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7 変異

【19.7.13追記】感想でご指摘いただいた『魔獣は情報源なので殺さず捕える~』のやり取りを変更しました。あらためて見ると不自然かなーとw セリフ回し等を一部変更した以外は、戦闘の流れなどはほぼ一緒です。

 今回の戦いで倒した魔獣や上級騎士たちの経験値によって、俺のレベルは99に到達した。


 あと少しで節目のレベル100である。

 俺はリズやララと別れ、ゴードンのところに行った。


「悪かったな、出しゃばってしまった」


 本来、この町の警護は九番隊の役割だ。

 俺はその戦いに割って入った格好になる。


「い、いえ、その、ご協力いただき……か、感謝いたします……」


 ゴードンはひきつった顔で愛想笑いをした。

 おびえたように瞳が泳いでいる。


「隊長の実力を見て、かなりビビっちゃったみたいですね」


 ウェンディが俺に耳打ちした。


「隊の最後尾で隊長の戦いぶりを見て、顔色真っ青でしたから。『う、噂は本当だったのか……まるで化け物じゃないか……あり得ない……』とか言ってました」


 まあ、ゴードンの俺に対する心証はとりあえず置いておこう。

 今は、あの魔獣少女のことが先決だ。


「さっきの場所に戻ろう。研究者たちも一緒にな」

「あの……一息ついてはいかがでしょうか」


 と、ウェンディ。


「ん?」

「魔獣二頭を倒して、さらにたくさんの敵兵と戦ったでしょ? いくら隊長でも少しは休んだ方がいいですよ」

「まあ、スキルを連発したしな」


 何より、もう若くないし。


「分かった。じゃあ、少し休憩させてもらう」


 それに──魔獣少女をクリスタルの外に出した後、戦闘になる可能性もある。

 備えをしておくべきだろう。

 と、


「魔獣や魔剣のところに行くなら、私もご一緒させてください」

「私も」


 リズとララが俺のところに来た。


「──サーナのところにいなくていいのか?」

「亡骸は遺体安置所に送りました。正式な葬儀はいずれ」

「いつまでも下を向いていたら、それこそサーナに怒られますから」


 リズとララは涙の跡が残る顔で、寂しげに笑った。


「魔獣や魔剣と戦ったのは私たちです」

「一緒にいれば、何かお役に立てることがあるかもしれません」


 二人はまっすぐに俺を見つめている。

 任務に没頭していれば、仲間を失った悲しみも少しは忘れられるかもしれないな。


「……分かった。頼めるか」

「はい!」


 俺が言うと、リズとララは力強くうなずいた。


「お二人も。少し休んでからにしましょう」


 ウェンディが俺たち三人のところにワゴンを運んできた。

 淹れたての紅茶が乗っている。


「この紅茶は、気持ちを落ち着かせる効果があるレルの葉で淹れたものなんです。よかったらどうぞ」

「ありがとう」

「私もいただくね」

「気を使わせたな、ウェンディ」


 俺たちは彼女に礼を言い、紅茶を口にした。


 美味い。

 しかも、彼女が言ったように気持ちが楽になったような気がする。




 短いティータイムを終え、俺はリズ、ララとともに地下牢にやって来た。


 その最深部に魔獣少女が幽閉されている。

 研究者はいったん離れた場所で待機させた。

 戦闘になる可能性を考慮したのだ。


 またウェンディも同じく待機させている。

 こちらは俺に何かあったときなど、不測の事態に備えてのことだ。


「ここだな」


 俺はリズやララと一緒に牢に入った。

 その奥には、クリスタルに包まれた十歳くらいの可憐な少女──魔獣と、上部に突き刺さった二本の魔剣。

 だが──、


「形が変わってないか、これ?」


 俺は眉根を寄せた。


 最初に見たとき、クリスタルは円柱状の形をしていた。

 その中心部に魔獣少女が、上部に魔剣が突き刺さっていた。


 だが今は、クリスタルのあちこちから刃のような突起が無数に突き出している。


「──【光】と【闇】は互いに引かれ合う」


 ふいに、クリスタルの中から少女の声が響いた。


「っ……!」


 反射的に身構える俺、そしてリズやララ。


「互いに影響を与え、互いにその力を高め合う。【光】の力を持つイレギュラーと【闇】の魔獣キマイラたちとの戦い──それによって高まった【光】と【闇】は、あたしにも影響を与えていた」

