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7 道程

 村の入り口は、血の海と屍の山が積み重なっていた。

 むせ返るような血臭の中を、俺は進んでいく。


 見た感じ、さっきの【インパルスブレード】の衝撃波を受けて、全員絶命しているようだった。


 本来なら数人単位の敵を中距離から仕留めるランク2スキルなのだが、レベル100を超えた今の俺が使えば、この通り……というわけだ。

 治癒系統のように使用者のレベルに依存しないスキルもあるが、攻撃系のスキルはおおむね使用者のレベルが高ければ高いほど威力を増す。


 ランク2のスキルでさえ、レベルが高ければ、これだけの威力を発揮するのだ。

 ランク7スキルである【破軍竜滅斬】を俺が使えば、あるいは格上の魔神にも通用するかもしれない。


「おじさん!」


 声に振り向くと、一人の少女がポニーテールを揺らしながら走ってくる。

 メルだ。


「安全な場所に隠れているように言っただろう」


 俺は眉根を寄せた。


「だって、帝国の兵士たちはおじさんが全員やっつけちゃったんでしょ? すごい爆発音みたいなのが聞こえたから、慌てて走ってきたの」


 メルは息を切らしている。


「おじさん、怪我はない?」

「無傷だ。帝国の連中は、たぶん皆殺しにした」


 答えつつ、左右に視線を走らせる。

 いちおう敵兵の生存の可能性も考え、周囲への警戒は怠らない。


「まだ敵が残っているかもしれないし、メルは町の中に戻るんだ」

「おじさんが心配で……」

「お前がここにいる方が心配だ。いいから──」


 言いかけたとき、ひゅっ、と矢が飛んできた。


「メル!」


 俺は矢を右手でつかむ。


 矢じりが手のひらを傷つけ、血がしぶいた。

 本来なら剣で叩き落とすところを、わざわざ手で矢をつかんでしまった。


 とっさのことだったのと、メルを守らなければと慌てたせいだ。


「まだ生き残りがいたか」


 俺は振り返った。


「ひ、ひいっ……」


 屍の山に隠れ、クロスボウを構えた帝国兵がいる。


「メルを狙うとは、なおさら許せんな──」


 胸の中で、怒りが燃え上がる。

 憎悪が、燃え上がる。


「今すぐ死ね!」


 俺は手にした剣を思いっきり投げつけた。


「ぐ、がぁ……」


 猛スピードで飛んでいった剣が、そいつの胸元を甲冑ごと貫く。

 口から血を吐きながら、敵兵は倒れた。


「お、おじさん……」


 メルがおびえたように俺を見る。


「そんなに、強かったの……!?」


 彼女の瞳には、わずかなおびえがあった。


「怖がるな。俺は、俺だ。事情があって、今までよりかなり強くなったけど、な」


 俺は微笑みながら、メルの頭を撫でた。

 ……ぎこちない微笑みになってしまったが。


「事情……?」

「帝国の連中を倒すために力が欲しい──そう願ったら、神様が叶えてくれたんだよ」


 おおむね真実だ。


「帝国を、倒す……」


 つぶやくメル。


「じゃあ、これからも戦うの?」

「ああ、俺は帝国と戦い続けるし、敵兵を殺し続ける」

「村は守られたんだからいいじゃない」


 メルが首を左右に振った。


「後は騎士団に任せようよ。おじさんが戦うことなんてない」


 目に涙を浮かべて俺を見つめている。


 心配させているんだろうな。

 すまない、メル。


「そうはいかないんだ。奴らは強大な戦力を抱えている。俺が行かないと──それに」


 元の世界のお前たちは、殺されたんだから。


「おじさん──」

「ちょっと行ってくる」


 ここが元の世界じゃないと分かっていても、生きているメルたちを見たら、守りたいという気持ちが強烈にこみ上げる。

 自分でも抑えきれない衝動が噴出する。


 敵を殺すというドス黒い衝動。

 そして、大切な者たちを守り通したいという想い。


 その二つが胸の中にあふれ返る。


 俺は、そのための力を持っているんだ。


 だから、戦う──。




 村を出て、街道を進む。

 しばらく行くと、また帝国の一部隊が見えた。


「メルたちに危害を加える前に──皆殺しだ」


 俺は突進する。


 圧倒的なレベル差のおかげで、相手が数百人単位でもまったく問題にならない。

 俺は剣や拳を振るい、あっという間に彼らを全滅させた。


 どうやらこの世界でも【経験値1000倍】の効果は発動するらしく、合計で470万の経験値を得ることができた。

 レベルも104から113まで上昇した。


「だけど……まだまだ、足りない……!」


 レベルや経験値も足りないし、何よりも帝国の奴らを殺し足りない。


 ふと足下の血だまりを見ると、さっき同様に黒いシルエットが映っていた。

 自分の影だっていうのに、禍々しい雰囲気を感じる。


 まるで、魔物だ。


 まあ、帝国の連中を殺せるなら、なんでもいい。




 俺は、さらに進む。

 レベル113の身体能力を全開にして、馬よりも早く街道を疾走する。


 行く先々で帝国の部隊と出会った。

 殺して、殺して、殺しまくった。


 行く先々で、人々の賞賛を浴びた。

 感謝の言葉を受けた。


 同時に、畏怖の視線も。


 それは、メルが俺を見たのと同じ目だった。

 人をはるかに超えた力を持つ者に対する、畏敬と恐怖。


 だが、どんなふうに見られようとも構わない。


 血なまぐさい戦いの連続だが、人々が無事な姿を見るとホッとした。


 たとえ見ず知らずの人たちでも──戦争によって大切な者を失い、悲しみ、絶望する光景を食い止められたことに、心の底から安堵する。

 そのためなら、まだまだ戦える──!




「そうやって、ずっと戦い続けるの?」




 とある都市での戦いを終え、次の戦場へ移動しようとした、そのときだった。

 突然、目の前にメルが現れたのだ。


「お前、どうして……」


 どこから出てきたのか。

 どうやってここまで来たのか。


「おじさんが、心配だから」


 メルが俺をまっすぐに見つめる。


「これからの行く末が、心配だから」

「俺の、行く末……?」

「【浄化の白炎】は対象の精神に干渉し、『選別』する。試練を与え、進むべき道を選択させる──」


 メルの全身から白いオーラが立ち上った。


 身に付けた衣服がはじけ飛び、鮮烈な白い裸身があらわになる。

 どこか神々しさを感じさせる肢体は、まるで女神のようだった。


「お前……!?」

「決断のときだよ、おじさん」


 美しい裸身をさらしたまま、メルが静かに告げた。

投稿から一か月経過です。予想よりずっと多くの方に読んでいただき、ただただ感謝です。ほんとうにありがとうございました!

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