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3 魔神王と七聖剣

 俺はツクヨミに先導され、神殿の中を進んでいた。


燐光(りんこう)の神殿』

 ここを抜けると、『神聖界』の最上階層にたどり着くのだという。


 外壁同様に内壁も虹色の輝きを放っていて、目にまぶしかった。

 内部には誰もおらず、かつ、かつ、という俺とツクヨミの足音だけが響く。


 回廊を進んでいると、やがてホール状の場所に出た。

 中央部に巨大な宝珠があり、そこに映像が映っている。


「これは……!?」


 中空に浮かぶ、巨大な髑髏。

 それに立ち向かう七つの人影。


「千年前、魔神王と七人の勇者が戦った。そのときの記録だ」


 ツクヨミが宝珠を見て言った。


「千年前の──」

「この神殿は最上階層への移送施設であると同時に、神と魔の戦いの記録場所でもある」


 と、ツクヨミ。


 映像の中で、巨大な髑髏──魔神王が無数の稲妻を放っていた。


 地平線にまで爆光が突き抜け、大地に無数のクレーターが生じる。

 七人の勇者たちはそれぞれ光り輝く剣を持っており、それが生み出した防御壁によって、魔神王の攻撃をしのいでいた。

 いや──、


『きゃあっ』


 七人のうちの一人──年若い少女が爆撃を防ぎきれず、無数の肉片となって爆発する。


「聖剣をもってしても魔神王は容易な相手ではない」


 ツクヨミが言った。


『ぐ、がっ』


 さらに別の勇者──俺と同い年くらいの中年男が、魔神王の放った切断魔法によって聖剣ごと胴体を真っ二つにされる。


「強い……!」


 勇者たちは、おそらく魔獣や猛将など比較にならないほどの戦闘能力を持っている。

 それが雰囲気だけで実感できる。


 そんな勇者たちを七人同時に相手にしながら、優勢に戦いを進めている魔神王の強さは恐るべきものだった。


 恐ろしくもあるが、同時に心惹かれる自分がいた。


 俺も、あれほどの強さを身につけられたら──。

 帝国相手に、一人で立ち向かえるんじゃないだろうか?


 個人が、国を相手に渡り合う。

 まるでおとぎ話のようなことが可能なんじゃないだろうか。


 気がつけば、俺は勇者ではなく魔神王に見とれていた。


 その強さに。

 その存在感に。


 俺は──。

 だんだんと意識がぼうっとなる。


「【光】は容易に【闇】に堕ちる。気を付けたまえ」


 ツクヨミが振り返った。


 深い──どこまでも深い瞳が、俺を見据えている。


 ハッと意識が鮮明になった。


「【光】の根源の一つは、欲望や渇望といった生々しい感情だ。自身の根本にそれを制御する精神力があればこそ、【光】はより強い【光】となって輝く。逆に自制を失えば──【光】は容易に【闇】へと堕ちていくだろう」

「【闇】に堕ちたら……どうなるんだ?」

「人の身で魔へと変じるであろう。君のようなイレギュラーな存在がどうなるか、正確には分からんが、ね」


 言って、ツクヨミはふたたびオーブに向き直った。


「話を戻そう。聖剣と魔神王の話に」


 映像の中では、いつの間にか七人の勇者のうちの六人までが倒れていた。


 全身の骨を砕かれた者、首を切断された者、魔法で焼き尽くされた者、呪いを受けて精神崩壊した勇者。


 残る一人が輝く剣を手に、魔神王と対峙している。

 その剣が、ひときわまばゆい輝きを放った。


 うおおおおおおおおおおおおおんっ!?


 同時に、魔神王がひるんだような様子を見せる。


『行くわよ、我が聖剣『アストライア』!』


 輝く剣を手にした勇者──凛とした美女は、聖剣を巨大な髑髏に投げつけた。


 狙いあやまたず、聖剣は髑髏の額に刺さる。

 次の瞬間、魔神王は絶叫とともに消滅した。




 映像を見終わった俺たちは、ふたたび進みだした。


「聖剣の本来の姿を目覚めさせることで、かろうじて魔神王を封印することができた」


 解説するツクヨミ。


「魔神は──特に上位の魔神は魔神王に匹敵するほどの力を持つ。人の身で立ち向かうには大いなる覚悟と力が必要になるだろう」


 そんな奴が帝国には十七柱もいる。


 ゾッとする話だった。

 なぜかその魔神たちをほとんど戦線に投入してこないおかげで、王国と帝国の戦争は拮抗しているわけだが──。


 いや、『ほとんど投入してこない』状態ですら拮抗しているのだ。

 本格的に魔神を主戦力として使われたら、王国は一瞬で終わるだろう。


 立ち向かえる可能性があるのは──俺だけなのか。


「……いや、待てよ」


 俺はハッと気づく。


「聖剣っていうのは、今の時代にも残っているのか?」


 ふと思いついて、たずねてみた。


「もし現存しているとして──それを俺たちが使用することは可能なのか?」

「まさに、そのことを説明しようとしていたのだ」


 ツクヨミが微笑んだ。


「君一人ですべての魔神を駆逐するのは並大抵のことではない。だが、聖剣を操る戦士がいれば、対魔神の戦力になる。現在の戦力バランスは1対17だが、上手くいけば8対17まで持っていける」


 もちろん、それでも数的不利は否めない。

 だが、俺一人で全魔神を相手にするよりずっとマシだ。


「聖剣は、どこに?」

「それは私にも分からぬ」


 ツクヨミが首を振った。


「千年前の戦いで、役目を終えた七聖剣はいずこともなく飛び去ってしまったのだ。以来、行方は知れぬ……それを見つけ、聖剣を扱える資質を持った戦士に渡すがいい」


 言ったところで、ツクヨミが足を止めた。


「到着だ」


 眼前に巨大な扉がある。


「聖剣の話は、また後ほどしよう。この扉の向こうが、『神聖界』の最上階層。そこには我らが王『最高神』がいる」


 いよいよ、ご対面か。


 ツクヨミが手をかざすと、扉がひとりで開き始めた──。

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