなった。


「魂の底に【光】を宿していた、か」

「メルが教えてくれた。俺が戦う理由の、根源を」


 怒りも、憎しみも、絶望も──それら【闇】に属する想いと。

 これ以上の怒りや憎しみや絶望を生み出したくないという願い──【光】に属する使命感と。


 その狭間で揺れ動きながら、俺は戦う。


【闇】に呑まれず、【光】を胸に宿して──。


 俺は、戦う。


「ふむ、自覚を終えたようだな」


 竜神が満足げに笑った。


「ならば、撃ってみせよ。最強のスキル【破軍竜滅斬(はぐんりゅうめつざん)】を。真っ向から受けてやろう。見事、俺を打ち倒してみせよ!」

「ああ、試してみる」


 俺は竜神と対峙した。


 すさまじいプレッシャーは健在だ。

 こうして向き合っているだけで、全身を押しつぶされそうな錯覚を感じる。


 まぎれもなく、今まで戦ってきた中で最強の相手。


「スキルを使う資格を得たとはいえ、ただの人間が立ち向かえるほど甘くはないぞ。この俺の力は……!」


 竜神が巨体を揺らし、近づいてきた。


 動き自体はゆったりとしているが、何しろ体のサイズがけた違いだ。

 あっという間に距離が詰まる。


「【ストームレイ】!」


 俺は牽制代わりに魔法スキルを放った。

 青白い光芒が竜神の胸部に炸裂する。


「ぬるいわ!」


 竜神は止まらない。

 超速で繰り出された尾が俺に迫り──、


「【ソードラッシュ】!」


 俺は銀色の剣で武器スキルを発動する。

 連続して叩きこんだ斬撃で、なんとか尾を弾いた。


「さすがに……重い……っ!」

「当たり前だ!」


 吠えて、今度は竜神の爪が撃ちこまれた。


 迎撃したところで、下手をすればパワー負けして吹っ飛ばされる。

 俺は身体能力を最大限に活かして、大きく跳び下がった。


 まずは、体勢を立て直して──、


「そんなゆとりは与えん」


 しかし、俺の狙いを読んでいるのか、竜神はさらに距離を詰める。


 爪に牙、尾、そしてブレス。

 嵐のような猛攻が俺を襲った。


「くうっ……」


 さっきの世界で多少レベルが上がったとはいえ、やはり竜神の能力は圧倒的だ。


 速さも、重さも、手数も。

 やはり、肉弾攻撃は相手に分がある。


 俺は避けることも防ぐこともできず、ただ逃げ回るのみ。


 逃げながら、必死で反撃のチャンスを探す──。


「意外にしぶといやつだ。ならば、我が最大威力のブレスを食らうがいい」


 竜神が大きく跳び下がった。


 奴の方から距離を取るとは──。

 それだけの高火力攻撃を仕掛けてくる、ということか。


 竜神が口を開く。

 口中に赤い輝きがあふれた。


「言っておくが、避けることはできんぞ。我が最強のブレス【灼熱炎燐砲しゃくねつえんりんほう】は周囲一帯を吹き飛ばす。お前が逃げる場所はどこにもない──」


 かといって、おそらく俺の防御スキルで防ぐことは無理だろう。


 回避も、防御も不可能──。

 なら、それ以上の高火力スキルで相殺するか、打ち破るしかない。


「つまりは──これか」


 俺は銀色の大剣を掲げた。


 使用するスキルはもちろん【最高神】から暫定的に授かった【破軍竜滅斬】だ。


 練習している暇はない。


 ぶっつけ本番で習得するしかない。




「大丈夫。できるよ、おじさんなら」




 突然、声が聞こえた。


「えっ……?」


 剣から白銀のオーラが立ち上る。

 そのオーラが人の形を取って、俺の前に現れた。


 見ているだけで心が温かくなるような、朗らかな笑顔。

 ポニーテールにした黒髪。

 抜けるように白い裸身。


「メル……!」


 だが、その体は半透明に薄れ、足が地面から浮いている。


「お前、どうして──」


 驚く俺にメルは微笑み、そっと寄り添ってきた。

 柔らかく、温かな肌だった。


「あたしが一緒にいるから。おじさんは自分の力を信じて──自分の想いと【光】を信じて、撃って」


 メルが告げる。


「最強のスキル【破軍竜滅斬】を」

長くなってしまいましたが、次回決着です。上手いことコンパクトにまとまらなかった……(´・ω・`)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 先日から読み始めた。もう、完結してしまっているからこんな事を書いても仕方ないんだが、この話までは大変面白かった。しかし、「使命感」?御冗談でしょ!もっと殺戮を繰り返し、無双して帝国を滅ぼせよ…
[一言] この竜神さん気持ち悪いな 言ってる事がめちゃくちゃや
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