9 際限なきエスカレート
ゼイヴァは翼を畳んで地面に降り立った。
「お互いに飛び道具では埒が明かないな。接近戦で決着をつけてやろう」
「……望むところだ」
むしろ、飛び道具では相手に分があるかもしれない。
接近戦なら、俺はレベル600オーバーの身体能力をフルに発揮できる。
一発逆転がある飛び道具系の技より、接近戦の方が実力差が反映されやすくなるはずだ。
「おおおおおおおおおおっ!」
雄たけびとともに、俺たちは同時に突進する。
「【ライトニングブレード】!」
光速の剣技で斬りかかるが、奴もまた光速の動きで対応する。
「【ブラストブレード】!」
ならば一転してパワー系のスキルで斬撃を放つが、こちらもゼイヴァは素のパワーで俺と渡り合った。
そのまま十合、二十合、三十合――。
おおよそ百合ほど打ち合ったところで、俺たちはいったん離れる。
「強い――」
息を飲んだ。
パワーやスピードを増大させる系統のスキルを使って戦っているから、どうにか互角だが、素の運動能力なら俺より奴が上だろう。
「接近戦では敵わないと悟ったか? だが飛び道具での戦いなら、ますます勝ち目はないぞ」
「……そうでもないさ」
ゼイヴァのつぶやきに俺は答えた。
「帝国との決戦の最中、俺は【神聖界】に迷いこんだ。そこで【最高神】からもう一つのスキルを授かった――」
ヴァイツやルシオラ相手でさえ、使う機会はなかったが――。
使うとしたら、ここだろう。
【破軍竜滅斬】をも超える最強のスキルを。
「もう一つのスキル? ハッタリか……いや、お前はそんな男ではなさそうだ」
ゼイヴァが俺をにらむ。
「いいだろう、受けてやる」
「こいつを撃つと俺自身の消耗も激しい。だが、ここまでの戦いで確信した。この技なら――お前を倒せると」
右手に長剣を、左手に槍をそれぞれ召喚する。
「【破軍火焔翼】!」
右手の剣を振るって、魔神ジゼルグが得意としていた火炎の斬撃を。
「【破軍海槍破】!」
左手の槍を突き出し、魔神ガラードの奥義である流水の槍撃を。
二つの攻撃エネルギーは空中で重なり、より巨大なエネルギーへと融合する。
「融合スキル――【破軍神撃斬】」
俺は静かにつぶやいた。
そして、そのまま突き進んだ。
「二つの破軍スキルを合体させた――!?」
ゼイヴァが驚愕の声を漏らす。
「消えろ、魔神!」
赤青二色の斬撃衝撃波が、最強の魔神へと向かっていく。
――空一面を、まばゆい爆光が染め上げた。
「ふうっ」
俺はゆっくりと息を吐き出した。
さすがに今のは効いただろう。
並の魔神なら跡形もなく吹き飛んでいるはずだが、相手はゼイヴァである。
どの程度までダメージを受けたか……。
爆光が晴れると、ゼイヴァが姿を現した。
「やはり、今のでも――」
俺の最強スキルにさえ耐えられるのか。
とはいえ、さすがにボロボロのようだ。
「ただ、俺も消耗しているのは同じか」
すぐに決着をつけてやる――。