6 オルト砦攻略戦2
いつも感想ありがとうございます。返信が全然間に合ってなくて心苦しいのですが、すべてありがたく読ませていただいています。とても励みになっています!
おおおおおおおおおおおおおっ!
背後から鬨の声が上がった。
俺が砦の内部に入ったのを見て、後方待機していた他の騎士たちが突撃を開始したようだ。
そっちの指揮はジィドさんにお願いしてあった。
キャリア豊富な人だし、全面的に任せて大丈夫だろう。
俺は俺で、敵陣をさらに切り崩すことに専念しよう。
血まみれの剣を手に、砦の内部を進む。
「う、うわぁっ……!」
「化け物だぁ……!」
帝国の騎士や兵はおびえた顔で後ずさった。
だが、容赦はしない。
「お前たちは──そうやっておびえた村人を皆殺しにしたよな?」
剣を振り上げた。
「【ソードラッシュ】!」
ふたたび連続斬撃スキルを放つ。
周囲の帝国兵を十人まとめて切り刻んだ。
ばきん、と音がして、俺の剣がへし折れる。
スキルの威力に剣が耐えきれなかったか。
「奴は得物を失ったぞ!」
「今だ、囲め!」
たちまち勢いを取り戻す騎士や兵士たち。
四方から剣を突きつけられた。
「みんなの仇だ」
「楽には殺さんぞ、おっさん」
「どうした。命乞いしてみろよ、おらっ」
形勢逆転したと思っているのか、どいつもこいつも威勢がいい。
「【ソニックフィスト】」
俺は格闘スキルを発動した。
音速移動からの拳撃を放つ複合技だ。
突きつけられた剣先の一つを掌底で払いのけ、そのまま超速で突進する。
奴らの誰一人として、その速度に反応できない。
手近の五人を拳で殴り飛ばした。
「ぐあっ……」
顔面や鎧を陥没させて吹っ飛ぶそいつらを一瞥し、俺は振り返りざまにさらに【ラピッドブロー】を発動。
「ぐっ!?」
「ぎゃあっ!?」
周囲の兵や騎士を片っ端から殴り殺していく。
「ば、馬鹿な!?」
「駄目だ、こいつ──素手でも化け物だぁっ!」
帝国兵や騎士たちは今度こそパニック状態になった。
俺は足元の死体のいくつかから剣を三本奪い、適当に剣帯に挟んだ。
スキルに剣がどこまで耐えられるか分からないし、二本は予備である。
これでも足りなければ、また新たに殺した敵から奪い取るとしよう。
「【ソードラッシュ】!」
右手で剣を振るい、手近の敵を斬殺。
「【パワーナックル】!」
左手では格闘スキルを発動して、斬り殺し損ねた者たちを殴り殺す。
響き渡る、悲鳴と苦鳴。
飛び散る血しぶきと肉片。
剣と拳で周囲を薙ぎ払いながら、俺はさらに前進した。
砦の中央部まで進んだところで、二つのシルエットが立ちはだかった。
俺の進路沿いにいた敵はほぼ全員が逃げ惑っていたが、こいつらは違うようだ。
むしろ、俺を待ち受けていたような様子。
ともに二十代前半くらいの騎士たちだった。
一人は柔和な顔の青年で、もう一人は派手な顔立ちの美女である。
「ここから先は通しませんよ、王国の騎士隊長さん」
「調子に乗るのもそこまでね。あたしは帝国の上級騎士コーネリア。こっちはラチェット。ここであんたを討つ!」
「上級騎士……?」
確か、帝国で七人の猛将に次ぐ力と地位を備えた、七十七人の精鋭のことだ。
つまりは、あのグリムワルドに準ずる力を持っている、ってことか。
二人は、それぞれ巨大な剣を携えていた。
薄緑色の刀身が禍々しいオーラを放っている。
「ラ・ヴィムの遺跡から発掘した『魔剣』──いかにあなたが強くても、その力には敵いますまい」
「戦闘能力の高さにうぬぼれたようね。力押ししかできない猪武者なんて、いくらでも殺しようがあるのよ。こうして備えさえしていれば」
二人は魔剣とやらを構えた。
「備え、だと?」
