表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/144

6 オルト砦攻略戦2

いつも感想ありがとうございます。返信が全然間に合ってなくて心苦しいのですが、すべてありがたく読ませていただいています。とても励みになっています!

 おおおおおおおおおおおおおっ!


 背後から(とき)の声が上がった。

 俺が砦の内部に入ったのを見て、後方待機していた他の騎士たちが突撃を開始したようだ。


 そっちの指揮はジィドさんにお願いしてあった。

 キャリア豊富な人だし、全面的に任せて大丈夫だろう。


 俺は俺で、敵陣をさらに切り崩すことに専念しよう。


 血まみれの剣を手に、砦の内部を進む。


「う、うわぁっ……!」

「化け物だぁ……!」


 帝国の騎士や兵はおびえた顔で後ずさった。


 だが、容赦はしない。


「お前たちは──そうやっておびえた村人を皆殺しにしたよな?」


 剣を振り上げた。


「【ソードラッシュ】!」


 ふたたび連続斬撃スキルを放つ。

 周囲の帝国兵を十人まとめて切り刻んだ。


 ばきん、と音がして、俺の剣がへし折れる。

 スキルの威力に剣が耐えきれなかったか。


「奴は得物を失ったぞ!」

「今だ、囲め!」


 たちまち勢いを取り戻す騎士や兵士たち。

 四方から剣を突きつけられた。


「みんなの仇だ」

「楽には殺さんぞ、おっさん」

「どうした。命乞いしてみろよ、おらっ」


 形勢逆転したと思っているのか、どいつもこいつも威勢がいい。


「【ソニックフィスト】」


 俺は格闘スキルを発動した。


 音速移動からの拳撃を放つ複合技だ。

 突きつけられた剣先の一つを掌底で払いのけ、そのまま超速で突進する。


 奴らの誰一人として、その速度に反応できない。

 手近の五人を拳で殴り飛ばした。


「ぐあっ……」


 顔面や鎧を陥没させて吹っ飛ぶそいつらを一瞥し、俺は振り返りざまにさらに【ラピッドブロー】を発動。


「ぐっ!?」

「ぎゃあっ!?」


 周囲の兵や騎士を片っ端から殴り殺していく。


「ば、馬鹿な!?」

「駄目だ、こいつ──素手でも化け物だぁっ!」


 帝国兵や騎士たちは今度こそパニック状態になった。


 俺は足元の死体のいくつかから剣を三本奪い、適当に剣帯に挟んだ。

 スキルに剣がどこまで耐えられるか分からないし、二本は予備である。

 これでも足りなければ、また新たに殺した敵から奪い取るとしよう。


「【ソードラッシュ】!」


 右手で剣を振るい、手近の敵を斬殺。


「【パワーナックル】!」


 左手では格闘スキルを発動して、斬り殺し損ねた者たちを殴り殺す。


 響き渡る、悲鳴と苦鳴。

 飛び散る血しぶきと肉片。


 剣と拳で周囲を薙ぎ払いながら、俺はさらに前進した。




 砦の中央部まで進んだところで、二つのシルエットが立ちはだかった。


 俺の進路沿いにいた敵はほぼ全員が逃げ惑っていたが、こいつらは違うようだ。

 むしろ、俺を待ち受けていたような様子。


 ともに二十代前半くらいの騎士たちだった。

 一人は柔和な顔の青年で、もう一人は派手な顔立ちの美女である。


「ここから先は通しませんよ、王国の騎士隊長さん」

「調子に乗るのもそこまでね。あたしは帝国の上級騎士コーネリア。こっちはラチェット。ここであんたを討つ!」

「上級騎士……?」


 確か、帝国で七人の猛将に次ぐ力と地位を備えた、七十七人の精鋭のことだ。

 つまりは、あのグリムワルドに準ずる力を持っている、ってことか。


 二人は、それぞれ巨大な剣を携えていた。

 薄緑色の刀身が禍々しいオーラを放っている。


「ラ・ヴィムの遺跡から発掘した『魔剣』──いかにあなたが強くても、その力には敵いますまい」

「戦闘能力の高さにうぬぼれたようね。力押ししかできない猪武者なんて、いくらでも殺しようがあるのよ。こうして備えさえしていれば」


 二人は魔剣とやらを構えた。


「備え、だと?」

「王国はいずれこの砦に精鋭を派遣することは予測できました。ですから皇帝陛下は貴重な魔剣を二本も持たせたのです、我々に」

