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1 魔剣追跡行

 俺とウェンディの乗る馬が、街道を駆けていく。


 目指すは、オルト砦から奪われた二本の魔剣。

 それを所持していると思われる、少女の姿をした魔獣──。


 魔剣は帝国との戦いにおいて、重要なものだ。

 敵の戦力の要である『魔』についての研究材料になる。

 必ず奪還しなくてはならない。


 俺は馬をひたすらに駆けさせた。


 二馬身ほど前に、ウェンディの乗った馬が走っている。

 最初は並走していたのだが、駆けているうちに自然とこうなってしまった。


 馬を操ることに関しては、ウェンディの方が上だ。

 さすがは十代で上位の席次になるエリートである。


 少し遅れて俺もついていく。

 ウェンディは腰を浮かせ気味にして騎乗しているため、小気味よく揺れる尻のラインが目に入った。


 ……平時なら多少は気になったかもしれないが、さすがに今はそんな状況じゃない。


 とはいえ、この位置だとどうしても視界に入ってしまう。

 俺は視線をわずかに逸らし、馬を加速させた。


 ウェンディの横に並ぶ。


「隊長?」

「──急ごう」


 モタモタしていたら、魔剣を奪った魔獣少女が帝国の領土まで逃げ帰ってしまう。


「? 顔が赤くないですか、隊長」

「気のせいだ」

「あ、もしかしてボクを意識しちゃってるとか」

「部下に色目を使ってどうする」


 言いつつ、少しだけドキリとした。

 ウェンディに限らず、十二番隊の女騎士には美少女、美女が多いからな。


「ふふふ、ちなみにボクは年の差とか気にしないタイプですよ」

「冗談はそれくらいにして急ぐぞ」

「はーい」


 軽口を叩きつつも、俺たちは馬のスピードを緩めない。


 そのとき、街道脇の森から何かが飛び出してきた。

 剣のように長い牙を持った狼の群れ。


『ソードウルフ』というモンスターである。


 数は三十匹ほどだろうか。

 俺たちを獲物と認定したらしく、一直線に向かってくる。


 立ち止まっている暇はない。

 斬り捨ててさっさと進もう。

 俺は馬上で剣を抜き──、


「【ラピッドアロー】!」


 ウェンディが隣でクロスボウを構え、連続で矢を放った。

 矢を高速連続射出する弓術スキルだ。


 ソードウルフたちの大半が彼女の矢に射抜かれ、残りは悲鳴を上げて逃げていった。


 まさしく、一蹴。


「隊長はできるだけ力を温存しておいてくださいね。ああいうのはボクが仕留めますから」


 ウェンディが力強く告げた。


「隊長の強さは分かっていますけど、相手はジィド副隊長を倒した魔獣。隊長にはできるだけ万全に近い状態でいてもらいたいです」

「……助かる」


 スキルを使うと、どうしたって疲労感があるからな。

 普通の敵ならいざ知らず、相手が魔獣ならできる限り体力を温存しておくのが得策だろう。


「いえいえ~、ボクだって役に立つんだぞってところを見せますねっ」


 にっこりと笑うウェンディ。


 その後も、何度かモンスターに襲われた。

 すべてウェンディが攻撃スキルで一蹴してくれた。


 彼女は攻防にバランスが取れたタイプだ。

 一点に突出してないが、各スキルを巧みに操る。

 しかも、近距離から遠距離まで自由自在だ。


 すべてのモンスターを瞬殺してくれたおかげで、俺たちはほとんど無駄な足止めを食わず、ひたすら進むことができた。


「大した腕前だな。モンスターごとに攻撃スキルや防御スキルを使い分けて」


 とにかく、ウェンディはスキルの種類が多彩だった。

 単純な所持スキル数なら、俺の何倍もあるんじゃないだろうか。


「えへへ~。これでも騎士養成機関の第87期生の中では2位の成績で卒業したんですよ?」

「それは……すごいな」


 感心する俺。


「トップで卒業したサーシャちゃんはもっとすごいですよ」


 サーシャ・レヴェリン。

 彼女も十二番隊に所属しているが、挨拶程度の会話しかしたことがなかった。


