1 最後の戦い
あれから三か月が経った。
――今日から、いよいよ最後の戦いが始まる。
その出立の日である。
「がんばろうね、おじさん」
家を出るときに、メルが俺の側に寄り添った。
人間と同じ姿を持ち、同じ肉を備えた彼女だが、正体はスキルの『導く者』だ。
敵兵の弓や刃などでは死なない。
だからこそ、今度の戦いでも最後まで俺の側にいてくれるだろう。
「ああ、気を抜くことはしない。まだ帝国には何体も魔神が備えているはずだからな」
「生きて、帰ってこよう」
メルが俺に抱き着いた。
「……ああ、必ずだ」
この家に、帰ってくる。
家族である、メルとともに。
俺たち聖竜騎士団を含む、王国の精鋭騎士団が進軍を開始した。
今回は帝国本土に乗り込む大規模な決戦だ。
この三か月の間に、何度かの戦いはあった。
そのすべてにミランシアは勝利している。
俺が最前線に出て、帝国を蹴散らし続けたのだ。
もちろん、リーザやルークといった主要な戦力も鬼神のような活躍を見せていた。
帝国本土に向かって橋頭保を築き、戦い、さらなる橋頭保を築き――。
ついに帝都まで進撃する作戦を実行する段階に来た。
「ここまで来たな。戦争を終わらせる――そのために俺は剣を振るってきた」
あの日の記憶が脳裏をよぎった。
帝国軍によって焼かれた村。
犠牲になった村人たち。
そして残酷に殺された妹夫婦とメル……。
「お前たちの無念を晴らすぞ……!」
それだけじゃない。
俺が騎士団と出会ってから、戦いで殺されていった騎士たち……。
「お前たちの分まで、俺が戦う……見ていてくれ」
剣を抜き、告げる。
それは俺の宣誓だ。
一週間ほどの行程を経て、俺たちは帝都の前にそびえる小高い丘に上がった。
そこから帝都を見下ろす。
前方には巨大な門がある。
まずこれを破壊した上で、全軍で進撃する――。
「【破軍竜滅斬】!」
俺が放った一撃が、門を粉々に吹き飛ばした。
「全軍、進め!」
号令しつつ、俺は真っ先に丘を下り始めた。
全軍の最前列を駆けていく。
もはや恒例となりつつある単騎駆けである。
帝国との最終決戦、なんとか自軍の死傷者を出さずに終えたい。
夢物語のような望みだが、今の俺なら不可能じゃない。
だから――俺はさらに加速した。
味方が付いてこられないくらいに。
味方が追い付いたときには、俺がすべて片付けておこうと。
ほどなくして、敵軍から大量の矢が射かけられた。
いよいよ敵の攻撃射程に入ったのだ。
「矢で俺を殺せると思うなよ」
まず防御スキルの【リアクトアーマー】をかける。
レベル500辺りを超えてから取得した最上級の防御スキルだ。
放たれた数千の矢のうち、少なくとも数百本が俺に降り注ぐ。
そのすべてが【リアクトアーマー】にはじき返された。
当然、俺は無傷だ。
スキルの効果範囲に馬も入っているため、こちらも無傷。
以前は剣で矢を斬り払っていたのだが、これだと敵に強力な遠距離攻撃を持っている奴がいた場合、攻撃直後の硬直状態を狙われるリスクがある。
だが、このスキルなら硬直状態など生じない。
降り注ぐ矢はスキルで防御し、ひたすら距離を詰めることができた。
俺は機動力をまったく削がれることなく、敵の最前列へと迫る。
「ひ、ひいっ」
「矢が効かない!?」
「ええい、相手は一人だ! 殺せ!」
「だ、だけど、あいつは魔神を何体も殺した――」
「王国の白い鬼神――」
へえ、そんな二つ名をつけられているのか。
まあ、帝国にどう呼ばれていようと関心はない。
「さあ、皆殺しの時間だ」
俺は剣を掲げた。
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