「王国はいずれこの砦に精鋭を派遣することは予測できました。ですから皇帝陛下は貴重な魔剣を二本も持たせたのです、我々に」
「グリムワルド様を討った騎士だろうと魔剣には勝てない! さあ、殺してあげるわ!」
俺は剣を手に前進した。
「相手が誰だろうと、武器がなんだろうと叩き潰すのみだ」
「魔剣スキル──【戒めの鎖】」
ラチェットが俺に魔剣を向ける。
その切っ先から紫色のエネルギーの鎖が飛び出した。
「何っ……!?」
斬り払おうとしたが、鎖は刃をすり抜けて俺の四肢に絡みつく。
「体が……!?」
重い。
全身が鉛になったように、異常に四肢が重い。
「身体能力を低下させる魔剣固有スキルですよ。【闇】の属性を帯びたスキルは、通常のスキルでは絶対に解けません」
勝ち誇るラチェット。
「動きが鈍れば、さすがのあんたも並の騎士に成り下がる。さあ、切り刻んであげるわ」
コーネリアが魔剣の刃を舌で舐めると、斬りかかってきた。
「死になさい! 魔剣スキル──【死の刃舞】!」
八方から襲いかかる高速連続斬撃。
確かに速いが、普段の俺なら見切れない攻撃じゃない。
斬撃の軌道ははっきり見えている。
だが、両腕が重すぎて防御が間に合わない。
「こいつら──」
俺はぎりっと歯ぎしりをした。
勝てるはずの相手に、対抗できない悔しさと歯がゆさ。
魔剣の刃が俺の胸元に撃ちこまれる──。
「こんなところで……!」
俺はカッと両目を見開いた。
殺されて、たまるか。
村を襲った帝国兵は皆殺しにした。
だが俺の気持ちはそれで満たされたわけじゃない。
納得したわけでもない。
帝国の連中を、まだまだ殺し足りない。
帝国との戦争が終わるまで──まだまだ戦い足りない。
だから、俺は、
「こんなところで、終わってたまるか!」
叫ぶ。
全身の血が逆流し、沸騰するような感覚があった。
体中が熱い。
煮えたぎるようだ。
同時に、力があふれてくる感覚が生じた。
俺の四肢に絡みついていた紫の鎖が跡形もなく吹き飛ぶ。
次の瞬間、まばゆい光があふれた。
「何よ、これは──!?」
驚いたように後退するコーネリア。
光は、はるか遠方からここを照らし出しているようだ。
方角は、砦のはるか向こう。
山を越えた先から、光の柱が立ち上っていた。
一体、どういう現象なのか。
俺の全身からあふれてくる力と関係があるのか、ないのか。
不思議に思ったのは一瞬だった。
すぐに思考を目の前の戦いに切り替える。
四肢の重みはすでに消えていた。
「動く! これなら──」
突進する俺。
「お、おのれ……」
コーネリアの斬撃を、かいくぐるようにして避けた。
すれ違いざまに剣を繰り出す。
「ぎ……ぁっ……!」
一閃。
彼女の首は俺の斬撃によって刎ね飛ばされた。
「コーネリアさん! おのれぇっ!」
ラチェットが怒りの叫びをあげて斬りかかる。
が、本来の動きを取り戻した俺に、その攻撃はスローすぎた。
やすやすと受け止め、押し返し、肩口から斜めに斬り伏せる。
「っ……!」
悲鳴すら上げられずに、ラチェットは倒れた。
いちおう首を刎ね飛ばしてとどめを差しておく。
「馬鹿な!? 魔剣使いの上級騎士様たちが──」
戦いを遠巻きに見ていた敵兵や騎士たちが叫んだ。
砦内のパニックは最高潮に達したようだ。
恐怖に逃げ出す者。
嗚咽する者。
震えて動けなくなる者。
反応は様々だが、俺に向かってくる者は皆無だった。
この時点で勝負ありだった。
砦内の帝国兵や騎士たちはすでに戦意を失っていた。
砦の外に出て、十二番隊の本隊を迎え撃った連中にもその恐慌はすぐに伝わり、敵軍は完全に崩壊。
ほどなくして敗走していった。
オルト砦奪還完了である。
こちらの被害はほぼゼロ。
俺の隊長としての初陣は鮮烈な圧勝で幕を閉じた──。