「グリムワルド様を討った騎士だろうと魔剣には勝てない! さあ、殺してあげるわ!」


 俺は剣を手に前進した。


「相手が誰だろうと、武器がなんだろうと叩き潰すのみだ」

「魔剣スキル──【戒めの鎖】」


 ラチェットが俺に魔剣を向ける。

 その切っ先から紫色のエネルギーの鎖が飛び出した。


「何っ……!?」


 斬り払おうとしたが、鎖は刃をすり抜けて俺の四肢に絡みつく。


「体が……!?」


 重い。

 全身が鉛になったように、異常に四肢が重い。


「身体能力を低下させる魔剣固有スキルですよ。【闇】の属性を帯びたスキルは、通常のスキルでは絶対に解けません」


 勝ち誇るラチェット。


「動きが鈍れば、さすがのあんたも並の騎士に成り下がる。さあ、切り刻んであげるわ」


 コーネリアが魔剣の刃を舌で舐めると、斬りかかってきた。


「死になさい! 魔剣スキル──【死の刃舞(じんぶ)】!」


 八方から襲いかかる高速連続斬撃。


 確かに速いが、普段の俺なら見切れない攻撃じゃない。

 斬撃の軌道ははっきり見えている。


 だが、両腕が重すぎて防御が間に合わない。


「こいつら──」


 俺はぎりっと歯ぎしりをした。


 勝てるはずの相手に、対抗できない悔しさと歯がゆさ。

 魔剣の刃が俺の胸元に撃ちこまれる──。


「こんなところで……!」


 俺はカッと両目を見開いた。


 殺されて、たまるか。


 村を襲った帝国兵は皆殺しにした。

 だが俺の気持ちはそれで満たされたわけじゃない。

 納得したわけでもない。


 帝国の連中を、まだまだ殺し足りない。

 帝国との戦争が終わるまで──まだまだ戦い足りない。


 だから、俺は、


「こんなところで、終わってたまるか!」


 叫ぶ。


 全身の血が逆流し、沸騰するような感覚があった。


 体中が熱い。

 煮えたぎるようだ。


 同時に、力があふれてくる感覚が生じた。


 俺の四肢に絡みついていた紫の鎖が跡形もなく吹き飛ぶ。




 次の瞬間、まばゆい光があふれた。




「何よ、これは──!?」


 驚いたように後退するコーネリア。


 光は、はるか遠方からここを照らし出しているようだ。


 方角は、砦のはるか向こう。

 山を越えた先から、光の柱が立ち上っていた。


 一体、どういう現象なのか。


 俺の全身からあふれてくる力と関係があるのか、ないのか。

 不思議に思ったのは一瞬だった。


 すぐに思考を目の前の戦いに切り替える。

 四肢の重みはすでに消えていた。


「動く! これなら──」


 突進する俺。


「お、おのれ……」


 コーネリアの斬撃を、かいくぐるようにして避けた。

 すれ違いざまに剣を繰り出す。


「ぎ……ぁっ……!」


 一閃。

 彼女の首は俺の斬撃によって刎ね飛ばされた。


「コーネリアさん! おのれぇっ!」


 ラチェットが怒りの叫びをあげて斬りかかる。

 が、本来の動きを取り戻した俺に、その攻撃はスローすぎた。


 やすやすと受け止め、押し返し、肩口から斜めに斬り伏せる。


「っ……!」


 悲鳴すら上げられずに、ラチェットは倒れた。

 いちおう首を刎ね飛ばしてとどめを差しておく。


「馬鹿な!? 魔剣使いの上級騎士様たちが──」


 戦いを遠巻きに見ていた敵兵や騎士たちが叫んだ。

 砦内のパニックは最高潮に達したようだ。


 恐怖に逃げ出す者。

 嗚咽する者。

 震えて動けなくなる者。


 反応は様々だが、俺に向かってくる者は皆無だった。




 この時点で勝負ありだった。


 砦内の帝国兵や騎士たちはすでに戦意を失っていた。

 砦の外に出て、十二番隊の本隊を迎え撃った連中にもその恐慌はすぐに伝わり、敵軍は完全に崩壊。

 ほどなくして敗走していった。


 オルト砦奪還完了である。


 こちらの被害はほぼゼロ。


 俺の隊長としての初陣は鮮烈な圧勝で幕を閉じた──。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