表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

144/144

12(最終話) 続く英雄伝説

 一年後――。


「【インパルスブレード】!」


 俺の放った斬撃衝撃波が、敵兵をまとめて吹き飛ばした。


「ひ、ひいっ」

「ば、化け物だ――」


 残った敵兵が我先にと逃げ出す。


「ふうっ、これで大勢は決したな」


 俺は肩に剣を置き、ため息をついた。


 ひさびさに戦場に出たが、特に力の衰えは感じない。


 あいかわらず、俺一人で戦局を左右できそうだ。

 現に今も、数発のスキルを使うだけで敵兵の大半を掃討できた。


 味方の被害はゼロ。


「敵は浮足立っている。この機を逃すな! 全軍、俺に続け!」


 声を張り上げる俺。


 馬を駆けさせて追討を開始する。


 ――俺は、ミランシア王国の騎士に復帰していた。

 現在の職務は二番隊の隊長である。


 一番隊の隊長であり、総隊長も務めるリーザの補佐だった。


 ただ、彼女の意向もあり、近いうちに総隊長は俺になりそうだ、ということだった。


 まあ、今回の任務も総隊長になるにあたって、箔をつけるために戦功を上げさせようということだろうか。


 ガイアスとの戦いは終わっても、戦争の火種は消えない。

 現在のミランシアは、以前から関係が悪化していたランベール帝国と戦争状態に突入しようとしていた。


「さすがだな、マリウス」


 リーザが駆け寄ってきた。


「あいかわらず、たった一人で戦争を勝利に導く男だ、君は」

「俺一人で勝てば、自軍の被害はないからな」


 俺は真顔で言った。


 方針は変わらない。


 俺が最前線に出て、敵を片っ端から殺しまくる。

 味方には、いっさい手を出させない――。


 極端といえば、これほど極端な戦い方はないだろう。


「あいつは己を過信しすぎている」


 そんな声が宮廷内外にあることも知っている。


 だが、かまわない。

 俺は周囲の誰も傷つけられないよう、死なないよう、最善を尽くすだけだ。


「……私たちの間では、君は軍神だよ」


 リーザが言った。


「いろいろな意見があるし、君をよく思わない者もいるかもしれない。だけど、戦場でともに戦う私たちは――君を頼もしく思っているし、感謝している」

「リーザ……」

「君のおかげで、多くの命が救われている」

「なんだ、慰めてくれたのか?」


 俺は冗談めかして言った。

 こんなふうに軽口を叩ける相手も、リーザとルーク、あとはドロテアくらいだ。


「君に慰めは不要だろう? 君は――強いよ、マリウス」


 リーザが笑みを深くする。


「私では、もはや君の強さについていけない」


 その顔は少し寂しげだった。


「リーザ……」

「……いや、なんでもない。行こうか。まだ敵はいるかもしれない。油断せずに進もう」

「当然だ」


 俺たちは馬を並べ、進んでいく。


「やっぱり俺が先行しよう」


 と、馬を早足にさせた。


「――分かった」


 リーザは素直にうなずき、馬の歩調を落とす。


 彼女の強さを信頼しないわけじゃない。


 それでも――俺は一人で前に出る。

 これから先も、一人で戦局を切り開き、みんなを守る。


 守り続ける――。




 ランベールとの戦いを終え、俺は王都に戻ってきた。


 今の俺は、王都でメルと二人暮らしだ。


 人間と同じ姿、肉体を持っているとはいえ、彼女は『人』ではない。

 あまり俺以外の人間と接しようとしないのが、悩みどころだった。


 俺としては、メルにも人間と同じような人生を送ってほしいと思っている。




「おかえりなさい、おじさん」


 メイド服姿のメルが俺を出迎えた。


 この格好は彼女の趣味である。

 まあ、俺の身の回りのことや家事なんかをしてくれているから、その意味もあってメイド服なんだろう。


「ただいま、メル」


 俺は彼女を軽く抱きしめる。


 メルは伸びあがって、俺の頬にキスをした。

 いつものように。


「帰って早々だが、明日にはまた別の戦場に出立だ」

「えっ、そんな――」

「悪いな、ゆっくりできなくて」

「……ううん。おじさん、気を付けてね」


 メルがもう一度俺の頬にキスをした。


 最初は――帝国との戦争を終えた後は、平和に、穏やかに暮らしていこうと思っていた。

 だけど、できなかった。


 夜、眠ると――目を閉じると、あの日の光景が浮かんでくる。


 メルや妹夫婦を、村を焼かれた日。

 それを為した帝国兵たちを皆殺しにしたこと。


 その後の戦争の記憶。


 もはや、それ以前の――平和な日々が思い出せなくなっていた。

 結局、俺が生きられる場所は戦場なのかもしれない。




『お前は、戦いの中でしか生きられない……分かるか……? 今のお前は、悪鬼の表情をしている……』

『魔神をも屠る人間とは……もはや、魔神と変わらない……から……な……』




 ゼイヴァの言葉の意味を、今でも毎日のように噛み締める。


 それでも、俺は戦いの中で。

 それでも、いつか穏やかな日が来ることを願って。


 その日が来るまで、剣を振るい続ける――。


               【完】

これにて本編完結となります。ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

また別のお話でお会いできましたら幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ちょっと物悲しいね でもいいオチだと思う
[良い点] 全て [気になる点] 無し [一言] 二年間ずっと読んでおりました! ほんっとに面白かったです! 最後の締めくくりもとても上手いですね! 他作品も読ませてもらっています! これからも頑張っ…
[良い点] 完結お疲れ様でした!楽しく読ませてもらいました!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