表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/144

5 VS竜神

 眼前に巨大な剣が突き立っている。


 といっても、地面も空も不明瞭なこの空間では、浮いているように見えるのだが。

 俺は剣の柄に手を伸ばした。


「っ……!?」


 重い──。

 とてつもなく、重い。


 持ち上げることさえ、できそうになかった。


「これが……【破軍竜滅斬】?」


 おそらくこの剣を使うことでスキルが発動するんだろう。

 だが、剣を構えることもできそうにない。

 と、


「レベル100程度では剣を持つこともできんか、ふん」


 竜神が鼻を鳴らした。


「だが、いつまでも待ってやるほど俺は甘くない。いくぞ、小さき者……!」


 傲然と吠える竜神。


「ぐっ……ううっ……!」


 大気が激しく震え、突風が吹きつけてくる。

 竜神の威圧感だけで全身が押し潰されてしまいそうだ。


 EXスキル【経験値1000倍ボーナス】をもらって以来、初めてだった。

 明らかに自分より格上の相手と戦うのは──。


 ごくり、と喉を鳴らす。


 自然と震える四肢に、力を込めた。


 震えよ、止まれ。


 相手がどれだけ強くても関係ない。


 俺は、誓ったじゃないか。


 帝国の連中を倒す。

 倒し、殺し、滅ぼされた村の無念を晴らし続ける。


 姪や妹夫婦の無念を、晴らし続ける。


 そのために戦う。


 そのために──もっと強くなる!


「【螺旋の吐息】!」


 竜の口から、その名の通り螺旋状の光線が発せられた。


「【ディフェンダー】!」


 俺はとっさに防御スキルを発動する。


 俺の前面に青く輝く防御フィールドが出現した。

 光線と防御フィールドが激突し、


 ばぢぃっ!


 耳障りな音ともに、【ディフェンダー】が破壊される。

 ランク5スキルまでを完璧に防ぐはずの、この防御スキルでも止められないとは──。


【ディフェンダー】を破壊したブレスは威力の大半を削がれたようだが、その余波がなおも俺に迫る。


「【ガードⅡ】!」


 俺は続けざまに防御スキルを発動した。

 間一髪で展開された防御フィールドが、ブレスの余波を弾く。


「ほう、スキルを連続して発動したか。人間にしてはなかなかのものだ」


 竜神がうなった。


「だが、ブレスを防いだ程度でいい気になるなよ。俺にはまだ爪も牙も尾も角も──接近戦の手段も無数にある。無論、ブレスのような遠距離攻撃とて、まだまだ何種類も持っている」

「……実戦中に、手の内を明かしてくれるとはお優しいことだな」

「実戦? 違うな、これはレッスンだ」


 竜神が笑った。

 明らかな嘲笑だった。


「戦いとは対等か、それに近いレベルの者によって初めて行われるもの。お前ごとき矮小な者が、この俺と『戦い』になると思うなよ」


 俺は黙って奴を見据えた。


 侮辱に言い返している場合じゃない。

 思考を、巡らせるんだ。


 次の戦闘手段を。


 いくら俺にレベル100超の身体能力があるとはいえ、相手ははるかにレベルが上の、しかも竜である。

 接近戦は危険すぎる。


 なら、まずは──離れた距離からの攻撃だ。


「【インパルスブレード】!」


 俺は腰に差した剣を抜き、スキルを発動した。

 刀身から放たれた衝撃波が竜の巨体に叩きつけられる。


「まるで涼風だな」


 竜は小揺るぎもしなかった。


「こいつ──」


 さすがに……いや、予想をはるかに上回るほど、強い。


「だったら、これで!」


 俺はふたたび剣を掲げた。


「【豪刃凍花(ごうじんとうか)】!」


 黒の猛将グリムワルドとの戦いで使った技だ。


 待機時間(クールタイム)が長く、技を使った後の隙も大きいため、普段はあまり使わないスキルだった。

 ただし威力は【インパルスブレード】をもはるかに凌ぐ。

 俺の手持ちスキルの中で、中距離以上を攻撃できる技の中では最強といっていい。


 相手が俺の技を待ち受けており、ある程度の距離があるこの状況なら──と使ってみたのだ。

 青い衝撃波がほとばしり、竜神に撃ちこまれる。


「ぬるい」


 長大な尾が、その衝撃波を虫でも払うように叩き落とした。

 すさまじい反応速度と身体の頑強さ──。


「【浄化の白炎】」


 竜神がその名の通り純白の炎のブレスを吐き出した。


 俺のスキルの中でもっとも防御力が高い【ディフェンダー】は、さっき一度使っている。

 スキルには基本的に待機時間(クールタイム)が設定されていて、【ディフェンダー】は一度発動すると、次に使えるのは十分後だ。


「【ガードⅡ】!」


 俺は別の防御スキルを発動した。


 これもさっき使ったのだが、こっちは三回まで連続発動可能だ。

 だが、俺が展開した防御フィールドを、白い炎はあっさりと突き抜ける。


 フィールドを『破壊された』のではなく、『すり抜けた』のだ。


「何……!?」


 次の瞬間、白い炎が俺の全身を焼く。


 熱くは、ない。

 ただ、心の内側が焼き溶かされるような感覚があった。


「【浄化の白炎】は物理攻撃ではない。対象の精神に干渉する特殊スキルだ」


 竜神が告げた。


「お前の精神に直接作用し、『選別』する」

「選別……だと……!?」


 胸の奥が、灼熱する。


「お前の精神が真に強ければ生き残り、そうでなければ──」


 竜神の口の端が、にいっ、と吊り上がった。


「心が崩壊し、意思は砕け散る。お前に待っているのは廃人の末路のみ」


 声とともに、俺の視界は暗転し──。


「ここは……?」


 気がつけば、懐かしい場所にいた。

 広がる畑と点在する家──そう、故郷の農村だ。


「あれ? マリウスおじさん?」


 可愛らしい声が響く。


「お前……」


 振り返った俺は呆然と目を見開いた。


「メル……!?」


 帝国軍に殺されたはずの、姪の姿だった。

2万9千ポイント突破しました。3万ポイントも見えてきています……ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