「逸材が二人もいるわけか。十二番隊は……」

「ちょっとは見直しました?」

「ああ。もっと部下たちのことを知らないとな」


 就任して間もないとはいえ、少しずつでもみんなのことを知っていこう。


 能力も、実績も、そして人となりも──。




 俺たちはさらに駆ける。

 と、


「……見てください、隊長」


 彼女が前方を見て、言った。


 険しい表情だ。


 その理由はすぐに分かった。


 街道の先にある小さな村。

 そこから黒煙がいくつも上がっている。


「王国の村が、襲われている……!?」


 俺は馬を急がせた。

 ウェンディも続き、村に入る。


 村中が炎に包まれていた。

 あちこちから悲鳴が聞こえてくる。


 道端には、村人の死体がいくつも転がっていた。


 強烈な既視感を覚える。

 そう、俺の村が滅ぼされたときと同じ──。


「くそ、帝国の奴らめ……!」


 ぎりっ、と奥歯を噛みしめた。


「ここは俺が前に出る」

「隊長……?」

「温存しなきゃいけないのは分かっている。だけど──こんなものを見せられて、黙っていられるわけがない!」


 叫んで、俺は馬を駆けさせた。


「俺が帝国兵を駆逐する。お前は村人たちを守るために防御スキル主体で頼む。俺がカバーしきれない攻撃を防いでくれ!」


 背中越しに告げ、俺はさらに加速した。

 前方には十数人の帝国兵がいる。


「王国の騎士か!」

「殺せ殺せ!」


 威勢よく叫んで槍を構える兵たち。


 俺は剣を抜き、連続斬撃スキル【ソードラッシュ】でそいつらの腕や足を切り落とす。


「ぐぎゃぁっ!」

「あぎぃっ!」


 悲鳴を上げて崩れ落ちる兵たちの首を、容赦なく刎ね飛ばした。

 転がった首なし死体の群れを一瞥し、俺はなおも通りを駆けていく。


 帝国兵はあちこちで略奪の限りを尽くしていた。

 村人たちを殺し、金品を奪い、好き放題に暴れていた。


「やめろ!」


 俺は手当たり次第にそんな帝国兵たちを斬って捨てる。


 鎧ごと両断し、あるいは腕や足を切断し、心臓を貫き、胴体からぶった切り、首を刎ね──。


 例によって俺のスキルの威力に剣が耐えられず、折れてしまうと、兵たちから剣や槍などを奪い、とにかく斬りまくった。


 怒りに任せて殺しまくった。


 と、前方で数人の帝国兵が倒れた男に向かって剣を振り上げているのが見えた。

 距離が遠い。

 くそ、間に合わない──。


「【リアクトベール】!」


 そのとき、後方からウェンディの声が響いた。

 帝国兵たちの剣は、村人の前に現れた半透明のエネルギーの幕に弾き返される。


「守りは任せてくださいねっ」


 俺の背後からやって来たウェンディが、親指を立てて微笑む。


「よくやった、ウェンディ!」


 俺は帝国兵や村人の前までたどり着くと、剣を一閃して兵たちをすべて斬り伏せた。




 ほどなくして戦闘は終わった。


 帝国兵は全部で七十人ほどいただろうか。

 本隊ではなく、その一部が村を襲っていたようだ。


 俺とウェンディで兵を皆殺しにした。


 ……といっても、ほぼ俺が殺したんだが。


「この先に『彼女』の気配が色濃く漂っていますね」


 ウェンディはふたたび追跡スキルを使い、言った。

 確かに、魔剣の禍々しい気配をその方向から感じる。


「行くぞ」

「はい」


 俺たちはふたたび馬に乗った。


 村での戦いで時間を使ってしまった。

 今まで以上に急がなくてはならない。


 単純な損得で考えれば、わざわざ小さな村を救うために足を止めたのは、任務のためには『損』なのだろう。


 だが、後悔はない。

 あるはずがない。


 すでに多くの村人が殺されていたが、一部は救うことができたんだ。

 それだけで十分に意味がある。


 任務は全力で遂行するが、目の前で襲われている人たちを見捨てることはできないし、するつもりもない──。

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