「何を……言って……?」

「強くなった、って言ってるの。このミスティ・ルード──もはや人間どもに後れを取ることは二度とない!」


 言うなり、クリスタルが砕け散った。


 金髪に赤いリボンとワンピースの少女が床の上に降り立った。

 両手に二本の魔剣を携えた。


「あなたたちにもリベンジしないと、ね」


 ミスティと名乗った魔獣少女がリズとララを見据える。


「あれ、一人足りないみたい──ああ、キマイラに殺されたんだね」

「っ……!」


 その言葉にリズとララの顔色が変わった。


「魔獣め……!」


 リズが飛び出す。


「許さない!」

「あらあら、彼女を殺したのはあたしじゃないんだけど?」

「うるさい! お前たち帝国軍に殺されたのは確かよ──」


 剣を振りかぶるリズ。


「【パワーブレード】──」

「待て!」


 俺は横合いから飛び出し、彼女の斬撃を止めた。


「マリウス隊長、なぜ止めるんですか!」


 リズが眼鏡越しに怒りの視線を俺に向けた。


「魔獣は容易な相手じゃない。うかつに手を出すな」


 大切な存在を奪われた怒りは、俺だって理解できる。

 だが、目の前の魔獣少女から感じる雰囲気は異様だった。


 以前に戦ったマンティコアやキマイラと比べても──何かが違う。


「問題ありません。私たちは以前に彼女と戦い、勝っています」


 だが、そのときにはサーナがいたはずだ。

 今はリズとララの二人だけ。


 そして魔獣は、おそらく以前とは違っている。


「奴は俺が始末する。お前たちは下がっていてくれ」

「マリウス隊長!」


 抗議するようなリズとララに、俺は静かに見据えた。


 先ほどのキマイラとの戦いでは、彼女たちの助力を受け──結果、サーナを死なせてしまった。

 同じ轍を踏むわけにはいかない。


「もしものときは助けを呼びに行ってくれ」

「……分かり、ました」


 うなずきつつも、リズもララも納得していない様子だ。

 ぎりっ、と奥歯を噛みしめる音が聞こえる。


「言い争いしてるんなら、こっちから行くよ」


 ミスティの全身から薄桃色のオーラが立ち上った。


闘気(プラナ)の量がかなり増えてる──ふふ、キマイラたちは無駄死にじゃなかったみたいだね。あたしのパワーアップに貢献してくれた」

「こいつ──」


 俺は、背筋が凍りつくような悪寒を感じた。


 やはり、こいつは違う。

 今まで戦った魔獣マンティコアやキマイラたちとは。


 根本的に、何かが違う──。


 どんっ!


 次の瞬間、突風に似た圧力を受け、俺は吹っ飛ばされていた。


「ぐっ!?」


 壁に叩きつけられ、さらに四肢に紫色の鎖のようなものがまとわりつく。


「これは──!?」


 確か魔剣スキル【戒めの鎖】だ。

 身体能力が低下するスキルを受け、俺の全身が鉛のように重くなった。


「このっ……!」


 以前に戦った魔剣使いからも同じスキルを受けたが、そのときはなんとか破ることができた。

 だが、今回は──。


「解けない──」


 四肢に力を込めると、紫の鎖はギシギシと音を立てて軋むが、簡単には解けそうになかった。


「隊長、ここは私たちが!」


 リズが剣を構えた。


「前回と同じく、叩きのめしますからっ」


 隣でララも剣を抜いている。


「待て、いったん退け! そいつは前より強くなっている!」


 叫びながら、俺はなおも全身に力を込めた。

 紫の鎖にヒビが入る。


 もう少しで砕けそうだが──、


「すみません、これ以上──自分を抑えられません!」


 言うなり、リズが突進する。


「ララ、防御はお願い!」

「任せて!」

「へえ、今のあたしの攻撃を止められるつもりなんだ?」


 ミスティが愉快げに笑う。

 左右の手に握った魔剣を、体の正面でX字に構えた。


「パワーアップしたおかげで、魔剣を使えるようになった──このあたしに」


 リズたちの復讐心は分かるが、ここは止めなければ。


 俺は全身に渾身の力を込め、鎖を引きちぎろうとする。

 だが、すでに眼前ではリズ、ララと魔獣少女との戦いが始まろうとしていた。

なろうのトップページに載ったおかげで、ふたたびジリジリとランキングが上がっているようです。感謝感謝です。

どこまで行けるか……ひきつづきがんばります!

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