4 最高神
「ここが『神聖界』の最上階層だ」
ツクヨミが告げた。
扉を開けた先にあったのは、真っ白な世界だった。
地面も、空も、何もない。
俺は中空に浮かんでいるのか、ふわふわとした浮遊感がある。
そして、白い世界の中心部に──そいつはいた。
遠近感がつかみにくいのだが、おそらく一つの都市くらいの大きさは、優にあるだろう。
超巨大な立方体。
そのあちこちに、棒状の何かが突き刺さっている。
いや、あれはもしかして剣、か?
金や銀、赤、青、緑──色とりどりの剣が、針山のように立方体の表面に突き立っている。
「あれが──」
「そう、我らが主【最高神】」
俺のつぶやきに答えるツクヨミ。
『珍しいな。我が下に人間が訪ねてくるのは』
立方体から重々しい声が響いた。
脳内に直接響くような声だ。
『かつての人間たちの文明──ラ・ヴィムでは、【光】や【闇】と交信する方法が確立されていた。それなりの頻度で人間たちの訪問を受けていた。だが、そのラ・ヴィムも滅び──以降、我が下を訪れる人間の数は激減した』
巨大立方体──【最高神】が告げる。
『まれに我が配下──端末たちが、気に入った人間を連れてくる程度だ。それもこの数万年の間に数えるほどしかない』
「彼は、私の手違いにて死なせてしまった人間です。イレギュラーな事態ではありますが、運命係数を書き換えて復活させ、また無用の死を経験させてしまった謝罪と補償代わりにEXスキルを授けました」
ツクヨミが恭しく告げる。
『なるほど、その者からは強い【光】を感じるな。自身の近しい者を奪われた復讐心と、自身でも気づいてはおらぬ使命感……なかなか面白そうな素材だ』
と、最高神。
『人間よ、汝の望みはなんだ?』
最高神がたずねた。
「望み……?」
『より強い「力」を求めてきたのか?』
「……そうだ」
うなずく俺。
『すでに汝は【光】のEXスキルを身に付けている。それでは足りぬか?』
「俺は魔神と戦うつもりだ。だから奴らを超える力がいる」
『ふむ、魔神……か』
最高神が立方体状の体を震わせる。
『個体によって強さに差があるが、上位の者であれば、魔神王に比肩する強さを持つからな』
帝国にその上位の魔神がいるのかどうかは分からない。
だが、もしいるのであれば──そいつらを倒すためには、魔神王を超えるほどの力が必要ということになる。
『いかに汝が【経験値1000倍ボーナス】を持つとはいえ、魔神のレベルを超えるのは並大抵のことではない。レベルが上がれば上がるほど、次のレベルまで上げるための経験値は莫大な数値が必要になるからな』
そう、レベルが上がるほどに成長は鈍化していく。
俺の【経験値1000倍ボーナス】でも、200や300、あるいはそれ以上のレベルまで上がるためには、かなりの時間が必要になるだろう。
「だけど……悠長に待っているうちに、帝国が魔神を使って侵攻してくるかもしれない」
『レベルで劣っていても、奴らに勝てる可能性が一つある』
最高神が言った。
『強力なスキルを身に付けることだ』
「スキル……?」
『スキルは、その威力に応じてランクに分かれている。一般的に、人間が身に付けられる限界ランクは6。だが魔神が相手では、そのランク6のスキルでさえ、大した効果は見込めない』
と、最高神。
『奴らを倒すためには、その上のランク7スキルが必要となる』
「ランク7……」
『本来なら人間のレベルで扱えるスキルではない。それは、神や魔が操るスキルだからな』
最高神が厳かに告げた。
『だが【光】の力を極限まで高めた人間ならば、あるいは扱えるかもしれぬ』
俺は息を飲んで神々の王の言葉を聞いていた。
『人間よ、汝はランク7スキルの取得を望むか』
「……ああ」
俺は静かにうなずいた。
『ならば試練を受けるがよい。それに打ち勝ったとき、汝はランク7のスキルを身に付けることができる』
「試練?」
『この者と戦ってもらおう』
白い空間の一部から、緑色の輝きがあふれる。
それは巨大なモンスターとなって顕現した。
竜。
そう、ここに来る途中で見かけた、巨大な竜の神である。
『竜神のレベルは400を超えている。本来なら、お前が勝てる相手ではない。だが──そのスキルは名前の通り竜をも滅する力を持つ』
と、最高神。
『もしもお前がスキルの力を引き出すことができたなら、勝利することも不可能ではない』
「もし……引き出せなかったら?」
『お前は死ぬ』
どくん、と心臓の鼓動が早鐘を打つ。
「──上等だ」
俺は一歩前に出た。
「……いいのか、人間よ」
背後でツクヨミがたずねる。
「今までの相手のようにはいかんぞ。竜神は君よりもレベルが上なのだ」
「今でさえ規格外の能力をもらっているのに、さらに新しい力をも授かろうっていうんだ。これくらいのリスクを負うのは当たり前だろう」
言いつつも、両足が震えるのを止められない。
覚悟を決めろ、俺。
もっと強くなるために──。
そのために、俺はこの世界まで来たんだ。
「そいつと戦ってやる」
『では、暫定的に授けよう。ランク7スキル【破軍竜滅斬】を』
最高神が厳かに告げる。
同時に、俺の前方で光が弾けた。
鮮烈な、銀の輝き。
それは収束し、一本の剣の形を取った。
まるで鉄板を思わせる巨大な剣。
あまりにも巨大な、剣。
『竜神との戦いで使うがよい。もしもその者に打ち勝てたとき、【破軍竜滅斬】は真に汝のスキルとなろう』
とうとう月間ハイファンタジー表紙入りしました。一年半ぶりのハイファン月間表紙入りです。ありがとうございます!