8 猛威
いただいた感想はすべて読ませてもらっています(*´∀`*) とても励みになっています!
返信が止まってしまっていて、すみません。書籍化作業やらなんやらで、ちょいバタバタしてる感じです……(´・ω・`)
【19.7.13追記】感想でご指摘いただいた『魔獣は情報源なので殺さず捕える~』のやり取りを変更しました。あらためて見ると不自然かなーとw セリフ回し等を一部変更した以外は、戦闘の流れなどはほぼ一緒です。
俺の全身を縛りつけている、半透明の紫色の鎖。
拘束系のスキル【戒めの鎖】だ。
以前に魔剣を使う上級騎士と戦った際も、俺はこのスキルを受けた。
身動きを封じられつつも、俺の中から湧き出た『力』が鎖を振りほどいたわけだが──。
前回以上に、鎖が強固だった。
スキルが強くなっている──ということだろうか。
「く……おおおおおおおおおっ!」
俺は渾身の力を込めた。
鎖に少しずつ亀裂が走り始める。
もう少ししたら解けそうだが──。
「たとえサーナがいなくても、私たちだけで!」
「前回だって勝ってるんだからねっ」
リズが剣を手に突進し、その背後でララが右手を突き出す。
「【ガードⅢ】!」
防御系のスキルがリズの全身を包んだ。
「ありがとう、ララ!」
眼鏡の少女騎士が加速する。
「終わりよ、魔獣!」
掲げた剣に赤い光が宿った。
「【パワーブレード】!」
虚空に赤い軌跡を描いた斬撃が、ミスティの頭上に振り下ろされる。
「なっ!?」
驚愕の声を上げたのは、リズだった。
「あれ、こんな程度だったっけ? 弱いね」
ミスティは指一本で【パワーブレード】を受け止めていた。
「それとも、あたしが強くなりすぎちゃったのかな?」
「こ、このっ……」
リズはバックステップで距離を取り、剣を構え直す。
「魔剣スキル──【死の刃舞】!」
ミスティが斬撃を繰り出した。
その刀身が十六に分裂する。
いや、そう錯覚するほどの超高速の十六連撃。
以前の使い手であるコーネリアが使ったときは八連撃だったから、手数が倍になっている。
使い手によって、魔剣のスキルはその威力が変わる──ということだろうか。
十六の斬撃の狙いは、リズではなく後方のララだった。
「くっ……【ヴェルシールド】!」
彼女の前面に緑色の盾が出現した。
確かあれは──ランク3の防御スキル【ヴェルシールド】。
物理魔法ともに高い耐久力を備えた万能の防御スキルだ。
八方から繰り出された魔剣の斬撃が、ララの生み出した盾に弾かれる。
「えっ!?」
ララは戸惑いの声を上げた。
一撃、二撃──と五撃目までを耐えた盾だが、六撃目で亀裂が入り、七撃目で斬り散らされる。
さらに八撃、九撃、十撃──十六撃。
「あっ、ぐ、あがぁぁっ……!」
顔を、首を、胸を、胴を、腰を、四肢を……盾で防ぎきれなかった九の斬撃を受け、ララの体が断ち割られた。
ごろり、とバラバラになった少女騎士の死体が転がり落ちる。
「いちいちダメージ軽減されたら面倒だからね。まず盾役をつぶさせてもらったよ」
「ララっ……!」
リズが悲痛な声で叫んだ。
「お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
姿勢を低くし、まさしく矢のような速度でミスティに肉薄する。
速い──。
騎士隊長や猛将クラスとまでは行かないが、帝国の上級騎士並か、それ以上だろう。
「【ラピッドブレード】!」
さらに、スキルによってリズの剣が加速する。
まさしく超速の斬撃がミスティに浴びせられた。
「遅いね~、遅い遅い」
呆れたような声とともに、魔獣少女の姿が消える。
リズの超速が止まって見えるほどの、超々速移動──。
「っ、ぁぁぁぁぁあああああああああああっ!?」
無造作に繰り出された剣が、リズの右腕を肘の辺りから斬り飛ばした。
床に転がり、のたうちまわる少女騎士。
「はい、とどめ──」
「やめろ!」
俺は紫の鎖を引きちぎり、全速でダッシュした。
まさしく、間一髪。
ミスティがリズに振り下ろした剣を、俺の剣が受け止めていた。
「……ふん」
ミスティはバックステップで跳び下がった。
「本気じゃなかったとはいえ、あたしの剣を止めるなんてね」
俺は答えず、リズに【ヒーリング】をかけた。
ランクの低い治癒スキルだが、応急手当くらいにはなるだろう。
とはいえ、重傷だ。
「リズ、俺がこいつと戦う。お前は治療を受けてこい」
「たい……ちょ……う……」
苦しげにうめくリズ。
ララは無惨に殺されてしまったが、せめてリズだけでも守らなければ……。
「戦う? 今のあたしと、たかが人間が?」
ミスティが、ふん、と鼻を鳴らした。
「戦いになんてならないよ。今から始まるのは、一方的な殺戮。あたしがあなたたち全員を──」
「殺戮なんて、させるか」
俺はまっすぐに剣を構えた。
「そして魔剣も回収させてもらう」
とはいえ、簡単な相手ではなさそうだった。
スキル【経験値1000倍ボーナス】を得て以来、初めてかもしれない。
戦いにおいて、ここまで緊張するのは。
「さっきの二人もかなりの手練れだったみたいだけど、今のあたしには雑魚同然。そして、あなたもね」
ミスティは自信たっぷりに笑った。
無邪気で可憐な顔に、ゾッとするような凄惨な笑みが浮かぶ。
「力がどんどん湧いてくる……ルシオラ様が言ってたの。【光】と【闇】は共鳴し、互いに互いを高め合い、より強い力を与えてくれる、って」
「共鳴……」
「あなたがいたおかげで、あたしは強くなれた! お礼代わりに──」
床を蹴り、一直線に突進してくるミスティ。
「全力で殺してあげる!」
「ちいっ」
俺は剣を跳ね上げ、奴の斬撃を受け止める。
重い──。
少女の細腕からは信じられないほど重量感のある斬撃だった。
受けただけで両腕にしびれが走る。
「よく止めたね。今のあたしって、たぶんレベル100近いよ?」
「……あいにく俺もレベル100近いんでな」
「じゃあ、いい勝負ができそう。楽しませてね!」
そして。
俺とミスティの──【光】と【闇】の戦いが始まった。
※
そこには、どこまでも荒野が広がっていた。
空には曇天、周囲には生物らしきものが何もいない。
寂寥感の漂う世界──【闇】の眷属が住まう異界。
『魔妖界』と呼ばれる世界だ。
「強大な【光】と【闇】がぶつかり合っている……」
声が、した。
荒野の中心部に、虚空からにじみでるようにして黒い影が現れる。
一つ、二つ……と増えていき、やがてその数は十七まで増えた。
「私の配下を向かわせたのよ。魔剣を回収するためにね」
「あの魔剣はもともとルシオラのものだったか」
「だが【光】と【闇】は互いに高め合う。【光】の側を強化することにつながらなければよいが、な」
「多少強くなったところで、しょせんは人間……私たちの敵ではないわ」
「違いない」
「むしろ、強くなってほしいものだな。あまりにも弱すぎると我らにとっても退屈だ」
「何よりも相手の【光】が強ければ、我らの【闇】も力を増す──」
「そうなれば……我らが、かつての力を取り戻せるかもしれん」
「では、私の配下に……ミスティに期待しましょう」
黒い影たち──十七の魔神は、黒の世界で静かにたたずんでいた。