13 魔神ルシオラ
「【時空断裂】」
ルシオラが片手をかざした。
「――!」
嫌な予感を察知して、その場を離れる俺。
刹那、今まで立っていた空間に黒い亀裂が走った。
「これは……」
「その名の通り空間を裂いたのだ」
ルシオラが平然と告げた。
「私の力は『時空を制御する』こと。空間を斬ることも、時間を戻して治療や回復することもできる」
とんでもないことを平然と言い放つルシオラ。
なら、厄介なスキルをこれ以上使われる前に、一気に決着をつける――。
「【ソニックムーブ】!」
俺は音速で駆け抜けた。
さっきヴァイツを倒したことで大量の経験値を得ることができた。
さらにレベルが上がり、すでに550に迫っている。
「速い――!」
「お前たちとの戦いで成長させてもらったんだ!」
叫んで剣を振り下ろす俺。
「くっ……!」
ルシオラは腰のショートソードを抜いて応戦した。
ぎっ、ぎぎぃっ!
互いの刃がぶつかり、かみ合い、軋んだ金属音を鳴らす。
俺は力任せに押し込んだ。
この決戦が始まる前――魔神三体を倒す前の俺なら、ルシオラとの鍔迫り合いはよくて互角、おそらくは競り負けていただろう。
ルシオラからは、細腕に似合わぬすさまじいパワーを感じるからだ。
だけど、先にヴァイツたちとの戦いを経験できたことで、戦局はまったく違うものになった。
今や俺のパワーは魔神をも上回っている。
ならば小細工を弄さず、力押しで一気に仕留める――。
「スキルを使う余裕は与えない!」
「押しこまれる――こいつ、私の想定を上回るパワーだ……!」
ルシオラの表情が歪んだ。
「成長、しているというのか……」
「どこまでも強くなる……加速的に! それが俺の力だ!」
俺は怒涛の攻めを展開した。
「お前を殺し、さらなる力を手に入れる。敵を殺し尽くすために! 戦いをすべて終わらせるために!」
剣を繰り出す。
叩きこむ。
打ちつける。
突く、薙ぐ、払う。
攻撃に次ぐ攻撃――。
俺は、相手に反撃の暇をいっさい与えない。
いや、息をする暇さえも与えない!
「はああああああああああああああっ!」
気合いとともに繰り出した一撃が、ルシオラの右腕を斬り飛ばした。
「お、おのれ――ぐうっ!?」
返す刀で左腕も斬り飛ばす。
「――ここまで、か」
両腕を失ったルシオラは立ち尽くした。
秀麗な美貌に諦めの色が浮かぶ。
俺との力の差に戦意を失ったか。
「これほどまでに力をつけていたとは……いや、そうか。お前はヴァイツたちを倒したことで力を上げたのだな。私の想定が追い付かないほどに、はるかに強く……」
力ない声とともにルシオラがうなだれる。
「ミスティ、私も……今、お前のところに――」
「ミスティ?」
それは以前、俺が倒した魔獣少女のことだろうか?
ルシオラとミスティになんの関係があるんだろうか。
いや、そういえばミスティと戦ったときに、彼女がルシオラの名前を口にしたような気もする――が、思い出せない。
どちらにせよ、迷う理由はない。
戦場で、躊躇する理由はないんだ。
ルシオラには、他の魔神たちのような邪気は感じなかった。
人間への殺意や破壊衝動みたいなものも感じなかった。
少し異質な感じがする魔神だ。
だからといって、見逃すとか同情するとか――そんな歩み寄りはあり得ない。
殺すだけだ。
「――何か言い残すことは?」
俺はルシオラにたずねた。
なぜそんなことを聞いたのか、自分でも分からない。
ただ、彼女の――瞳の奥に宿る光に悲しさを感じたからかもしれない。
他の魔神は人間を見下し、ただ殺すために襲ってきた。
けど、ルシオラだけは少し違うように感じた。
魔神といっても、ひとくくりにはできないのか。
あるいは俺がただそう感じただけで、単なる気のせいなのか。
「ないな。私は敗れた。敗者はただ滅びるのみ」
ルシオラが俺を見つめる。
すべてを諦めたような顔で。
「さあ、殺せ。お前たちはとうとう魔神をも滅ぼす力を得た、ということだろう」
「……覚悟」
俺は剣を手に、ルシオラに歩み寄った。
「【パワーブレード】」
一閃。
剛力の剣術スキルによって、ルシオラの首を刎ね飛ばした。
今度こそ、戦場に派遣された魔神は全滅だ。
「四体目の魔神も討ち取った! もはや恐れる者はない!」
俺は戦場全体に聞こえるように叫ぶ。
「全軍、俺に続け! 帝国を掃討する! 完膚なきまでに! そして王国に勝利を!」
「王国に勝利を!」
歓声と雄たけびがあちこちから上がる。
士気は最高潮だ。
この戦い――もはや雌雄は決した。
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